ふくらすずめと寄り添う12篇(25年11月)
12月も半ばを過ぎ、冬本番といった天気も増えてきたように思います。各地で木々の葉が落ちるように、言葉もこぼれ落ちているのであれば、それを拾うのはやはり詩人の営みなのでしょうか。今月は12篇の掲載となります。ぜひご一読ください。
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ふくらすずめと寄り添う12篇 ・outsider ・古代の記憶 ・カス ・相対の目線 ・星を巡る旅 ・詩 ・丘に吹く風を友にして ・ピクニック ・バッタリ ・みそ汁 ・どうか、此処に居て。 ・鳥の時間 蝶の時間 |
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outsider MT
物心がついた頃にはいつも群れから離れていた。 誰にと言うわけではないが、 「一人では生きられないぞ!」 繰り返し心に彫刻刀で透明な跡を残された。 一応、 そんなことは、 何となくわかっていた。 ただ、 レシピエントとして、そうなじむようには出来ていないらしい。 熱狂する個体を笑うわけでもなく遠目に見ている。 多くの人が右向け右と何かを見ている時に、正面を見てその滑稽さと美しさに見惚れていた。 どこで待っていたのか、頭の上をハシブトガラスがヒュンヒュンと笑いながら飛んでいった。 「最後は一人で死んで行く」そんな声が体の中でこだました。 |
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古代の記憶 倉橋謙介
朝、目が覚めて 2回目の寝返りを打ったら インプットした覚えがない感覚が 勝手にアウトプット フゥワワワーン これは浮力か揚力か 空を飛ぶのに翼にプロペラエンジンも いらない時代があったんだ 上手くいったら 空をとんでるレモンだって捕まえて テラスで紅茶を飲む君に届けるよ コツをその時教えてあげる そのかわり 果物ナイフだけ お店の人に借りといて |
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カス 鏡ミラー文志
カス、カス 目標を自らに、課す 重い荷物自らに、課す 冷えた心の欠片、カス 花となり、草土と化す 正気に生きること自らに、課す 良心正義を自らに、課す 割れた裂け目から産まれくる、ガス 燃えて生きること、そのための、ガス それでも人はいつか、老いる スカしてるその態度で、ライター 蒸してるその先がスモーク 発火着火相性がマッチ 搾りたての乳牛のかほり 油分、脂肪分の、カス ユーモアを常に胸に抱く ピンクの花びら ロマンを自らに、課す |
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相対の目線 草笛 螢夢
あなたの思う距離や目線の高さは ずーっと私と平行線のまま
期待していた 何かのアプローチもなく 切りの無い事と済ませたい思いが 瞳の中から透けて見えた気がした
だだ私の中で脈々とうつ心臓は どうしてハートと呼ぶのだろう 思考や神経も持ち併せ繋がっているんだと 昔聴いた事をふと 思い出し 実感したのは確か
鼓動の心拍数値だけが 高鳴ることを抑えきれずにいる |
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星を巡る旅 yasui
国立駅前大学通り 暗がりに向けた「さようなら」 大通り公園 脇によせられた「よかったね」の音信 畳の部屋 こころ休めたほんとうと背を向け伝えている会いたい 果たされていた確かな安堵は一晩のひつぎ 晒されたかった1通りの「うそ」 ネオンの街 カメラを向けて消えてしまった無関心 育てた万華鏡で星は伝わっています 小さな栗の木の下で迷っていた 私はもう貨物の終えた駅舎に眠っている |
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詩 黒髪セーラー服
美しい詩をかきたい 言葉で表せないようなことを わざわざ言葉にして 数ある詩の一つとしてではなく まるで歌を絵にした芸術品のように 貪欲細々とに人の心を鷲掴みする 美しい詩をかきたい ふと誰かが見て 何を思うこともなく 涙を流すこともないような 死ぬ理由と生きる理由の 真ん中のベンチに座り 気にせず本を読んでいるような 美しい詩をかきたい 極限まで研いだプラスチックの包丁 線を切った有線イヤフォン その素晴らしさと無駄について 語れるような 美しい詩を書きたい |

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丘に吹く風を友にして SilentLights
