朝日出版社メルマガ 第17号(2018/12/12発行)
朝日出版社メルマガ 第17号(2018/12/12発行)
今号のコンテンツはこちらです。
■新刊のお知らせ
■重版出来!
■今号のイチオシ電子版
■編集部リレーコラム1(第五編集部)
■イベント情報
■編集部リレーコラム2(第二編集部)
■あとがき(編集後記)
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■新刊のお知らせ
『あしながおじさん』
谷川俊太郎 訳/安野光雅 絵/ジーン・ウェブスター 原作(12月8日発売)
https://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255010908/
『本の未来を探す旅 台北』
内沼晋太郎+綾女欣伸 編著/山本佳代子 写真(12月12日発売)
https://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255010847/
『自殺会議』
末井昭 著(12月15日発売)
https://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255010939/
■重版出来!
『夏井いつきのおうちde俳句』 ☆2刷!
夏井いつき 著
https://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255010878/
■今号のイチオシ電子版
『BREASTS 乳房抄/写真篇』
伴田良輔 著(2015年3月31日配信開始)
https://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255004785/
そのままで、ただ見るだけで、誰もが幸せに感じるもの――それは、乳房。
本書は、女性の乳房だけをまっすぐに見つめた、乳房だけの写真集です。
被写体は大学生からOL、古着屋店員まで、一般から募集した21人の女性。
赤ん坊の視線でカメラを通して乳房に近づくも、自身がエロスの網に捉えられてもがいている
小さな魚であると自覚した著者は、乳房からほぼ30センチほどの距離からの視線で、
乳房の持ち主である女性たちの感情に歩み寄ります。
乳房にはここまでの美しさと、これほどの表情があったのか!
「乳房は私の掌の形をしている」(堀口大學)、「片時も休まぬ愛らしい乳房よ 手は汝にいざなわれ、
汝を押す」(ヴォルテール)ほか、乳房に魅せられた詩人の言葉で織りなす45の乳房の景色が堪能できます。
■編集部リレーコラム1(第五編集部)
第五編集部の綾女です。
大河ドラマ『西郷どん』も、いよいよ今週末が最終回ですね。
と、まったく興味のない方には申し訳ないのですが、クライマックスに近づくにつれて歪な魅力を増してきたのは、
西郷隆盛(鈴木亮平)よりも、瑛太演じる大久保利通、のように僕は思います。
謀略に訴えて竹馬の友・西郷を下野させてしまう「冷酷な権力者」ぶりと、その腹の底に秘めた真情、
その矛盾を孕んだ人物像がなおさら見る者を引きつけます(たとえば第43回の2人の名シーン…)。
それで、佐々木克・監修の『大久保利通』(講談社学術文庫)を買いに走ったりしてしまうのですが、
これは大久保の暗殺(1878年の紀尾井坂の変)の32年後に報知新聞の記者が近親や部下・同僚に
「大久保さんってどんな人だったの?」とインタビューして回ったもの。
語り口のそのままに掲載されています。
相談事をしてもただ「もっと考えてみたらよかろう」と何度も何度も突き返された末にようやく
「よろしい」と言われた、と息子(牧野伸顕)が父の沈思黙考を回顧すれば、
なくしたと思っていた25ドル(当時は大金)が大久保邸で見つかったのにその話題を一言も
出さなかったと部下はその「無駄口のなさ」にビビったりしています。
寡黙で威厳があり、近寄りがたい雰囲気はドラマと通じるのですが、朝早くに訪問すると
髪を入念にセットして出てくるまで待たされる、といった話も。
帰宅すると急いで革靴を脱がそうとする子たちを可愛がるパパっぷりも実話のようです。
