一力遼竜星の心の一局(1)「世界一への道」
一力遼八段からみなさまへ
今回の「白黒さんぽ」を通じて、棋士を身近に感じていただければ嬉しいです。今回は4月11日に行われた日中韓竜星戦で柯潔さんと対戦した碁を紹介いたします。分かりやすく、楽しめるよう解説しますのでよろしくお願いしいたします。
洪から遼へ
遼は道場4番目のプロ棋士です。遼は礼儀も正しかったし、とても賢い子でした。道場に来たら誰よりも元気のよい挨拶が嬉しかったです。「いま何をすれば良いのか」を常に考えている遼だったので成長が速かったと思います。私自身も遼からたくさん学びました。遼はなんでも精一杯頑張るので時々疲れるのではないかと思います。時にはゆっくり充電する時間も大事でしょう。世界一になってください!
2019年4月11日
第1回日中韓竜星戦 第1回戦
白 一力 遼 八段
黒 柯 潔 九段
持ち時間10分
1手30秒の秒読み
(注:本解説の棋譜画像は、一力竜星(白番)から見た図です)
第1譜(1-48)
第一回日中韓竜星戦は三国の竜星が戦う新国際棋戦です。日本から一力遼竜星、中国から柯潔竜星、韓国から金志錫竜星が参加しました。
一力先生「この碁を紹介するか、NHK杯の決勝を紹介するか迷いましたが、洪先生から柯潔九段との対局を紹介して欲しいとの要望がありましたので、こちらを選択しました。私の白番です。柯潔先生とは何番か公式戦で対局をしていますが、このときまで公式戦では勝ったことがなかったので、今回はかなり対策を練り、精一杯準備して臨みました」
実戦図1-6
参考図1
一力先生「実戦の黒5のカカリに、以前は参考図1の白1がよく打たれていました。これは今もたまに打たれています」
参考図2
一力先生「参考図2の白1も打たれていましたが、AIはこの手は黒2のカタツキが嫌だとしています。これは白5まで、若干白が利かされていると見ているようです」
聞き手「一力先生は、黒と白とではどちらがお好きですか」
一力先生「そうですね、どちらもたいして変わりはないのですが、どちらかというと白番の勝率がいいです。私だけでなく、他の棋士も全体的に白番のほうが勝率はいいようです。AIが強くなってから、白番のほうが勝率が良くなってきたようです」
質問「コミはいくつですか?」
一力先生「6目半です。日本で開催される対戦なので日本ルールで行われました」
実戦図6-8
参考図3
一力先生「以前は、参考図3の白△あたりに石がなければ、実戦の白6とツケるのは良くないとされていたのですが、最近は、確実に隅の地を取ろうという作戦です」
参考図4
一力先生「参考図4のように黒が高くかかって白のツケヒキは、白が仕方ないとされています」
聞き手「実戦と参考図4は、どちらがいいですか」
一力先生「若干実戦のほうが黒がいいでしょうか。それでも白は実戦のように打ってゆっくりした碁にしようという布石が、最近多く見られます」
質問「隅は、ノータイムですか」
一力先生「早碁なのでノータイムでしたが、研究済みでしたので持ち時間があってもほとんどノータイムで打っていたでしょう」
参考図5
一力先生「参考図5のように打つと、マネ碁のようになるのでしょうが、シチョウがからむと白が良くならないので、黒は白1のカカリには黒4とコスミツケてマネ碁をはずすという手があります」
参考図6
一力先生「以前、井山先生と柯潔先生の国際戦で参考図6のように打たれたことがありました」
実戦図8-10
参考図7
一力先生「参考図7の白1のように高くかかると、黒2とツケて黒が少しアツいとされています。これでも白が悪いというわけではないのですが、最近は低くかかることが多いようです」
実戦図10-12
一力先生「黒は11とケイマにはずしてきました」
聞き手「黒11のケイマと一路左のコスミはどう違うのですか」
一力先生「どちらもよく打たれている形なのですが」
参考図8
一力先生「参考図8黒1のコスミの方が、黒がしっかりしているという感じで、ケイマの方が少し足速というイメージです。コスミでは、白は二間にヒラクことが多いです。実戦のケイマに対しては、やはり二間にヒラくこともありますし、実戦の白12にヒラく手もあります」
聞き手「最近は足速のほうが打ちやすいのでしょうか」
一力先生「どちらもありますね。コスミとケイマは好みの問題だと思います」
参考図9
一力先生「あとから参考図9の白1とツケられて黒5までとなると、黒Aのコスミに比べて、左辺の白の目が厚い。黒にとってはコスミの方が厚いといったところです」
実戦図12-18
参考図10
一力先生「白は実戦図の黒17の後、実戦の18とオサエるか参考図10の白1とオサエるか、二択の局面です」
一力先生「参考図10の白1とオサエて以下白11まで、このような進行も十分有力だったと思いますが、黒はもともと白の勢力だった右上隅に地をもつので、その出入りも考えると、白としてはあまり黒に地を与えない打ち方を選びました」
一力先生「柯潔先生は、先に地をとって相手の厚みを荒らすのが得意なので、そういう展開にはしたくなかったのです」
実戦図18-22
参考図11
一力先生「ただし、黒△が参考図11の低いヒラキだったら参考図のように打ったと思います。参考図11のように、黒△と低い位置の場合、実戦の進行では黒Aに比べて低いほうが、黒が安定しているからです。ここは一路の違いなのですが、とても神経を使うところです」
実戦図22-25
参考図12
一力先生「実戦では黒25と進行しましたが、右上隅の黒は生きているので、参考図12の黒1とツケて以下黒5と跳び出す手も考えられます。黒はどちらかといえば、こちらの方が自然だったかなと思います」
一力先生「実戦の二間ビラキが悪いというわけではないのですが、左上隅が確実に黒の地になりますので、このような打ち方も考えられます」
参考図13
質問「黒は左下をケイマにヒラキましたが、参考図13黒1のようにいっぱいにヒラクのはどうでしょうか」
一力先生「これはもちろん考えられる手です。私もこうくるかなと予想していました。どういう心配があったのでしょうか」
一力先生「参考図13のように進行して、白がすぐに白6と行くかどうかはわかりませんが、白12でシチョウに取られてしまいます」
参考図14
一力先生「かといって白の切りに対し、参考図13の黒7で参考図14の黒1とノビると、白2と取られて、白地が結構大きいので、こういう心配がもしかするとあったのかもしれません。とはいえ、実戦とどちらが良いかははっきりしません」
参考図15
一力先生「参考図13の黒3と受けた手で、参考図15の黒3とトブのも立派な手で、これはこれで別の碁になるでしょう。実戦のシマリの方が“堅実な手”ということでしょうか」
実戦図25-27
聞き手「黒27は、どういう意図でしょうか」
一力先生「まずは、中央に顔を出そうということでしょう。黒27の左に一間に跳ぶのと比べて、多少上辺の白に圧力をかけているという感じです」
参考図16
一力先生「ここで、参考図16の白1からの出切りは、黒8まで白のカカッた一子が孤立してしまいます」
参考図17
一力先生「あるいは、参考図17のように黒4のツケもあり、以下黒12となって、やはり左上の白石が窮屈になります。黒は白からの出切りは怖くないという主張ですね」
参考図18
参考図19
一力先生「参考図19のように黒△とするのと、参考図18のように一間にとんでから黒△とするのでは、参考図19の方が白に対する当たりが強いですね」