まだ会ったことのない あなたと いつの日か 偶然にめぐり会うこと
このうえなく輝かしい そんなときが来ることを 夢見て
私は 今日も 丘のうえへ のぼる
あなたと出会ったあとの ふたりの物語より
あなたと出会うまでの ひとりの物語を
胸のうちで あたためたい
かなたを信じ 「ひとり」と向き合った 時計では はかれない 私の かけがえのない時間
それが 私の いのちの きらめき
丘のうえの風が 今日も やさしく吹きわたってゆく |
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ピクニック とし
柔らかな秋の陽射しの中で トムとキャロルがたわいのない話を始める 隣に座っていたスーが相槌を打ち それを見たジョーが笑い出す 92歳のディックは耳が遠くなったと言いながら 話の要所要所では的確な一言を投げかける 息子のスコットはディックの体調を心配しつつ 手元のグラスには新しいワインが注がれている
サンドイッチ マックアンドチーズ レイヤーケーキ ベリーパイ タイ風サラダパスタ バナナブレッド ピンクケーキ
持ち寄った料理を囲みながら とりとめのない話題に花を咲かせる 人生の晩秋を迎え肩の荷を下ろした人々の 穏やかに暮れていく黄金色の午後 |
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バッタリ 倉橋謙介
渋谷の交差点で信号が青に変わるのを 通行人モブの1人として 固唾を飲むように見守っていたから 自分の名前が呼ばれた時も 声のする方向を探しながら ズボンを履いていることを 無意識に確認していたくらい僕は無防備で 誠実な勇気でもって近づいてくる 2、3年振りに会う君から 適度に目を逸らすことも忘れていた 言葉をかわすまでの 打算の生まれる余地のない 剥き出しな瞬間の只中にいて |
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みそ汁 南野 すみれ
電話の声は不機嫌だった けれど 買い言葉を返すほど もう 若くない 黙って切った
ガラス窓の向こうに星の粒 夜の残りが尾を引いている 忍び込む冷気が 夕べの会話の温度を また下げる
ゆっくりと水道の栓をひねって 汚れてもいないのに 左手で受けた 水が 温(ぬる)い 海底をやって来る島の水は 海の熱を奪って 気温が下がると温くなる
手の甲の蒼い血管が 水を弾く 夕べのことばが ばらけて排水溝に流れていく
からだの中に、 棘 味噌汁の鍋を火にかける |
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どうか、此処に居て。 七海独
光の無いこの場所は、 私に適している。 だって詩が書けるから。 蝋燭も懐中電灯も、気にしなくていいから。 この中で、私は生きていける。 此処は、私の鼓動を受け入れてくれる。 魂を売って、 魂を腐らせて、 そんな無様なやり方で、 私は光の中に居たくない。 私は詩人。 闇と手を繋ぐ詩人。 誰よりも強く、手を繋いでいる。 魂を投げ出した誰かとは、 住む世界が違う。 私は詩人。 胸を張れる。 誰よりも胸を張って、 私は闇の中に居る。 |
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鳥の時間 蝶の時間 ヒンヤ
鳥は午前4時に囁く 蝶は午後3時に蜜を味わう 今まで気付かなかったんだ この場所にすら 怖くて来れなかった 甘えかもしれない でも ヒトは簡単に裏切る 他のヒト 他の動物 他のすべての事 裏切られれば曇り空 鳥も蝶も知っている ヒトがもはや 動物じゃない事を |

世話人たちの講評
千石英世より
outsider
下から2行目が良いですね。素晴らしい。下から3行目はスルーして全体ここに直通させれば作の詩趣が変わるかもしれません。
古代の記憶
面白い内容だとおもいました。タイトルが謎でした。
カス
「カス」の付かない行、また縁語で繋がらない行、そこをピックアップして集中的に読んでみました。「カス」じゃないものがなんであるかが分かってきました。詩の深い背景がみえてくるように感じました。感ずるものあります。
相対の目線
タイトルと内容がよく呼応しているのが分かります。分かりすぎるようにも。そこを少しずらしてみるのも面白いかも、とおもいました。
星を巡る旅
詩に詠われている場を、つぎつぎに「巡る」という趣旨のように読めました。タイトルの「星」と下から3行目の「星」のつながりを目だたせれば最後の「眠っている」につながるような気がしました。
詩
