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同時通訳者・橋本美穂の「英語にないなら作っちゃえ!」

橋本美穂は「心を鬼にする」をこう表現した!

2019年4月号から始まった連載『同時通訳者・橋本美穂の「英語にないなら作っちゃえ!」』は、読者参加型企画として、皆さんと一緒に「新しい英語」を作っていくコーナーです。

2021年4月号からは誌面もリニューアルし、橋本美穂さんの特別音声解説も付いて、さらにパワーアップしました!

4年目を迎えたこの企画、ぜひ皆さんもチャレンジしてみてください!

 

さて、今回のお題は…?

お題:「心を鬼にする」

hamazoさん(福岡県)
conceal one's tenderness
理由:優しさの感情を抑えて接するから。

Under den Lindenさん(東京都)
prioritize discipline over giving
理由:「施し」よりも「規律」を優先して人に接することだと考えました。

Shaggyさん(広島県)
be merciless on purpose
理由:あえて無慈悲に……。

鈴木周さん(神奈川県)
be hard-hearted with affection
理由:「鬼心の裏に愛情あり」ということです。

坂の上のねこさん(東京都)
be a lion father
理由:獅子の父親はあえて子どもを谷に突き落とすという言い伝えから。

カプ・テテフDXさん(兵庫県)
go zero-lenient
理由:goの補語にはネガティブな言葉がよく来るので、そこにzero-toleranceをアレンジしたものを入れてみました。

azupiさん(愛知県)
play the bad guy
理由:わざと悪者っぽく振る舞うという意味で。

Shpookyさん(神奈川県)
Thatcher mask
理由:鉄の女の仮面をかぶれば心を鬼にできるはず。

 


さて、橋本美穂さんは一体どのように「心を鬼にする」を表現したのでしょうか?

 

私ならこうしちゃいます

 

close all the soft spots  

ハイコンテクストな日本語は英訳が大変です。例えば「判官贔屓(ほうがんびいき)」もそうですよね? 「贔屓」はどこの国にもありますが「判官」はどうすれば良いでしょう。日本人が「サタン」と聞いてもピンとこないのと同じように、西洋人は「鬼」と聞いてもなかなかイメージが湧きませんし、「判官」も同様です。

さて、「心を鬼にする」を単純に訳すならbe bold(心を強く)ですが、丁寧に説明するならば、まず、①相手に対して情があるという前提、②厳しい判断を下さなければならない状況。そこで、③かわいそうだと思う気持ちを抑えて、④厳しく接すること、になります。しかし、日本語の由来を長々と説明しても仕方がありません。むしろ外国人にとって馴染みのあるフレーズを使って、相手が知っている文脈で説明した方がスッと伝わります。皆さん、I have a soft spot for...というフレーズはご存じですか? 「大好きだから甘くなってしまう、~にはめっぽう弱い」という意味です。これなら情感も含めてパッと伝わります。これを起点にsoft spot(心の柔らかい部分)をclose(閉じる)という慣用句を作っちゃいました! 動詞にcloseを選んだのは、soft spotを泉門(赤ちゃんの頭蓋のぷにゅぷにゅと柔らかい部分)に掛けたからです。成長とともに閉じていくものであり、「柔らかい心を閉ざす」という意味でもしっくりくるでしょう。

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著者略歴

  1. 橋本美穂

    アメリカ合衆国テキサス州ヒューストンで出生。東京都で幼少期を過ごし、6歳で再び渡米。サンフランシスコにて小学校時代を過ごし、帰国後は兵庫県神戸市で中学・高校時代を過ごす。慶應義塾大学総合政策学部卒。

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