福岡航太朗初段の心の一局(4)「素晴らしい勝負根性」
実戦図
福岡先生「黒109に行って、白がウスいので、このときはまだ黒がいいかなと思ってたのですが、意外にそこまでウスくなかった」
実戦図
福岡先生「白118まで、ピッタリはまっちゃったんで、白ちょっといいかなと」
聞き手「気持ち的には、こうなって焦りとかなかったですか」
福岡先生「ここらへんはちょっと悪い手で焦ってました。ちゃんと打ってればと。ちょっと手順のミスです」
聞き手「ここらへんで白はアジがよくないですもんね。効きスジを残して、先に打ったほうがよかった、ということですね」
福岡先生「このときは、盤面で足りないぐらいでした」
実戦図 黒127
福岡先生「ここがハイライトのところです」
福岡先生「このままでは少し白有望かなと、このままじゃダメかなと思って、これで」
聞き手「ここは一回待って、今は行くときなんですね。素晴らしい勝根性ですね」
実戦図
福岡先生「ここまで、黒は左辺から左上隅に結構地ができて、白の左辺は小さくなったので、かなり細かくなったかなと」
聞き手「相手も勝てば入段ですか」
福岡先生「相手は、なにもなかったです」
聞き手「(対戦相手が)自分に勝って入段されたら悔しいから頑張ってるってことですか」
聞き手「まだいっぱい打つ場所があってわかんないんですけど、計算はできてるんですか。計算は得意な方ですか」
福岡先生「計算は…まぁ嫌いな方ではないのですが、そこまで好きではないです」
参加者「ここまでであと何分ぐらい残ってましたか」
福岡先生「僕はブツカった(121手目)ぐらいから秒読みで、相手はまだ結構残っていました。1時間ぐらいです」
福岡先生「白144と打ったのは、勝ったと思ったのかはわかりませんが、黒145でよくなりました」
参考図41
福岡先生「いまは、白から打つと、参考図41の白Aから、白1のヌキが先手になるんです。つぎにキリがあるので黒2とツイで、さらにハネもあるので黒4となったあと、(イ)や(ロ)にヨセがのこります」
聞き手「で、何目ぐらいですか」
福岡先生「これだと、15目ぐらいでしょうか。△の石がなくても、そのぐらいはあります。これはもう序盤から大きいところなので、すぐにでも打ちたいところです」
参考図42
福岡先生「実戦は、白144(白△)とウケたのですが、ここで黒145(黒△)のサガリが大きくて、こうなると少し黒が優勢です。黒はヨセる場所が多く、勝ちかなと」
参考図43
福岡先生「白は、参考図43の白1とアテて、黒としては左辺の白石を取れればいいのですが、黒2とツケても、白3で生きているので、これだと白が少しアツかった」
参考図44
福岡先生「振り返って黒145で参考図44の黒Aとし白B、黒Cとハネたとき、白が手を抜くと、ちょっとウッテガエシみたいで怖いのですが、白6といったときに、黒は黒1のトリあとに打って白△をとれます」
聞き手「これで、隅の白は死んでますね」
参考図45
福岡先生「黒は、参考図の黒149(黒△)と白150(白△)の交換を決めるまえに、Aとハネておけばよかった」
総譜151~224
洪先生「黒151からのヨセに回っては良くなりました。焦らず一つ一つ決めて勝利を決めました。入段を決めるとても大事な一局でただ最善を尽くそうと思いました。世界一になれるよう精一杯努力します」
実戦図
福岡先生「実戦図の黒151とハネて、ここもすごく大きいところでした」
実戦図
聞き手「ここで、勝ちだとおもったのですか」
福岡先生「ハッキリ計算はできてなかったのですが、少しいいかなと思っていました」
参加者「計算は、コツとかあるのですか。計算が苦手という人が多いと思うのですが、どうやって数えていますか」
福岡先生「僕は1つ1つではなく、2つずつ数えています。形がきまっているところは、ひと目で10目というように数えて、中央黒石のようなところは、8目か7目で決まるので、以前は、1つ1つ数えていましたが大変なので、最近は2つずつ数えています」
参加者「部分部分で数えて、あとで足すのですか、それとも全部一気に数えるのですか」
福岡先生「僕は全体を一気に数えます。だいたい計算するときは2度ぐらい計算しています。1目間違えることもあるので、最初から計算します」
参加者「60秒で2回数える余裕があるのですか?僕は1回でも一生懸命です(笑)」
福岡先生「2回は、急げばできます」
参加者「場所ごとにだいたい頭に入れてあるのではないですか」
福岡先生「いや~、それはしてないです」
参加者「通して数えるんだ」
参加者「因みに平田先生はどう数えるんですか」
平田先生「僕も全部通して数えます。足し算、できないんで(笑) 1つずつ数えますね」
参考図46
参加者「例えば、(参考図46)中央で生きている黒石は、何目と数えるのですか」
福岡先生「△は全部白の権利だとして、最低7目ある、と計算します」
参加者「だいたい先手でキメられたとして計算しているのですね」
福岡先生「8の九のところは、黒からも効くので、この1目は計算しません」
参加者「右上隅の黒からのサガリはかなり早い段階から打とうとされてたのですが、何目ぐらいの手ですか?」
参考図47
聞き手「因みに、黒サガッたあとの白△は何目ぐらいですか」
聞き手「白からさらに1とハネたら、どうやって受けるのが正しいですか」
福岡先生「黒2です」
参考図48
聞き手「白△がある場合はAは何目ですか」
福岡先生「黒から、4目と3分の2です。そのあと白Bは3目と3分の1です」
聞き手「計算は嫌いじゃないですか。実戦ではこの手は何目とは数えないですか」
福岡先生「まあ、そこまでは数えないけれど、だいたい大きいところはわかるので」
聞き手「計算はできなくても、囲碁は大きそうなところから打てばいいですよ」
福岡先生「勝ってるときは、安全な方を打ちます」
実戦図
聞き手「黒161から黒163は、いいヨセですね」
福岡先生「大きいヨセを打てたので、ここにまわって、勝ちがきまりました」
聞き手「勝ったときはどうでした? 嬉しかったですか」
福岡先生「この対局が終わったときは結果を知らなかったのですが、相手が教えてくれました。最終局でがんばれたので嬉しかったです」
持ち時間2時間30分
1分秒読み1回
白 1時間40分
黒 2時間30分
洪先生「黒のこの一手が流れを変えました。白は形勢が良いと思い次の手から緩み始め結局黒の逆転勝ちになりました。一局を平常心で打てるのはとても難しいです。常に最善を尽くす気持ちがとても大事でトップ棋士はみんな同じです。妥協せず一歩一歩最強の手でつめていきます。航太朗はこの一手で流れを変えてプロ棋士になりました。プロの手合いでもいつも最強で戦ってほしいです。戦ってまた戦うのです。この気持を忘れなければきっと日本の頂点に立つと信じています。がんばりましょう!」
洪道場の教え①
「勝ったと思った瞬間が一番危険であることを知ること」
洪先生「教えはほとんど私の失敗から学んだことを書いています。特にこの言葉はいつも楽観して「勝ったな」と思うことが多くて、逆転されてしまう自分の弱さを少しでも守れるように書いたものです」