芝野虎丸名人の心の一局『リーグ残留をかけた戦い』③
実戦図125-128
芝野名人「実戦の125から白は126と弾いて127とヌクのですが、白からコウ材は中央の黒石を攻めるぐらいです」
参考図23
芝野名人「実戦の124で参考図23の1と逃げて上辺黒はワタらせるという手もあったと思うのですが図のようになったとき、5がそれほど良く見えなかったので実戦は勝負にいったのだと思います」
実戦図128-130
芝野名人「実戦は129とコウを解消しました」
参考図24
芝野名人「参考図24のように左辺を受けると2から4と解消されて上辺の黒の死活が良くわからなかったのです」
参考図25
芝野名人「実戦では白130とツケましたが、結果から言うと参考図25の1としてから3とツケて黒の死活はどうだったか」
聞き手「逃げても周りは白ばっかりですものね」
実戦図130-140
聞き手「ここで持ち時間はどうでしたか」
芝野名人「よく覚えていないのですが、ここではどちらもまだ秒読みにはなっていませんでした。白はこの辺りから長考するようになっていましたが、少なくとも私はまだ持ち時間がありました」
聞き手「どうしてそんなに早く打つのですか」
芝野名人「あまり考えたことはなかったのですが(笑)中盤以降で難しくなったときは読みが必要なので時間をとっておこうという気持ちはありますが、そんなに深く考えているわけではないです(笑)」
実戦図140-143
芝野名人「実戦の143とツケてこられたのでこれは負けたなと諦めたのですが」
実戦図143-148
芝野名人「144は投げ場を求めたつもりだったのですが、146とヌイて148となっては、流石に黒の逃げ場がありません」
参考図26
芝野名人「参考図26のように1から3とツナガっているようですが、10まででやはりツナガりません」
参考図27
芝野名人「ここは実戦の147で参考図27の黒1とツケるのが良い手で、コウ材は上辺にもあり黒が有利です」
参考図28
芝野名人「参考図27の白2が無理なので参考図28の2と下から行くしかないのですが5のコスミツケが良い手で、白Aには黒Bで黒が生きていました。実戦はなんとか大石を取ることができ優勢になりました」
参考図29
芝野名人「なお参考図29のように進めば、中央は白がアツイので大丈夫だと思いました」
参考図30
芝野名人「参考図29のあと参考図30の黒11から13とツイで15、17と逃げても18から20と取られています」
聞き手「自分の形勢が悪いかもしれないと思っているとき、相手が長考したらかなり拙いと思いませんか」
芝野名人「あまりそういうことは考えないのですが、やばいなと思ったときは顔に出ないように必死に我慢しています(笑)」
第四譜(151-200)
洪先生「虎丸にはすごいところがたくさんありますが、私はその中でも胆力が虎丸の力の源ではないかと思っています。相手が誰でも自分が打ちたい手を打つ、信じてまっすぐぶつかる、進むその気持がだいじです。私は虎丸と打ちながらたくさん気付きました。もう虎丸と打つことはなかなか難しくなりました」
実戦図148-155
芝野名人「黒としては左辺のワタリを横目で見ながらの155です」
実戦図155-165
聞き手「このあたりでは黒の大石を取れているという確信はありましたか」
芝野名人「取れているとは思いましたが、地合い勝負がどうかという心配はありました」
実戦図165-176
芝野名人「一応これで取りきったので、あとは地合い勝負です」
実戦図176-183
芝野名人「実戦は178に179とハネたのですが」
参考図31
芝野名人「参考図31の1とするべきでした。これでもまだとても難しいのですが白としては2としていかなければまだ不安なので、ここは勝負するところだったのでしょう」
第五譜(201-276) 白四目半勝ち
芝野名人「ヨセもうまく打てて黒227と謝らせたところでは、はっきり勝ちと思いました。本因坊戦リーグで残留できたのは嬉しかったし大きな自信になりました」
聞き手「虎丸先生は黒番と白番、どちらが好きですか」
芝野名人「プロになる前は黒番が好きだったのですが、プロになってからは対局相手の実力が上がり以前より実利を重視するようになってからは白番持ちになりました。池本先生はどうですか」
池本先生「布石が楽しいので黒番の方が好きです。でも勝率は白番の方が良さそうです」
聞き手「芝野先生の碁は生死がかかった激しい碁になりがちですが、そういうのが好きなのですか」
芝野名人「ほんとうは簡単に打って簡単に勝ちたいのですが、なぜかこうなってしまいます(笑)」
聞き手「持ち時間が五時間の碁はたいへんですね。体力はもちますか」
芝野名人「五時間の碁は、相手に気付かれないようにコッソリ休憩しているのですが、一日対局していると疲れは残ります」
聞き手「今までで、手強いなと思った相手でもう一度打ってみたいという人はいますか」
芝野名人「そうですね、農心杯で打った范廷鈺さんです。とても冷静に打たれていて、ぜひもう一度打ってみたいと思っています」
洪先生「虎丸は今年(2019年)グランドチャンピオン優勝、おかげ杯優勝などとても良い活躍をしています。次は7大タイトル戦ですね。早碁はもちろんですが、今度は長い持ち時間の勝負でも活躍して欲しいです。歴史に名を残す棋士になって下さい」
※編集部注「みなさん御存知の通り、2020年の名人戦で張栩名人に挑戦、10代初の名人が誕生しました」
ハイライト(146手目)
虎丸の後には常に「生死」がかかる所が現れます。私はそれが大好きです。△の時点は「生死」の分かれ道です。こういう勝負が勝っても負けても人を成長させてくれると思います。虎丸の碁には壮絶なストーリーが感じられます。簡単に得たものはすぐ失います。高い山を越え、広い海を渡り、長い洞窟を通ってやっと目的地に着いてこそ本当の嬉しさを感じるのではないかと思います。これからも精一杯戦ってください。全てをかけて戦う虎丸の碁が大好きです。
洪道場の教え⑥「気持ちを落ち着かせ冷静に全体を見回すこと」