枯れ木星を見上げる15篇の詩(24年12月)
枯れ木星とは、葉の落ちた木の合間から見える星のこと。冬が深まり、冷たい風が体にしみる頃こそ、言葉で暖をとりたいものです。選ばれた15篇、ぜひご一読を。
枯れ木星を見上げる15篇の詩 ・折り紙 ・心に涙を溜めないで ・晴れた日のために ・祈り ・無明 ・ヒマラヤンクリスタル ・潤沢 ・11月 ・糸 ・別れに寄せて ・無題 ・サイクル ・闇の小道 ・小指 ・12:30 |
折り紙 陽炎
何度折っても形が出来ぬ。 広げて、たたんで、私を作る。 できたものは化け物だ。 それでも折られずにはいられない。 私を隠すためか、消すためか。 折ってたたんで、また折って。 私は私を作り出す。 |
心に涙を溜めないで 槻結糸
心に涙を溜めないで 泣きたい時には泣けばいい
春の風が桜の花をひらひら千切り何処へと連れ去る心細さに 重い夏の雲が激しい雨を降らし向日葵の花を打ち付ける酷さに もみじの葉がはらりと落ちて残るその樹の孤独に のしかかる雪の重みと冷たさに 身動きのとれない射すような痛みに
心に涙を溜めないで 泣きたい時には泣けばいい
花の散った後には葉桜が生まれ 雨が上がった空には向日葵のような太陽が空に咲き 葉を落としたもみじの樹は穏やかに眠りの支度をし 冬の痛みは春の優しい日差しの悦びを迎えてくれる
心に涙を溜めないで 泣きたい時には泣けばよい |
晴れた日のために スピカ
・ 踊るように光る川は 学生通りを過ぎて 笑い声に照れるように ときどき波をたてるよ
もうすぐ日差しあふれるだろう 少女が夢見たように
この手のなかで生まれた歌を 晴れた日のために歌う ・ ・ 星と星の間にある 闇はもう怖くないね 風と土と涙からは 逃げ切ることは無理でも
もうすぐ浄化は終わるだろう 少女が許されるとき
君だけのため作った歌を 晴れた日のために歌う
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祈り 星拓也
暗闇に揺らぐ炎 教会 沈黙の 秩序 乾き 緊張の震え 無の静けさ
呼吸
嗚呼
Amen |
無明
スピカ
・ 時には 安楽椅子で 過ぎた昔を思い起こす
別れた あの人たちの顔はみんな 微笑み浮かべてる
私はどこまで行くの? 終着駅にはいつ着くの? つまづき 忘れられても 黙って歩けば近づくの?
輝きを失って 心年ふりて 素直な言葉さえも 疑ってしまう
無明のときがもう 私を閉じ込める
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ヒマラヤンクリスタル 小村咲
水晶はそのままを映す 私達は見透かされると かの人の言う球体越しに 言の葉の鱗粉を 振り落としてみる
透き通るばかりが 美しいのではない 周りの景色に溶け込むように 今日も心を澄ませて歩く
靴は幾度も履き替えて 向きを選び 言葉を選び 揺るぎない瞳の色を 恨めしくも思い 自らを色づける細胞や 体液をなだめながら 時の流れをそのままに来た
少し眠い砂色の空気 暁は遠からずとも ひと単語ずつの感情を きちんと君に届けたくて ポケットの中できゅっと その鉱石を握った |
潤沢 鏡文志
潤うて肌の艶も、輝きて優 夢見れて外の光、浴びるのが秀 安易なる答え求む、安らぎにNO 人は誰も大志抱き、悩むのが脳 酒くらい欲に溺れ、生きるのは業 リズムに乗り韻を踏んで、進むのさGO 負けまいと腰を上げて、立ち上がる今日 草原と砂漠の中、胸張りし王 敵睨み腕構える、若かりしジョー 撃ち抜いて煙上げる、野蛮なる銃 飯食うてアジの匂い、嗅ぎながら臭 間違うて罪の味を、知りながら苦 我ながらバカと思い、笑われて笑 泣き濡れて秋の暮れを、歩くのは夕 笑い疲れ恋の時は、そのHighとLow 虹を掴み滑り降りて、皆陰と陽 愛を深め知りし時は、気づいたらもう 病とは,、つまりアレか? 気づいたら、もう しょぼくれて涙の数、数えたるSHOW 酔い覚めに水を浴びて、泳いだる興 霧雨の夜も老けて、我一人狂 |
11月 陽炎
翅の剥がれた蝶が月夜の庭に飛んでいる。 次第次第に高さが低くなってゆく。 それを見越して昆虫たちはベロを舐めていた。 蝶は力のある限り、上へ上へ登って行った。 息の続く限り、翼をととのえながら、上へ上へ。 息尽きた時、月が彼女を抱きとった。 |
糸 南野 すみれ
