平田智也七段の心の一局(5)「最善手を打ち続ける」
総譜151~200
洪先生「白152も手筋で大きな攻撃を準備しています。白58から白の猛攻が始まり黒は必死の防御でなんとか命を助けています。その被害は中央まであって白184に打たれては白の勝勢になっています。右辺もコウが残り黒は苦難の連続です」
参考図37
平田先生「ここは、できれば白152で参考図白1として、黒2とオサエたら白3とハサミツケて白5にホウリコンで黒6にツグと中の白石を取られてなんの意味もないのですが、ここでコウにはじくのが手筋で、このコウを頑張りきれれば黒8と取るしかなく、白9から黒10以下白B黒Cまで、これは白かなりの戦果です。先手で黒の地を小さくし自分は厚い」
平田先生「しかし、今は右辺が忙しいので、なかなかコウにする暇がなくて、泣く泣く本来は打ちたくない右辺を取りに行くため、実戦の進行になりました」
参考図38
平田先生「実戦の黒169では参考図38の黒1のようにツケたりしておけば、はっきり黒が優勢だったと思います。このあとの進行は、黒のイメージとしては、ここを先手で右辺の黒4子は捨てちゃうんです。黒9と中央をしっかりしておけば、最初に右下隅でだいぶ得をしているので、黒4子を捨てても地合いは間に合っている。これならわかりやすかったです。」
平田先生「実戦はより頑張ってきたのです。このあと出てくる右辺の死活に、読み間違いがあったのかもしれません」
平田先生「実戦の白178とここまでくると黒はだいぶ持ち込んだので、さっきのように捨てると黒の損がひどいのでイキにくるんです」
参考図39
平田先生「黒183でパット見は生きられて、白大損したように見えるのですが、実は参考図39の白1(A)から、白5の下ツケ、これは死活によく出てくるのですが、単に白7としてコウが残ります。たぶん虎丸はこの手を見損じていたらしいのです。右辺の黒は無条件で生きているから、あとは中央さえシノげばこの碁は勝てると判断していたようです」
参考図40
平田先生「白190(△)とヌカれたので、黒はAの効きスジはなくなりました。右辺はコウ残りですね」
平田先生「この碁は去年打った碁で、だいぶ経っているのでところどころ細かいところを忘れていました。棋士は記憶力がいい、みたいなことを言われるのですが実際はそんなことはなくて、流石に自分の打った碁は直近だったら覚えているのですが、半年以上前の碁になると、細かい手順までは覚えていないことはいっぱいあります。パッと見てこれは自分の碁だというのはわかります。勘違いされる方が多いのですが、記憶力はあまり良くないです」
参加者「白190とヌイたときは、いけるとおもったのですか」
平田先生「そうですね、この時点では、黒もコウ残りで完全にはイキていないですよね。中央も正しく打てば取れそうだと思ったので。このときはいけるとおもっていました」「ただ、さっきから言ってるんですが、僕はもう(残り時間が)1分です。虎丸はこのときやっと1時間を切ってくれたかな、まだそれぐらい残っているので、時間攻めでこちらは1分で正しく打てるかどうか、というところですね」
総譜201~250
洪先生「白の中央の攻めは正確で厳しいです。黒はなんとかかわしていますが白212・214で取られては左上隅の白地がとても大きくなりました。白236からの追求も当然ですが素晴らしいです。道場の教えで「チャンスが来たときに徹底的に相手を潰すこと」というのがありますがそのとおりの猛烈な攻撃です」
実戦図
平田先生「白202(実戦図の白△)にツケて、でもどうやらこれが最善だったみたいで、「だったみたいで」というのもおかしいのですが、今見ても結構難しくて、当時ホントにちゃんと読めてたのかなと思うのですが、対局しているときは集中しているので、意外とちゃんと読めているみたいで、後で調べてみても白はちゃんとここまではずっと最善を打って、黒を取ることができているようです」
平田先生「ここまでは、しっかり完璧に打ってましたけど、現状を整理しますと、中央には2眼できないですよね、ここは黒1眼。黒は他に目を作るスペースがないので、中央のどこかから1眼を作るか下辺にツナガルかですけど、中央のキリがあるのでどっかでいちどバックしなければいけない。ここでバックしたときに、正しく切断できれば死んでるかなと。
参考図41
平田先生「またここで、黒1と怪しい勝負手がとんできました。これも実際は正しくうつには、白2と打って、ハネとかにも白4と沿っておけば、この3つはとれているので、AとBが見合いで殺すことができてたんですが、ちょっともうパニックになって、何が起こっているのかわからなくなっちゃって」
