平田智也七段の心の一局(2)「セキの三目」
実戦図51~100
洪先生「白62が勝負手でここから少しずつ流れが変わりました。虎丸は戦いを恐れないのですぐ接近戦がはじまります。100手まで白の壁が完成しては挽回したと思います。この天元戦では智也は1回戦黄翊祖八段、2回戦一力遼八段に勝ち3回戦に進んでいました。44期天元戦本戦には道場出身棋士が4人(平田智也七段、一力遼八段、芝野虎丸七段、呉柏毅五段)もトーナメント表の右側にいて嬉しいですが複雑な気持ちもありました」
参考図13
平田先生「実戦図の白52で参考図13の白1は、いつも言っているのですがあまりアテてばかりは良いことがなく、以下黒8まで黒のシチョウがいいので、白3と白5との攻め合いとシチョウが見合いで、左上隅がセキ崩れで白が危なくなるので実戦のように進行します」
参加者「ここまでの白は気分良く打ったのですか。それともちょっとやられたと思っていましたか?」
平田先生「ここまでは、『だいぶやられたな』と思って打っていました」
平田先生「というのは実戦図の黒21がまったく見えてない手を打たれたので、けっこう動揺が大きく、自分の思った図より良くなかったのです。実際はそこまで悲観するほどではなくほぼ互角に近い、ちょっと黒が打ちやすいかな、という程度でした」
平田先生「というのも、左上隅の関係なんですが若干黒が有利なんです」
参考図14
平田先生「参考図14のように、ここですぐ手を入れると白3までとなり、この形はセキになります」
参考図15
平田先生「このあと白から取りに行くと参考図15の黒4(白Aの右)から白Aとヌイてセキです。一手いれてセキだとその一手分の借金が残っているのです。既にセキなら白もやれるんですが」
参考図16
平田先生「逆に黒からは、参考図16の黒1とハネて手数をのばす手がある。黒3とオサエてコウになるとやや白の負担が大きい。打っているときは、『やられたな』と思っていました」
参考図17
平田先生「ただ、セキにしたあと3目あるな、と。終局後参考図17のA、Bにあった黒2目と、このまま終局すると2目ですが、ダメをツメて最後Aに放り込む黒石との3目は絶対に僕のものだ、と。この3目のために必死に頑張っていました(笑)」
平田先生「昔、一力(一力遼八段)が院生の頃に、最後にダメをツメて、セキをそのまま終局してしまって、1目をヌカずに半目負けてしまった対局があって、私はとなりで見ていたのですが、負けた一力が目に涙を浮かべるほど悔しそうにしていたのが印象的で、最後まできちんとダメをツメないといけないなと、それだけは思っていました。」
実戦図(1-55)
平田先生「実戦図の黒55はとても大切なところで、逆に白から打たれると、左辺の黒が死んでしまい、スミの黒石も自動的に死んでしまうシステムになっているからです」
実戦図(1-60)
平田先生「今は、やはり左上隅のアジがわるいので実戦図の白58から白60を打っておきます」
実戦図(1-61)
平田先生「実戦図の黒61はAのトビとか天元付近の中央に打ったほうが良かったかもしれなかったです」
次回は連載第3回「プロの技」