テーブルを用意する 庭でランチをするには絶好の日和だ
誘われて、都合が悪いと断る そのとき、彼女の顔が音のない言葉を発して 電磁波のように耳にはいってきた
仕上げるつもりの気がかりなことが 二つ、 迷った分だけ返事が遅れる 頭の中で午後の予定を動かして なんとかなりそうだと思ったときには 私が声をかけていた
陰をつくった黒木の下は森の匂いがする 取って置きのお茶と到来物の和菓子も添えて
彼女のお喋りはとぎれない 長尻はいつものこと 同じ話の繰り返しも聞き飽きているけれど (内ポケットに糸切狭は持っている) この細い糸が 私を此処に 繋げている
空にイソヒヨドリ、ひと声鳴いて 飛んでいった すじ雲の縁が朱にそまっている 押しやった些末事が顔をだす |
別れに寄せて 星拓也
僕は別れの詩は歌わない。 あらゆる空気の層を通り抜ける、太陽の光に 敬礼を。そして、消えていく振動に餞別の目つきを送る。 遂に時は来てしまった。 だが別れの詩は歌わない。 人知れず、 冷たい朝に薄明るい部屋の扉を開ける。 僕はもう振り返れないのだ——
おお神よ、 どうか、どうか、 残される人々を 守り給え!
そして—— おお神よ! 貴方の雪のひとひらが 全てのものに降りそそぎますよう! |
無題 Yuji Amitani
会いたいよ。何してますか。寒くなったね。何の話からしていいのかわからないけど、会いたいよ。あなたのことを忘れた日なんてなかった。あなたのことを忘れられた日なんてなかった。今日もあなたのことを想う。あなたはもう私のことなんて忘れましたか。あなたの世界に私はもういないのですか。そんなのもうとっくにいないのですか。生きていますか。笑っていますか。私のことを思い出すことなんてこれっぽっちもない日々ですか。私の前で笑っていたあなたは私の記憶の中にしかもういないのですか。分かりきったこと。もし会えて、聞くことができたら今度こそ私は、私は。恐怖しているのは私の方。もう会えないということに、安堵しているのは私の方。私は、私は、ずっとずっと、あなたが死ぬまで、あなたが死んでもあなたに会いたいのです。そんなちからもないことは、ぼんやりと、でもきっと明日も同じ。生きる。それだけが、ほんのささやかなあなたへの仕返し。 |
サイクル 七海独
午前八時は蜜の味。 太陽ウェルカム。 空見上げちゃったりして。 まるで、 充実した人生おくってますって顔して、 歩いてる。 行き先は結局今日も、 コンビニかスーパー。 ちくちくと心を刺す後ろめたさは無視無視。
正午は夢現。 良い気分であることには違いない。 手に負えないほど悲観的な、 普段の私はどこへやら。 超楽観主義者爆誕。 超非現実主義者爆誕。
午後五時は八方塞がり。 孤独と後悔と罪悪感の深淵から、 どう頑張っても浮上できない。 溺死必至。 テレビの音と無駄に明るい部屋の灯りが、 鎮痛剤代わり。 全く効かないけれども。
真夜中まであとどれくらい? 何もかも投げ出せる真夜中まで、 あとどれくらい? |
闇の小道 雨村大気
どこまでも深く暗い
ろうそくを入れた粗末なランプ 小さな焔がこの果てしない未知を ほんの少しだけ明らかにしている
小道を歩いている
ここはどこなのだろう 果たして進んでいるのだろうか ろうそくが少しづつ減っていることだけ確かだ
僕の歩みの先にある未知の中で熟れた実は 腐って枯れて風に消えようとしている その気配だけ匂っている
僕の通り過ぎた小道には 未知の中で散った薔薇のくすんだ花弁だけ 風に運ばれそこかしこに散らばっている
歩みを止めても ろうそくは減ってゆく
広い夜空だ 今日も流れ星を見落とす |
小指 倉橋 謙介
地下鉄の階段をあがった 僕らの上に ちぎったわたあめみたいな雪が きっとこれは積もらないだろうな そんなことを考えながら バスの停留所まで歩き出そうとすると 「冷たいね」 と君が言う 頭の中を覗かれたような気がして 一瞬ドキッとしたけれど 小さくつかんだ僕の指が あっという間に冷え切っていたみたいだ
すぐにその手は離されたけど 言葉少なに2人でバスを待つ間 指先に残っていた温かい記憶を 僕は無意識に辿っていた |
12:30 七海独