となると歴代の大河で大久保の最後がどう描かれてきたのか復習したくなってYouTubeで見たりするのですが、
たとえば『翔ぶが如く』(大久保=鹿賀丈史)ではこんな感じで、
https://www.youtube.com/watch?v=ya4ajD6BAh0
『篤姫』(原田泰造)ではこんな感じです。
https://www.youtube.com/watch?v=XIfSCTpK2JU
……同じ場所のはずなのに、街が発展している……というのがまず思ったことですが
(前掲書によると当時の紀尾井町は樹木もなく淋しいところだった、と語られています)、
ちょっとゾッとするのは、暗殺の二、三日前に大久保自身が、高い崖から落ちて砕けて
ピクピク動いている自分の脳を見つめる夢を見ていたこと。
実際の現場はそのとおりだった、とも語られています。そして兇変の時に大久保の懐にあった手紙は……。
今回の大久保の最後がどう描かれるのか、気になって仕方ありません(西郷をさておき、すみません)。
ちなみに、同書の最後には重鎮の大隈重信も出てきて「大久保か、維新時代唯一の大政事家じゃ」と
威厳たっぷりに語っています。大久保の格言のひとつに「過ぎたるは及ばざるに如かず」がありますが、
今年もあともう少しの、新年に「及ばざる」時間を楽しんでいけたらいいですね。
■イベント情報
○第一回「おウチde俳句大賞」、投句募集中です。
家の中で感じたことや思ったことを、五・七・五のリズムにのせて自由に表現いただき、ふるってご応募ください。
https://www.asahipress.com/special/ouchidehaiku/
■編集部リレーコラム2(第二編集部)
こんにちは。第二編集部の大槻美和です。
編集部では、鈴木久仁子担当の、末井昭著・『自殺会議』という本が刊行になりました。
前作の『自殺』(講談社エッセイ賞受賞)から5年――愉快な仲間たちが加わって、帰ってきました。
お母さんがダイナマイト爆発で自殺をした、末井昭さんが、松本ハウスさんや、原一男さん、
岩崎航さんなど、自殺と縁が深いひとたちと話します。
また、東尋坊の「ちょっと待ておじさん」に会いに行ったり、自殺の少ない町と多い町をたずねたりします。
自殺というと、深刻さに身構えてしまいそうになりますが、この本は、暗くじめじめしてはいません。
取材のテープ起こしをしている鈴木から、ひんぱんに、「ふふっ!」とか、「えー!」とか、
笑っている声が聞こえてきていて、よほど楽しいんだなぁと思っていたのですが、
できあがった本も、ふふっ!と笑ったり、えー!と目を丸くしたり、ハッとしたり、
ゆるんだりしながら、あっという間に読んでしまうはずです。
内容だけでなく、形式ということでも、とても面白いんですよ。
自殺関連のツワモノたちの語りのあいだに、末井さんの、淡々とした語り口が、
ぽつぽつと挟まれる感じが絶妙なのです。
私は読みながら、前作の自殺を語るということから、自殺を助けるという方向にシフトしているのが
今回の特徴だと感じたのですが、人を助けられるくらいの人は、人の何倍も、(愛における)力持ちなんだなぁと、
思わずにいられませんでした。
どういうことかというと、読んでいて、言葉が奔流のようにあふれてきていて、
圧倒されて、ちょっとクラクラしてくるんです。
いちばん「これはたいへんだ」と思ったのは、東尋坊の用心棒・茂さんです。
「ボケんな~!!」「ワシがお前の悩みごと解決できないはずがあるかい!」と。
末井昭さんは、「繊細と横暴」という言葉が浮かんだ、と書かれています。
つぎに「これはたいへんだ」と思ったのは、坂口恭平さんです。
「ピロートークっていう会社を嫁と立ち上げそうになってて」とか、
「みんなが好きで好きでしょうがなくて、とにかくみんなが好きだから、
みんなのこと助けたいんだけど、どうしたらいい?」とか。
そして、ちょっと休みたいと思ったところに、タイミングよく末井さんの言葉が
入っていて、ホッと一息つく、そんな感じの構成になっています。
あ、もちろん、そんな人ばかりでなく、もっとおだやかな語りが、ほとんどですが、