参考図42
平田先生「実際は参考図42の白2とノビたんですね。そしたら黒3とツガれて。まぁここでもマガリぐらい打って、この白4子は捨てて中央の黒石を全部もっていければ勝ちなんですが、1分間でその計算をしていたんです」
参考図43
平田先生「秒読みなのでどんどんどんどん時間が過ぎ、最後59秒の9と言われたあたりで、今までずっとこれさえ取れればとおもっていたので参考図43の白1とヌイて、次にアタリにすれば取れるし、左辺の黒石も取れるし自動的に隅の黒石が取れる。これはさすがに絶対の時間つなぎだろうと思ってたら、黒2にこられ、勢い白3と。こうなったんですけど、黒4にハネられてこれはフリカワリ。左辺から左上隅は41目あるので、普通だったらこんなでかいのをとれば白がいいんですが、この碁の場合は黒死にそうだったところが、逆にいっぱいとって黒の地も増えたので、これでまたわからなくなりました。半目勝負です」
参考図44
平田先生「黒はこっちをツイだほうが難しかった。こっちをツイでスミとかヨセにまわって、半目勝負だったんですけど、実戦は手が見える。黒は何をしているのかというと、上辺の黒を助けに来たんです。白はどこかキリたいんですが、参考図44のように、白1とキッテも黒Aで、逆に取られちゃうんです」
参考図45
平田先生「参考図45の黒Aにツガれて、白Bとヌイて黒Cツガれてこの黒は一気に生還してしまいました。白は危なく見えるのですがギリギリだいじょうぶです」
参考図46
平田先生「形勢は、下辺の黒地が先手で破れて、ここで白の先手というのが大きくて、参考図46の白△(白236)にホウリコンで、これはハッキリ勝ちになったんです」
黒4[30] 白7[A] 黒10[30] 白13[A] 黒16[30] 白19[A] 黒24[30] 白25[B] 白27[A]
参考図47
平田先生「部分的にはすごくうまくやられたんですけど、この碁ではたまたまちょうど右辺のコウが残ってたのでなんとかギリギリあましてる」
参考図48
平田先生「実際は参考図48の白△(266)と切ったのですけど、この手があんまり良くなくて、ワタリとかキリとかもっと大きいコウ材をうっていれば、ハッキリ、黒からのつぎのコウ材がなくて白の勝ちだったんですけど、この辺ちょっとちっちゃい手を打ったので、コウを解消されてまた半目勝負になってしまいました」
参考図49
平田先生「ここまで進んで、ここのキリから下辺の黒地が破れてたので、黒1とツケるヨセがあったのですが、白2からなんとか白は耐えて、ほんとは出て取りに行きたいんですけど……これは、大きいですね。単に黒1目とっただけじゃなくて、あとで参考図49のAにツナゲば攻め取りになるので、これで白が半目勝っているみたいです」
平田先生「虎丸は読み切って、これは一本道で半目負けになるので実戦はコウ争いに賭けたんです。しかし実際は黒のほうが負担が重いので、ちょっと差が開いて最後4目半勝ちになったのですが、なんとかギリギリ耐えて、ここまで打てて勝ててよかったです。」
平田先生「結局とれているところに打ってとれてないので、最終的にはこの手が中央の攻めに働いて、フリカワリにはなったんですが、うまくとることができたので、この碁を解説させていただきました」
参加者「虎丸先生とは公式戦の成績はどうでしたか。何局ぐらい打ってましたか」
平田先生「ベスト16は一力戦で、一力には僕は勝ってるんですが、持ち時間3時間での対局では、虎丸とはこれが初めてです。僕は洪道場出身生第一号で一応先輩の意地というか、まだまだ後輩には負けないぞという気持ちです。虎丸や一力や航太朗もそうですが、これから打つことも増えていく後輩たちに、先輩の意地を見せていこうかなと思っています。その意味でもこの碁は気合が入って意地が出たかなと思います」
総譜251~320
洪先生「たくさんのフリカワリが起きた難しい碁です。魂を込めて全力で戦った対局を皆さまに見せたかったです。難しい碁ですが虎丸との血戦をぜひ最後まで並べてみてください。これからもどうぞよろしくお願いいたします」
持ち時間3時間
白2時間59分
黒2時間59分
白4目半勝ち
ハイライト
洪先生「我慢の一手です。歯を食いしばっての我慢が切実に感じられます。人にはたくさんの試練があります。今の時代の人々はすぐ良いことだけを簡単に求めていますが、簡単に入ったものは簡単になくなってしまう気がします。一日一日を大切に毎日の積み重ねがあってこそ幸せがあると思います。智也のこの一手のようにときには我慢してときには積極的に戦えるようにこれからも一日一日を大事に生きたいです」