爽籟を感じる季節に届いた4篇の詩 (22年10月)
暑さも落ち着き、久しぶりに聞いた花火の音もすでに遠くに行ってしまった頃、あさひてらすの詩のてらすには4篇の詩が届きました。「爽籟を感じる季節に届いた4篇の詩」、粒揃いの作品たちをお読みください。
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「爽籟を感じる季節に届いた4篇の詩」 ・死者の陰影 ・日々のまにまに ・「ギフト」 ・ESP |
死者の陰影 関根 全宏
大の字に寝そべり 窓の外を眺める すぐ隣の家の屋根がみえる その裏側がみえる 薄汚れた雨樋と骨 その向こう側 遥か上空で うすい雲がゆっくり動く 家にはわたしひとり 呼び声に耳をすませ あなたをインストールする そのまま目をとじ 死者の陰影が わたしに満ちる 果実がひとつ 死とともに横たわる |
日々のまにまに 野木 まさみ
やさしい うれしい
可愛い 綺麗
楽しい おいしい あたたかい
ふんわり心が満ちてゆく
それは まあるくて ほんわりしていて 柔らかく
きらきら光って 澄んでいる
さまざまに 形を変えて これも確かに此処にあること
どこからか 花のよい香り
たくさんの感謝を込めて そっと吸い込む |
「ギフト」 雪藤 カイコ
欲しかったものは嬉しい 理解しがたいものは迷惑
言葉とギフトは似ている
心のゆらぎなのだと思う
誕生日に気持ち悪い人形が届いた 友達の最近のお気に入りだという 想像力が足りないのはどちらだろう
疲労回復にと差し入れをもらった 苦手な食べ物で食べられなかった 気を配れなかったのはどちらだろう
文句を言うのは簡単 理解しあうのは困難
じっくり煮込んで作り上げる料理のように たっぷり話し込む時間が必要なのだと思う ずっと一緒にいたい相手ほど 互いが本当に欲しいギフトを探すため 心のよりどころになれるか見極めるため |
ESP 長谷川 哲士
鴉が八 蝶は二 燕三
ヒトはヒトリ
古い食堂の厠へ お邪魔しますお借りします
群青のタイルに 埋め尽くされたその床面 それを 瞬きもせずじっと見つめ 瞼閉じる事忘れる程 見つめ続ける
何をか思い直す
時間 無限では無いと 知る 無駄に過ごした 時よ時よ時たちよ
ぎゅっと瞼を閉じてしまう 身体の電源を落とす 熱して発火しそうな この身体を 冷やす為の冷やし中華を 注文する
喰おうか啜ろうかマヨネーズ追加しようか もう一度身体の電源入れ直そうか
速度の玩具 狡い奴等だね 凄い速さで中華麺吸い込まれて 瞼閉じてまた開けて
晴れた夏の大空を 見上げてみよう おお タイルの様に艶々の大空だ 群青の |
|世話人からの講評
・千石 英世より
死者の陰影
最後の2行が印象に残ります。それまでの運行も着実かつイメージ豊かで良い作品だなあとおもいました。一点「インストールする」、これは本作のポイントになる語として置かれているとはわかるのですが、それだけに、どうすることなのか、つかみきれませんでした。分かるような気はします。あなたと一体になるとか、あなたに成り代わるとか、あなたの分をも生きるとか、あなたという果実、といっても死者なのですよね、を抱擁するとか。。。
でもでも良い作とおもいます。
日々のまにまに
まずタイトルがいいですね。いいだけでなく作全体を包み込んでいるように感じます。「これも確かに此処にあること」が作の頂点に位置すると受け取り、十分、その役割を果たしていると思います。ここにむかって短い語がシンプルに重ねられていくその行程もすがすがしいと感じました。小声で愛唱したくなります。
「ギフト」
いきいきとして面白い詩だと思いました。「文句を言うのは簡単/
理解しあうのは困難」この二行すごい! ヒップでホップでグッときます。これをはじめ、的を突いたフレーズがつぎつぎ、きびきびと繰り出され、こころにリズムが宿るように感じています。とても感心しました。共感しました。
ESP
素晴らしい! 出だし4行よくわからんのだが、わからんなくても、そのままで全部素晴らしい! 読ませていただき、元気が出ました。いいなあ!
・平石 貴樹より
死者の幻影
雰囲気がいいですね。もうすこし長くても・・・。
日々のまにまに
やや抽象的な感じでした。
「ギフト」
細やかな感受性ですが、ちょっと処世訓に近づいてしまったかと。
ESP
最終連になんとなく感動しましたが、その前の「狡い奴等」などがよくわかりませんでした。
・渡辺 信二より
死者の陰影
一貫性と統一性に優れている。
「あなたをインストールする」、これですね、これが難しいところです。
日々のまにまに
形も流れも整っている。「それ」と「これ」の不明さを読者がどう評価するかで、この作品の評価が分かれるでしょう。
「ギフト」
分かりやすい。文句を言っていながら、「文句を言うのは簡単」と言明することで、流れを反転させて、「たっぷり話し込む時間」へと導く。
ESP
4連目「群青のタイル」を見つめる視線が最終連の大空を見つめるのか。面白い。
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