花瓶に挿さった、 名前の分からない濃いピンク色の花が、 私を責めたてる。 私の人生を否定する。 一生枯れないその花が、 私を嘲笑う。 ただ老いてゆくだけの私を。 24時間を1時間のように感じる私を。 夢か現実か、 区別する努力をしようとしない私を。 いつまで花瓶に居るのだろう? いつこの花は燃えるゴミとして、 捨てられるのだろう? 私には捨てる権利がない。 自分の人生にすら、 権利がないのだから。 |
|世話人たちの講評
・千石英世より
折り紙
こころの内がしっかり伝わってきます。そこをもっとしっかりさせるには、「私を隠すためか、消すためか」の二択ではかえって弱まるのでは? いずれか一択にして切り口を鮮明にしたらどうでしょう。また、遠慮がちに疑問文にしていますが、ここも遠慮せず鮮明化するという手もあるのでは?
心に涙を溜めないで
リフレインがいいですね。メロディーをつけて歌唱したくなります。
晴れた日のために
「少女」がこの作全体でどういう人なのか、気になります。とくに誰彼ではなく、一般的に可憐で素朴な天使的存在なのかもとも考えましたが、どうでしょう?
祈り
吉田一穂という昔の大詩人がいますが、それを思い出させます。がんばってください!
無明
第4連「輝きを失って…」のところに詩の重心があるとおもいました。ネガティヴな内容ですが、その分重く、十分詩作の持続可能テーマになると考えられます。テーマをつかんでいる作だなとおもいました。
ヒマラヤンクリスタル
最終連が好きです。直前の連の「体液をなだめながら/時の流れをそのままに来た」も素晴らしいと思います。イメージがあります!
潤沢
面白い良い詩だなあとおもって読みました。ことばのパンチ力を強める工夫というか、推敲がもっと可能だとおもいます。熱いリズムを! 音楽を!
11月
傷ついたものの姿が、共感的に捉えられているとおもいました。上と下の位置関係が不思議です。「息尽きた時、彼女を抱きとった」のは「月」ではなく「私」であっても良いとおもいました。むろん固有名詞でいえるだれからではなく、この詩の語り手とかの「私」です。
糸
複雑なことが書かれているとおもいます。それを「糸」を切断するように、切断したい、が、したくない! 複雑さは、これでしょうか。最終連で切断された! とも取れます。最終連のはじめの3行がすごい! 切れ味、抜群! 見事です。
別れに寄せて
旅立ちの歌でもあるように読みました。旅立つ側の意気込みを暗示することば、イメージがあれば、そこが強く出て、「歌わない」決意の強さ、別れの覚悟が増すようにおもいました。むろん現行でも十分強いのですが。
無題
最後が! です。それだけよく書けているということですよね。強烈によく書けているということです。感心、感銘しました。とくに「恐怖」と「安堵」をならべているところ、強く熱いとおもいました。感服です。
サイクル
これ、すきな作品だなあっとおもってよみつつよみおわりました。きつくて、かるくて、切なくて、辛辣で。しかも力強い。いい詩だとおもうほかありません。内容はつらいことをいっているのですが、そんなの関係ない! とことばのリズムが思わせます。ことばで自分をつきはなしているのですね。ズバっと相対化している。脱帽です。
闇の小道
粘り強い詩的思考が維持されていて、立派な作品だとおもいます。その分、整理する余地があるようにも思います。「小道を歩いている」から下へ、14行、終わりまで何度も読みました。すると出だし4行は、その14行を要約している4行という感じがしますが、その要約は読者の想像力を信頼してまかせきってもいいのかもともおもいました。いずれにしてもよく練られた良い作とおもいます。
小指
いいですね。好きですね。描写が具体的、丁寧かつ簡潔かつ控えめで、切なくて。これぞ恋歌とおもいました。ぞくっときます。
12:30
素晴らしい、力強い、人生へのファイティング・ポーズが維持されている。がんばれ! と応援したくなる。見よ、わたしはここにいる、といっている。否定的なことばが多いけれど、それがかえって自己肯定的、自己信頼、自己主張を導くように思います。見よ、わたしはここにいるの感をにじみださせているとおもいました。
・平石貴樹より
折り紙
もうすこし展開がほしいかと思います。
心に涙を溜めないで
ちょっと「きれい」すぎるのかな
晴れた日のために
13~14行目がすごいですね
祈り
教会の雰囲気が出ていました。
無明
私は閉じ込められるままなのでしょうか
ヒマラヤンクリスタル
水晶を信じればきっとだいじょうぶ?
