橋本美穂は「お尻に火がつく」をこう表現した!
2019年4月号から始まった連載『同時通訳者・橋本美穂の「英語にないなら作っちゃえ!」』は、読者参加型企画として、皆さんと一緒に「新しい英語」を作っていくコーナーです。
2021年4月号からは誌面もリニューアルし、橋本美穂さんの特別音声解説も付いて、さらにパワーアップしました!
まる5年の連載を経て、ついに今月が最終回となりました。ぜひ皆さんもチャレンジしてみてください!
さて、今回のお題は…?
お題:「お尻に火がつく」
ゆるゆる英語学習者さん(奈良県)
sharks snapping at one's heels
理由:仕事に追われている状況を、サメが後ろからかぶりついてくる様に置き換えてみた。
カプ・テテフGXさん(兵庫県)
Santa Claus on Christmas Eve
理由:12月24日の夜に必死になってプレゼントを配っているサンタさんを思い浮かべました。
青木直人さん(愛知県)
bitten by the deadline
理由:飛び上がるくらいに慌てるというイメージ。
hamazoさん(福岡県)
"Play ball" is declared
理由:プレイボールになったからもうやらなきゃならないよ、逃げられないよ、というイメージ。
ハリケーンさん(福岡県)
turn up the seriousness
理由:橋本さんの「空気を読む」(turn up the tact)を参考にしました。※2022年3月号参照。
井上智夫さん(埼玉県)
chronopress
理由:chrono(時間)とpress(押し寄せる)を組み合わせた造語で、時間が押し寄せているという状況を表現しています。
ヤスミンさん(大阪府)
spark one's motivation
理由:やる気に火をつける。
さて、橋本美穂さんは一体どのように「お尻に火がつく」を表現したのでしょうか?
私ならこうしちゃいます
(be) placed on a launch pad
「お尻に火がつく」と聞いて、「簡単! my ass/butt is on fireと言えば済むじゃん」と考えた方、まず、なぜこのお題を出したか説明しますね! 実はこの表現、英語ネイティブに確認すると「なんとなくわかる」程度なのだそうです。文脈が読めないと意図をはっきり捉えることが難しいのでしょう。例えば、「締め切りが迫っているのでmy ass/butt is on fire」と伝えれば、I'm pressuredと言いたいのかな?と推測してもらえますが、前後の説明なく唐突に言うと、他にもI need to run away quickly!(一目散に逃げなきゃ!)という意味にもなり得ますし、さらに、on fireを「火がつく」ではなく「火を吹く」と捉えてしまうと、お腹を激しく下しているという意味になってしまいます(笑)。
さっき食べたタコスの激辛ソースが胃腸を直撃しちゃってmy ass/butt is on fireなのか、締め切りが迫っているから全力で逃げたいのか...、その他、卑俗な意味にもなり得ます。そもそも、ass/buttのニュアンスは「ケツ」であり、これは品が無さすぎてビジネスシーンでは使えないという決定的な問題もあります。「お尻」ならrear endと訳すべきですよね。
本来の日本語のニュアンスを正確に伝えるための英語を作っちゃえ!と考えたのは、このような理由からです。結局、作ったのは、(be) placed on a launch padです。ロケットの発射台に乗せられちゃった! 容赦なくカウントダウンが進んで、時間が無い!
be placedは、期限が迫っていることに対する受け身の姿勢、自主性の無さを表現しています。
「英語にないなら作っちゃえ!」は今回で最終回となります。お読みくださりありがとうございました。EE2024年3月号の連載ページには、橋本美穂さんからのメッセージを掲載しています。ぜひご一読ください。
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