小池芳弘五段の心の一局(4)「勝負手の行方」
第3譜 101-150
小池先生「黒107は白108と交換されて右上のヨセがなくなったので損ですが、優勢を意識して手厚く打ちました。白118には黒も122に受けるべきでした。白124に出られては右下隅の味が悪くなりました。白146、148が好手で右下隅が破壊されて逆転された気がしました」
洪先生「白112、114、116の連続様子見が見事です。不利な時に碁盤を揺らすような、この迫力が逆転の力です。勝負手を感じながら碁を見ればより面白くなります」
実戦図81-97
小池先生「この後、実戦のように白は逃げようとするのですが、黒は97とギュッとオサエられるのが自慢です。その後白が逃げようとしても、1子の取り跡は欠け目で黒は95、97と外側がアツくなり、この後左下に開くことができれば大きな地ができそうです」
聞き手「中央の白はダンゴ状態で、逃げるだけになりそうですね」
小池先生「そうですね、これで黒が優勢だと対局中は思っていました」
実戦図97-104
聞き手「白の104ハネはどういう意図でしょうか」
参考図47
小池先生「実戦の103(参考図47黒△)は、白の薄味(A辺り)を狙った手でもあるのです。あとで白Aとハサミツケる手が厳しいので白は守りたいのですが、ただAと守るのは辛いので、104(参考図白△)とハネて黒1を待って白2とすれば、白△と黒1の交換は白の利かしという意味があります」
参考図48
聞き手「参考図48の△辺りを白に狙われそうですね」
小池先生「こうなると黒の2子はダメヅマリだけにやや動きにくくなります」
実戦図104-109
小池先生「黒109で右辺から右下隅が地になれば、黒優勢だと思っていました」
実戦図109-118
小池先生「黒111で概ね地だと思うのですが、112とツケてきました。このときは白の意図を計りかねていました。そして118。このハネは芝野七段の勝負強さを表す手です」
参考図49
小池先生「白118は、参考図49のように黒1とオサエれば切るよ、という単純な手なのですが右下をあちこちツケながらここに目が行くというのは、さすがの勝負勘です。ここでは単純に黒2とマガッて受けておけばよかったのですが」
実戦図118-125
小池先生「ここで119と白1子を取りました。しかし112とツケて116とハネた手が利かしになり120に121を決めて122、124のハネノビがとても動きやすくて、黒地が荒れただけでなく」
実践図125-128
参考図50
小池先生「実戦の128で参考図50の白1とマガルと右下隅の白をつかまえることができません。黒地がなくなってしまいます。これでは白に翻弄された感じです。118とハネられたときにマガッていればなんでもなかったのですが、30秒の秒読みだったので気合で打ってしまいました」
実戦図128-135
小池先生「白134まで右辺には入られたけれど左下隅に手を回すことができたので、右下隅は一段落とみました」
実戦図135-143
小池先生「左下隅の地を奪って、右下隅がしっかり黒地だったら、まだ黒がよかったのです」
実戦図143-146
参考図51
小池先生「実戦の146で参考図51の白1と逃げ出されるだけなら黒2とツナげば右下は黒地となり、良かったかなと思ったのですが、146とハネた手が非常に良い手でした」
実戦図146-154
小池先生「ここはかなり難しいので結論から言いますと、146とハネられて右下の黒地がなくなっただけでなく、下辺の黒石の目も怪しくなってしまい、逆転されたかなと思っていました。144とブツカッて146とハネられたのですが、黒は妥協したくなくても‘仕方ない、仕方ない’と打っていてこうなってしまいました」
実戦図154-162
参考図52
小池先生「実戦の162(参考図52の1)とハネられて2とツグと、3のノゾキから5とされて左下の白に地ができてしまうと負けそうだなと判断し」
実戦図162-163
小池先生「下辺の黒が薄い形ですがそのままにして163とノゾキました。これは勝負手です」
実戦図163-167
小池先生「白もただツグのは嫌なので164と反発し165に166とツギました」
参考図53
小池先生「実戦の167で参考図53の1とツグのは白から2と打たれて左下の白がしっかりとした形になってしまうので、167とアテました」
実戦図167-169
小池先生「白は168と逃げたので、ここで169とツギました。こうなると黒は左辺中央あたりに少し地がつきそうで、少し得をしたようです」
実戦図169-182
小池先生「実戦の172や174、182と白にダメを打たせておいて、黒は175のコスミや177あたりに地をつけて、ここで形成が逆転したようです」
実戦図182-189
小池先生「黒189とヌイたところで下辺に10目ばかりの黒地ができ、ここで勝が決まりました」
参考図54
聞き手「振り返って黒から163とノゾキを打たれたときに白はどう対応すればよかったのでしょうか」
小池先生「実戦の166とツイだところで、参考図54の1と切って以下黒10と白の2子をとっていますが、12とヌイたあと13とツケられて、下辺の黒石がかなり危なくなっていますので、これで白は有利にもっていけたのではないかと思いますが、30秒の秒読みではこの図には自信がなかったのではないかと思います」
第4譜151-200
小池先生「白154までひどくやられました。白162のアテに黒163が勝負手です。白168まで決まってから黒169に戻っては得しました。白162は177の一路右にノゾキから利かしたら白有望でした。白166も黒173に切るべきでした。黒171から得しながら攻撃が出来て黒189まで形が決まっては勝ちになりました」
洪先生「黒163からの反撃が流石芳弘です。芳弘は対局中すごいオーラを出します。私は「殺気」を何度も感じました(苦笑)まさに武士のオーラです」
第5譜201-250
小池先生「黒203のヨセは9目の大きさで手どまりです」
第6譜251-300
黒5目半勝ち
ハイライト (黒81)
洪先生「黒△の攻撃が鋭いです。白の隙を逃さない芳弘の強さが良く感じられる一手です。ここからの猛攻撃が見事です。一瞬で黒が優勢になりました。道場の教えで『チャンスが来た時に集中して、徹底的に相手をつぶすこと』があります。勝負に勝つにはそういう気持ちが大事です。芳弘は日々勉強しています。その日々の積み重ねは必ず大きな力になります。
芳弘と虎丸、空也、竜平は院生時代、果てしなく戦いました。同じ時代に強い子ども達がたくさんいたので毎週が戦争でした。一旦院生に入ればプロ棋士になるのか、院生を辞めるまで休みない長い旅になります。家族との旅行などはあまり考えられないほどです。
特に芳弘は院生期間が長かったので悩みも多かったと思います。プロ棋士になってよく笑うようになりましたね、嬉しいです。
日本棋院では基本1年に6人だけがプロ棋士になれます。大阪・名古屋で1人、女流試験で1人、東京は3人です。3人中1人は院生の4~6月の院生採用試験で総合成績1位がプロになります。あとの2人は8~11月の外来と院生を合わせての冬季採用試験で決まります。特に冬季採用は期間が長いので、コンディション調節が大事です。道場は院生採用試験で8人プロ棋士になっていますが、冬季採用では3人だけです。1年中プロ試験な私はいつも悩みが絶えません(笑)頑張ります!」