潤沢
新鮮な「韻文」ですね。
11月
ストーリーは良いと思いました。
糸
「彼女」というのは老いたお母さまであるような気もします。
別れに寄せて
純心さがいいですね。
無題
フィニッシュが素敵ですね。
サイクル
明るい絶望。悪くないです
闇の小道
悲しい寓話ですね
小指
「冷たいね」は僕の君への気持ちのことでしょうか。
12:30
造花にでも当たりたくなる気持ち、切ないです。
・渡辺信二より
折り紙
折り紙には、自己表白的な面があります。
心に涙を溜めないで
自然が癒しとなる東洋の伝統を踏まえた作品です。
形式と素材がマッチしています。
リフレーンが有効です。
晴れた日のために
有名なアリア「ある晴れた日に」を受けているとは思えないが、でも、詩の世界は、人類の記憶の世界です。背景の物語を語りたくないにしろ、「逃げ切る」「浄化」などの言葉が示唆するところを、読者も共有できると良いのだが。
祈り
名詞止めと、イメージ連鎖による詩作ですね。何を祈るのだろうか。
無明
語り手の視点というか立場が、「安楽椅子」に座っていたり、「終着駅」を目指した列車に乗っていたり、「歩く」ことで近づく、など変化するが、10数行の作品ですので、どれかで統一した方が作品としては、時間の流れ・人生の進行を対象化しやすいはず。「心年ふりて」は、ちょっとわからなかった。
ヒマラヤンクリスタル
「私達」は、選べるものと、選べないものと、もろともに「そのままに来た」人生というわけか。言葉を拒む石に言葉の信頼を託す矛盾を生きる。
潤沢
語彙が「潤沢」で、脚韻もほぼ揃っている。せっかくなので、形式から言えば、完璧な規則性(たとえば、全て2行ごとの脚韻とか)や、さらにいうと、行中韻をこころみるのもおもしろいかも。内容としては、どう終わらせるかがポイントです。
11月
「低くなってゆく」(2)のが、「上へ上へと登って行った」(4)へ変化する詩的ロジックが欲しい
糸
怖い話が隠されているような言葉運びです。
「仕上げるつもりの気がかりなこと」という舌足らずな表現が気になる。
別れに寄せて
「別れの詩は歌わない」という「別れの詩」ですね。
無題
そうなのか、「生きる。それだけが、ほんのささやかなあなたへの仕返し」なのですか。
散文詩であることを考えれば、「そんなちからもないことは、ぼんやりと、でもきっと明日も同じ」と言った中途半端な文章は避けて、きちんと言い切った方が良いのでは?
サイクル
1日のメンタルな浮き沈みがよく表現されている 「普段の私」って、結局、朝午前午後夜のどこに出現するのだろうか。「真夜中」に、なぜ、何もかも投げ出せるのだろうか。
闇の小道
人生の比喩的表現として読みました。
「闇の小道」は「どこまでも深く暗い」(1) はずなのに、最後、「広い夜空」(17)がみえるのはなぜなのか、不明です。
小指
小さいけれど大事な記憶です。最終2行に「温かい記憶を/無意識に辿って行った」とあるが、その表現ほどに「辿る」ことのできる時間的な広がり、あるいは、深みが、作者の「頭の中」から言葉となって出てくると、読者もさらに安心して読めるのだが。
12:30
作品本体は、流れがあり、まとまっている。
タイトルと内容の関係は、作者だけが知っているのだろう。
あさひてらすの詩のてらすでは、
みなさんの作品のご投稿をお待ちしております。
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