福岡航太朗初段の心の一局(1)「勝てば入段の一局」
洪道場白黒さんぽ
第一回目
自戦記 福岡航太朗 初段
福岡航太朗初段から皆さまへ
皆さま、本日はお越しいただきまして、本当にありがとうございます。昨年(2018年)の冬季試験で入段となり、正式なプロ棋士としての活動は四月からとなります。洪道場イベント第一回目に、道場プロ第一号である平田先生とご一緒に参加させていただくことをとても光栄に思っております。
日本のトッププロ、そして世界のトッププロになることを目標に、僕は、小学4年生から単身で3年間囲碁留学をしてきました。
まだまだ、実力はトッププロには程遠いですが、これからも前だけを向いて日々努力を重ね、世界のトップという頂上を目指していくことをここに誓います。どうか皆さま、洪道場とともに、応援よろしくお願いします。
本先生から航太朗へ
航太朗は20番目の道場出身棋士です。小さいときからとても積極的でした。その場で何をすれば良いのか気付いて行動していましたので嬉しかったですね。子ども棋聖戦優勝後、韓国留学に生きましたが、これは「世界で活躍するためには世界の碁を知るべき」というお父様のお考えもあってできたことです。3年近く往復しながら勉強していましたが航太朗は最初から一人で長い年月を頑張りました。韓国の陽川道場の先生は航太朗に会いたいと私に時々連絡があるくらい、立派に過ごしたと思います。常に最善を尽くすことが航太朗の長所です。頂点を目指して一歩一歩精一杯登ってほしいです。
2018年11月18日
冬季採用試験本戦第14局
白 藤井 浩貴(院生2位)
黒 福岡航太朗(院生1位)
解説:福岡航太朗 初段
聞き手:平田智也 七段
平田先生「僕は聞き手をします。たくさん解説はしてきたのですが、聞き手をするのは今回が初めてです」
福岡先生「今回解説する対局は、昨年の11月にプロ試験で、これが入段を決める対局になりました」
平田先生「福岡先生は、プロ試験の最終局で勝てば入段で、プレッシャーのかかるときは、前日は寝むれないことはないですか。」
福岡先生「この対局のときは僕と入段を争っている相手がこの対局の前日に負けたのですが、僕はその対局を見ると意識して固くなっちゃうと思って、その対局結果を見ずに自分の体調だけ気をつけて対局に集中しました」
平田先生「素晴らしい心がけだなぁ、僕はすぐ相手の成績とか見ちゃいますから、それが良くないのかも」
実戦譜(1-50)
洪先生「白16は最新流行で味が良いのが長所です。白20のツケも流行で24のスベリより石が頑張っています。黒29は30が良い所でした。黒33はより攻撃的な打ち方です」
参考図1 [黒10-白17]
福岡先生「これは結構流行っている布石で、白が参考図1の白1に受けると、黒2とシマって、三三に入って、これはAIが結構打っている布石です。左下隅の黒のカカリがあるので、シチョウがいいので、白23、黒24で、黒が打ちやすい」
参加者「AI同士でそういうふうに打ってるのですか」
福岡先生「はい」
聞き手「福岡先生はAIを勉強に活用されてるのですか」
福岡先生「プロ同士(の研究会など)では、それほどAIは使っていないのですが、家での勉強では取り入れて、勝率(AIが次に打つ手を計算し、その手を打った場合の勝つ確率を表示する)を参考にしています」
参考図2
聞き手「△の交換がなかったら、黒はシチョウが悪いのですがどうしますか?」
福岡先生「黒22として黒24までで、前図に比べ、黒22の形が少しウスイので、互角といったところです」
参考図3
参加者「私は左上をケイマにウケて左上を一間にウケたら、右下をシマるより右上にシマるほうがが大きいと思うんだけど、AIは右下をシマるのですか。どう考えても上辺のほうが大きくみえちゃうけど」
福岡先生「そうです。AIは右下が多いです。これは多分あとで、参考図3の白1のあと黒2とノゾキ白3とツイだあと、黒4までいけるので左下より弱くはないと」
福岡先生「黒は参考図のような感じを目指していますが、白は実戦図白8とハサミ、黒三三に入って、以下白16まで、これは普通にある定石です」
実戦図(1-16)
福岡先生「実戦は白16とハッたのですが、昔は参考図4の白1とツイでました」
聞き手「ツギしか知りませんでしたが、なんで最近は違うのですか」
福岡先生「ツグとあとで黒2のオサエに白3とハネて、黒4のあと、黒A白B黒Cとなり、白は根拠が無いので」
参考図4
参考図5
福岡先生「白が実戦のようにハッていたら、黒4の後に、参考図5の黒1とぶつかってから白10まで、白にイキがあるので、こちらが多くなっています」
聞き手「最近はほとんど実戦のようにハイになっていますよね」
参考図6
福岡先生「白からは参考図6の白1のようにトビもあるのですけど、黒6のカタツキで白△の位置が低く模様をはれないので、少し石が下にいってしまってツライ」
実戦図(1-20)
聞き手「最近は白20のツケが多いですよね」
福岡先生「最近はツケハネが主流です」
参考図7
聞き手「昔は参考図7のように進んでましたが」
参考図8
福岡先生「ツケハネは参考図8のようになれば白が地にカラく、黒はあとで左辺をツメられたらイキていないから、先程の図よりは、黒の目を狙っていける」
参考図9
聞き手「黒25で、参考図9の黒1のように出たらどうでしょうか」
福岡先生「参考図9のように進行し戦いになります。白14はすぐかどうかはわかりませんが、白16のツケが残るので、それがちょっと嫌でした」
聞き手「これは相場なんですか」
福岡先生「はい」
聞き手「ところで、プロ試験ということで、持ち時間が2時間半ありますが、航太朗先生は時間の使い方はどういうタイプですか」
福岡先生「比較的使っちゃうタイプです」
聞き手「すぐ秒読みになっちゃいますね」
福岡先生「普通の人よりは、ぜんぜん早く(秒読みに)なっちゃいます。時間の使い方はまだわからないです」
聞き手「僕なんか秒読みになっちゃうと、あわてちゃってだめなんですが、秒読みに自信があるということなんですね」
福岡先生「そういうわけでもないです」「時間を残して負けるのは、洪道場の教訓で勝負師としては失格、みたいなことがあるんです」
洪先生「スミマセン(一同笑)」
福岡先生「実は、『ここでもっと時間を使えばよかったなぁ』と後悔したことがあったのです」
実戦図(1-26)
福岡先生「今は、上辺の白をできるだけ低くして、右辺を広げたいというのが黒の狙いです」
参考図10
福岡先生「ここでは、白は参考図10の白1と打つ手もあって、黒2と受け、白3に黒4のケイマがすごく大きいところで、白から打つと、上辺の模様が広がって、黒から打つと右辺の模様が広がります」
聞き手「黒4が白と黒では、全然景色がちがいますね」
次回は「打たれなかった右下隅の変化」をお楽しみに