平田智也七段の心の一局 (1)「万全だった虎丸対策」
平田智也から皆さまへ
記念すべき第一回に参加していただいてありがとうございます。皆さまが素敵な時間をすごしてもらえたら嬉しいです。頑張りますのでこれからも道場をよろしくお願いいたします。
洪清泉四段から平田智也七段へ
智也は道場出身棋士1号です。智也の入段が決まったとき、報告の電話の嬉しさ、感激は今でも覚えています。いつも暖かく後輩たちを見てくれる智也のこと頼っているし感謝しています。
智也は本当の努力家です。自分で考えて修正、鍛えていくスタイルです。少し前に「呉清源」先生の棋譜を並べていると聞きました。私はもっと強くなるためには新旧を知るべきだと思います。新しいと言ってすべて良いわけではないと思います。信念を持って進めていけばきっと何かに気付いて成し遂げます。智也の世界はこれからもっと広がると信じています。いつも心いっぱい応援しております。
2018年6月28日 44期天元戦本戦ベスト8
白 平田智也七段
黒 芝野虎丸七段
洪先生「白4の高目(タカモク)は地に甘いので珍しい打ち方です。厚く打ちたい人は愛用します。白10は14が定石ですが早くも変化球。しかし黒21が見えず白が少し苦戦です」
実戦図(1-9)
平田先生「なるべく級位者の方にもわかりやすいように解説していきます」
平田先生「実際にこういう形になったのですが、実は対局の一週間前ごろから、弟弟子の一力と研究していまして、虎丸対策はバッチリだろうと挑んでいきましたが、さっそくその思惑が崩れるということに」
参考図1
平田先生「今までの定石は参考図1ですが、これは黒地が大きいので白が甘いとされ、これを改良して実戦の白10を研究しました」
実戦図(1-10)
平田先生「白10のハネ出しには黒はAとB二通りの打ち方がありまして、Aの方が分かりやすい。黒Aのあと白Bなら黒Cで、これは白がさかれ形で悪い」
参考図2
平田先生「そこで白2から白10までとなれば穏やかな分かれなので、こういうような形を目指していました」
平田先生「実戦は黒11と切ったので白12とアテ、本譜白20となり、これは白が打てるだろう、と一力と研究していました」
参考図3
平田先生「研究では、さらに参考図3のように黒1とノビ、白2から黒3とサガり、これは結構難しいのですが、攻め合いになり、白8までだいたいセキのようになりますが、白が外側にきて、隅の白石もとられないのでいけるかな、と思っていたら」
実戦図4 (001-021)
平田先生「実戦はここで本譜黒21とサガられてしまいました。この手は一力との研究でもまったく考えていませんでした。2日間二人で何度も研究したにもかかわらず、まったく思いつきませんでした」
平田先生「黒21と打たれるまでは『ここまで思い通りいけば』と。自分が思い通りに行くときは、ウマくないことが多いです。この碁も、黒21にサガられて『あれ?おかしいなぁ~』と」
参考図4
平田先生「なぜこの手(黒21)がいい手かといいますと、参考図4の白3とヌイたあと黒4ととべる。これがすごく大きい手で、先程の参考図3では、参考図5のように、黒1がアキ三角の愚形です。これよりは参考図4のトビの方が断然良い手です」
参考図5
参考図6
平田先生「結局白18では参考図6の白1から白3となるところでした」
参加者「虎丸先生は、その手はすぐ打たれたのですか。何分か考えられましたか」
平田先生「ここで(虎丸の手が)ピタッと止まったんですよ。10分ぐらい考えて、虎丸がいつもの調子で音を立てずにスッと石を置いたんです」
平田先生「虎丸に石を滑らせるように置かれたとき、『あれっ?これ(研究で)やってないぞ、何んだこの手は』と」
平田先生「ここまで僕はノータイムで打ってたんです。持ち時間は3時間で、終盤に時間を残したいので、研究しているところはなるべく早く打つようにしているのですが、10分ぐらいでこの手を打たれて、僕と一力の二日間は虎丸の10分に負けるのか、と愕然とした記憶があります」
平田先生「実際、黒21が最善で、後々の研究でもこの手は良い手でした」
参考図7
平田先生「実戦の白26は攻め合いの急所です、参考図7の白1とトブと黒2と出られて黒4では攻め合いで白が負けてしまいます」
実戦図 黒△(31手目)
参考図8
平田先生「黒は参考図8のようにここで黒1とグズめばセキになるのですが、白4と止められてしまうとまずいので、実戦図の黒△(黒31)とトビツケて反発しました」
参考図9
平田先生「参考図9の白1のデギリは無理ですね。こう打ちたいのですが、黒4で白2子か白3の1子が見合いで取られてしまう」
平田先生「デギリは無理なので、しかたなくコスミツケて」
参考図10
平田先生「実戦の白34では、黒31の右にオサエたいのですが参考図10の黒2と切られてしまう」
実戦図
参考図11
平田先生「実戦図白40まで、難しいのですが白から打てばセキになります。黒からうつとコウになるのですが、これは自分も死んでしまうかもしれない。二段コウですが黒からすぐ参考図11のAとすると白はBやCで黒はおもしろくないのですぐには仕掛けずに進行します」
平田先生「黒43のツケは手筋です。このあと白が手を抜くと黒45の左に切られて取られてしまうので、白44とノビ、黒45のノゾキに白46とツギます」
参考図12
平田先生「効かされた形なのでつらいのですが、だからといってここで参考図12の白1とするのは黒4まで左辺の黒が安定してしまい白としてはあまりおもしろくない」
平田先生「ここまで、なにか質問はありますか?」
次回 「セキの三目」