この本に出てくる、自殺に縁の深いみなさんは、どなたもどなたも、
まじめで、愛情深く、すごいので、読みながら、心が動いて忙しいので、
どんどん読めるのに、お腹いっぱい、という感じになるんです。
べてるの家の向谷地生良さんもすごいですよ。
「大学生になって、何をしたかったかというと、
とにかく苦労したくてしょうがなくてね」と言っています。
末井さんも「えーっ、まあ少ないですね、そういう人は(笑)」と答えています。
本当に変わっていますね。でも、苦労するのも悪くないかな、と、
なんだかプラス方向に考えられてくるから不思議です。
それから、ばらばらのいろいろのように思えて、本を通して読むと、
みなさんの語りが、どこかリンクし、響き合い、つながっていることに気づきます。
本当のことというのはつながっているんだなと思います。
そういえば、いま放送中の國分功一郎さん出演のNHK「100分de名著 スピノザ」
http://www.nhk.or.jp/meicho/famousbook/82_ethica/
のテキストを読んでいたら、自殺は自分が原因で死ぬのではなくて、
コナトゥス(自分の生命を維持しようとする力)が働いていても、それよりも外部の
原因が強すぎて死ぬんだ、ということが書いてありました。
茂さんの「だれ~も死にたくない。死ぬの怖いんです」という言葉と一緒だなと思いました。
ぜひぜひ、お手にとってみてくださいね。
しつこく宣伝しますが、木庭顕著『誰のために法は生まれた』も、どうぞよろしく!
『自殺会議』の坂口恭平さんの章で、こんなところがあります。
-----------------
電話を掛けてくる人に、俺、聞くんです。みんな「きつい」とか「苦しい」って
すぐに言っちゃうから。それ、たぶん、人がつくった言葉だから、
全部自分の言葉に置き換えなきゃいけないって。
***
言語の交換だけを徹底させるっていう…〔略〕
――ははは。コミュニティをつくらないで、個と個ってことですよね。 〔略〕
そうなんです。社会っていうことは、言語が途中でダラダラになっちゃうんですよね。
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読んでくださった方は、あ、これは『誰のために法は生まれた』にも出てきたなと
思ってくださるはず。
「世間サマの言葉」に頭を占領されてしまうと人は窮地におちいる、ということで、
これも本当のことだ、と思います。冬休みのお供に、二冊ともども、ぜひ。
■あとがき(編集後記)
営業部の橋本です。
昨日、六本木の青山ブックセンターさん跡地に文喫(ぶんきつ)という新しい本屋さんが開店しました。
内覧会にお招きいただき、一昨日の夜にどきどきしながらその地へ。
「本と出会うための本屋」とあり、入場料1,500円で珈琲・煎茶は飲み放題、
時間制限もなく本をゆっくりと選び読むことができます。
閲覧室と名づけられたカウンターではコンセント完備、素敵な卓上ランプも設置されていて、
背筋を伸ばして読書したりパソコン仕事ができそうです。椅子がまた座り心地よく。
本は基本的に一冊ずつ書棚に収められているのですが、ほんとうに選りすぐりというのか、光る本ばかりでした。
数時間過ごして、とびっきりの一冊をじっくり選ぶのもいいでしょうし、書き仕事や調べものに集中するのもよさそう。
新しいお店ができると、「本屋のあり方」とか、「本は目的でなく手段なのか」などなど声が聞こえてくる
こともありますが、そういったものはなるべく目につかないところに置いておきたいなと思います。
たくさんの本と出合えた、たくさんの本を売っていただいた青山ブックセンター六本木店はもうありませんが、
その地があらたな姿となり、本と人が交差する場がつなげられたこと、心強く嬉しいです。
ぜひ皆さま、足を運んでみてください。
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朝日出版社メルマガ第17号、最後まで読んでくださりありがとうございました。
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