直接いろいろなことが伝わってきます。連構成にしたらどうなるかと考えました。「美しい詩を書きたい」のリフレインがグッとせり出してくるような、だから、グッと迫ってくるような、と思いました。むろん現行でも迫ってきています。
丘に吹く風を友にして
ことばの流れがきれいですね。その分、生活上の具体的な気持ち、具体的な景観を知りたいとおもいました。
ピクニック
人のカタカナ名と、料理のカタカナ名が主人公の詩だと解しました。ピクニック解散後のそれらの後ろ姿を想像しました。そこにも「黄金色の午後が」と。
バッタリ
素晴らしく面白い作ですね。繊細さって結構たいへんなのだ、と伝わってきます。にもかかわらずざっくばらんな語調が決まってますよね。
みそ汁
散文的な場面の描写ですが、ふかい詩情を感じます。かすかにツライ詩情ですが。
どうか、此処に居て。
願望をあらわすようなタイトルの詩ですが、その相手は「詩」であり「闇」であるようです。そこを一途に見つめて、他者世界への言及を控えれば、「詩」「闇」がふかまるような気がしました。そして「闇」のなかに色々なものかげが見えてくるような。もう一つの「他者」が。
鳥の時間 蝶の時間
肯定的なことと否定的なこととの並列拮抗の世界を前半後半に分けて描いているようにおもいました。肯定的なことのみでひっぱって行くのも面白いかもしれません。出だしの3行、光ってますね。その意力の持続、詩がありますね。
平石貴樹より
outsider
自然体でいいですね。
古代の記憶
そういう夢ってありますよね。
カス
ラップおじさんの雰囲気良しです。
相対の言葉
「切りの無い事と済ませたい思い」がすごいです。
星を巡る旅
難解気分。
詩
「心を鷲掴み」だけが他行の志とちがう気がしますが…。
丘に吹く風を友にして
「ひとりの物語」をあたためるって、おもしろい発想です。
ピクニック
こういうの、アリですね。たまには。
バッタリ
「剝き出しな瞬間」がいいですね。
みそ汁
「海底をやってくる島の水」がなんとも言えません。
どうか、此処に居て。
こういう瞬間もあっていいですよね。
鳥の時間 蝶の時間
噛みしめるべき詩です。
渡辺信二より
outsider
詩の方向性と狙いは、支持されるでしょう。
構成を「起承転結」で考えると、一人で生きることと、一人で死ぬこととが、「起」と「結」として、作品の構成をよく支えている。
「承」と「転」では、「レシピエント」および「ハシブトガラス」の二つのカタカナ表記言葉の是非が問われるでしょう。
古代の記憶
タイトル「古代の記憶」と「空を飛ぶ」とがよく馴染む作品です。「レモン」も空を飛んでいるのですね。
カス
こういう詩の作り方もありますね。
ここでは、「ガス」などへ変化して、また最後、「課す」に戻っていますが、「貸す」「科す」など、「カス」で一貫する方法もあるでしょう。
相対の目線
身体と、思いとのずれがうまく表現されている。
第一連の「高さ」や「平行線」がちょっと気になる。高低差がある?
二人は同じ方向を向いている?
星を巡る旅
何かすごいことを表現する作品になりそうな予感を与えるので、もどかしい。
詩
美しい詩を描きたい、というのは、素晴らしい目標です。またそれを作品の中で表現することもいいことです。日本では、あまりありませんが、そもそも、西欧では昔から、メタポエティカといって、詩作品そのものが「詩とは何か」「言葉とは何か」といったテーマや創作過程自体について言及する、自己言及的な性質を持つ作品や手法を指すことがあります。また、古代ローマの詩人ホラティウスは、「絵のごとき詩を」と主張しています。
丘に吹く風を友にして
よく構成の整った小品となっています。
「あなた」と偶然出会った後の作品も期待します。
ピクニック
映画の一場面を切り取ったような作品です。よくできています。
バッタリ
よくある一瞬の心情を、上手に表現している。
詩として叙述的な文章であることが気になる。
みそ汁
日常よくある一場面の描写として、優れている。
「夕べの会話の温度を また下げる」の1行がよく理解できない。「温度」が必要なのはわかるが。また、タイトルの「みそ汁」と最終行の「味噌汁」と、表記の仕方を変えているのは、何か意味があるのだろうか?
どうか、此処に居て。
タイトルと作品本文のズレは、意識的なものなのだろう。それでも、タイトルは誰の言葉なのか、気にはなる。
なお、伝統的に、日本の詩は、句読点を使わない。また、タイトルにも、句読点を使わないようです。
鳥の時間 蝶の時間
詩人にはわかっているのだろうが、読者には分からないことがある。例えば、「この場所」や「裏切られれば曇り空」などをどう理解するのか、戸惑う。
あさひてらすの詩のてらすでは、
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