芝野虎丸名人の心の一局『リーグ残留をかけた戦い』①
芝野名人(当時七段)から皆さまへ
皆さま、こんにちは。棋士の芝野虎丸です。今回はお忙しいなかお越し頂きありがとうございます。
棋士になってから、ファンの方と交流する機会はそんなに多くはなく、この白黒さんぽは非常に楽しみにしていました。皆さまと思い出の時間になると嬉しいです。宜しくお願い致します。
洪から虎丸へ
虎丸が院生Aクラスの時、毎日のように打ちました。立場は私が先生でしたが、いつも逆に教えてもらっていました(笑)これで大丈夫なのかなと。私はそういう役割だと自分で言い聞かせていました(苦笑)
今は日本を代表する棋士になってとても嬉しく思います。韓国国家チームでもこれから注目する日本棋士には虎丸の名前が入っているようです。虎丸のことを愛してくれる、応援してくれる方々がたくさんいます。ファンがいてこそプロ棋士がいます。虎丸がこれからもファンを大事にそして愛される棋士になって欲しいです。いつも健康を大切に精一杯頑張りましょう!
2018年4月12日
第73期本因坊リーグ戦 残留決定戦
白 芝野虎丸 七段(対局当時)
黒 伊田篤史 八段
持ち時間5時間
5分前から60秒5回
芝野名人「1年前の本因坊戦の棋譜です。どの碁にしようか迷ったのですが、初めてのリーグ戦で残留を決めたこの碁が記憶に残っていたので選びました。」
第一譜(1-50)
芝野名人「当時はたしか、ちょうどAIが出始めた頃で、黒7・9に対しては白10で部分的にはやや白が打ちやすいとされていたのでそうしてみました。白16や22のような打ち方もAI流です。白26、30と最初に左上で地を稼いだので手厚く打ちましたが、今思うともしかしたら少し甘かったかもしれません」
実戦図1-10
芝野名人「総譜の解説と重なりますが、対局当時のAIによるとナダレには白10のサガリが良さそうだったので使ってみました」
聞き手「最近はどうなのですか」
芝野名人「黒からナダレを打たなくなったので今のところ自然消滅したようになっています」
実戦図10-15
芝野名人「実戦の15で13の下にノビなら定石なのですが、少し足が遅いと感じましたので15にカカリました」
参考図1
芝野名人「実戦図のあと白が参考図1のようにハネた場合、ほぼ参考図の進行が予想されますが、左上の黒はいきなり攻められる石ではないので参考図の白1と右上や右下の大場と比較した場合、今打たなければならないほど価値が高いとはいえません」
実戦図15-19
聞き手「実戦の16は、以前は打ってはいけないところだと習ったのですが」
芝野名人「私も習いました。以前は『15にツケて17と黒を強くしたのに隅が白地になっていないから良くない』というのが根拠だったのですが、AIが打つからこうなったのですがはっきりとした理由はわかりません」
実戦図19-22
芝野名人「実戦の22のカケはAIが20のカカリから21の二間高バサミに22とカケているので真似てみました(笑)」
参考図2
芝野名人「実戦の22で参考図2の1とカケるのは、2からの出切りで、下辺左に黒の援軍もあって黒だけが得をしています」
参考図3
芝野名人「実戦の22のあと黒が参考図3の1としたら2とトンで3とワリコンだ瞬間に4とツケます。14となってみると白が良いでしょう」
実戦図22-29
芝野名人「実戦は分かりやすい別れになっています」
参考図4
芝野名人「対局中は考えなかったのですが、実戦の26フクラミで参考図4の1カケから3のツケと捌く手もあったようです」
聞き手「この対局から一年が経ちましたが、今見てどうでしょうか」
芝野名人「今見ると白地が多いので悪くはないのだなと思います」
実戦図29-35
芝野名人「実戦の30はゆったりした手ですが、31にオサえる手もありました。しかし30でも悪くないと思っていました」
参考図5
芝野名人「実戦では黒は35と三々に入ったのですが、参考図5の1とする方が良く、これなら互角の別れでした」
実戦図35-44
芝野名人「実戦の35以下は定石ですが、44となっては下辺の黒が窮屈です」
実戦図44-51
芝野名人「45は少し辛い手なので黒が失敗したようですが、左下で地を稼いでいるので形勢自体はまだ難しそうです」
参考図6
芝野名人「51はシチョウアタリになっていますが、例えば参考図6のようになってみると黒は全体的にしっかりしているので、逃げはそれほど厳しい手ではありません」
第二譜(50-100)
芝野名人「黒63ではAに押さえられるのが嫌でした。それだと黒が少し打ちやすそうに見えます。白64が厳しく、難戦になります。黒も77のように最強で打ってきました」
実戦図51-52
芝野名人「で、52とシチョウアタリを打ちました」
聞き手「え?(笑) 逃げないのではなかったのですか(笑)」
芝野名人「まあ、逃げないとは思ったのですが一応打っておきました(笑)」
実戦図52-64
芝野名人「実戦の64は厳しい手で、黒としてはあまり良い受けがないのです」
参考図7
芝野名人「黒が参考図7の1とハッても2のツケから4とワリツイで黒が8にツグことができません。この図は一見して黒が良くない」
実戦図64-67
芝野名人「実戦では黒は65とツケました」
参考図8
芝野名人「実戦の黒67とツイだ手で参考図8の1とノビるのは2の切りが意外に大きくてしかも6と白から攻められそうなので、67ツギで目を確保しようということだと思います。ただ、どちらが良かったのかはわかりません」
注)2019年7月20日に洪道場主催のファンと棋士の交流企画での解説を元に構成しています。