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あさひてらすの詩のてらす

催花雨に打たれる17篇の詩 後編(25年3月)

こちらには後編の8篇を掲載いたします。

ぜひご一読ください。


 

催花雨に打たれる17篇の詩 後編

・弁慶の泣き所

・希望という名の丘

・二月の終わるころ

風花かざばな

・アヴェ・マリア(シューベルト)

・人間の生き方

・Eight Days A Week

・よきこと

 

弁慶の泣き所

陳意榕

 

石の上にも三年

縁の下の力持ち、君を支えていた

目に余る、君の冷たい後ろ姿

蛙の面にみず、裏切り者

君たちは

悪口雑言を異口同音で、

バラバラにした、私の心

紫苑を持って、

喉元過ぎれば熱さを忘れた

後悔先にたずの私、

灯台下暗し、貴方の真面目に見えない

耳に付くのは、君の美辞麗句だけ

 

希望という名の丘

SilentLights

 

くさのうえに 横たわり

あのひとを夢見た かけがえのない長い月日

 

あのころ 目にした

青空の ひろがり

やさしい風にそよぐ 木々のすがたを

 

私は これからも

忘れることはないだろう

 

手を伸ばし

意味のある何かを つかもうとしていた

遠い あのころ

 

若き日の きらめき

そして

胸に抱いた 痛みを

 

私は これからも

忘れることはないだろう

 

草原のうえを

やわらかな風が 吹きわたってゆく

 

丘のうえから

私は今 かなたを夢見る

 

二月の終わるころ

槻結糸

 

裸木に色が付き初める

 

整っているのか

 

その枝端の先まで

 

陽の温もりを巡らせているのか

 

大地の温もりを汲み上げているのか

 

よくよく整ったとき 風が吹く

 

芽吹きを促す風

 

その風が齎す

 

圧倒的なエネルギーの放出

 

騒めきを鎮めよ

 

陽の温もりを四肢に巡らせ

 

大地の温もりを足蹠より汲み上げ

 

芽吹きの風に 心乱さず

 

静かに 静かに

春に融ける

 

風花かざばな

南野 すみれ

 

ストーブの上のカップ

ミルクコーヒーに膜ができている

揺らしたら、

小さな波が、

破れたところに、

 

荒れる冬の海は

大陸からの強風が白波を

走らせる

波は突風と一つになり

岩を砕く

クダイテイク

砕けた岩は海の底で砂になる

砂は いつの日かこの海岸に戻ってくるのだろうか

濃紺の海にもうすぐ光が混ざる

切り落ちている水平線が

やがて向こう側に伸びていくだろう

 

赤子を抱くようにカップを抱いた

そういえば

庭の蕾がほころびかけて

染まっていた

 

ひと暴れした季節が終わる

ゆるり季節が始まる

 

 

アヴェ・マリア(シューベルト)

芦田晋作            

 

標高は 

高すぎると

花の香りも生活の匂いもしない

人は

人の姿が見えないところまでくると

いつもとは違う音楽をつくる

人は 

堕落するのも好きで

低き谷にも流れてもいくが

充分に堕ちると

高みを欲するようにもできている

音楽は 

生活の中では生活を歌い

花の中では花を歌い

山頂では

のぼってくるものを

待っている

 

人間の生き方

鈴江貴仁

 

昨日と同じ朝が来る

時計の針が僕の背中を急かす

街は止まらない僕だけがたちすくす

 

夢を語れば笑われる世界

「現実を見ろ」と冷たい言葉が降り注ぐ

だけど心の奥で何かが叫ぶ

 

人の波が押し寄せて僕をどこかに運んでいく

気づけば同じ歩幅で進んでいる

「これが正解」なんて誰が決めたんだろう

 

「頑張れ」って誰が決めたんだろう

風のように行きたいのに足枷ばかり増えていく

自由ってなんだろう声は誰にも届かない

 

夜の街に光を散らしている

夢も希望も約束も照らしてくれて

明日が来るならもう少し歩いてみよう

 

Eight Days A Week

鏡文志 

 

一週間に八日でも、神様にくれてやらあ

一週間に八日でも、神様にくれてやらあ

 

強制入院の後は、移動拘束義務

年寄りと病人と、毎日過ごし続ける日々

 

一週間に八日でも、神様にくれてやらあ

一週間に八日でも、神様にくれてやらあ

 

休め休め 病院福祉に貢献しても人のためになるめえ

頑張ったって仕方あるめえ 体よく怠けろぅ

 

一週間に八日でも、神様にくれてやらあ

名声でも世間体でも、神様にくれてやらあ

 

引退者のために頑張る医療貢献の世界で

頑張れば頑張るほど、皆で痩せ衰えていく

こんな国の仕組みにしたのは、誰だ?

 

よきこと

ナカタ サトミ

 

疑いかたも知らず信じたのだった。

たたかう人の無自覚に大きな影がやましさとともに寝室へと近づいてきたときも私はまだ信頼していたのだった。

荒地に花の咲きこぼれるようにあらわれた人だと柄にもないうぶなきもちで敬ったけれど、不信という毒を撒いてその人は去った。

私のみすぼらしくも美しい古里よ、かなしみの雨を流してやる。いかりの風も吹いてやる。よきことをなせ、信頼は罪ではない。

もう一度お前の好きな花が咲くまでは、私はあの晩のことを許しはしないから。

 

 

世話人たちの講評

千石英世より

弁慶の泣き所

つらい内容ですが、つらさを忘れて読めました。ことわざ的定型表現が、さばさばした効果を上げているのでしょう。「君」「君たち」「貴方」はちがう人? もし同じ人ならどれかにそろえてもいいかも。

希望という名の丘

きれいな歌です。歌いだしたくなります。メロディーをつけて。「胸」は痛むが歌はながれる。

二月の終わるころ

「整っているのか」の主語は「裸木」で、幹のなかで季節への準備が整って、という詩ですね、木に呼びかけ、木に励ましを送っている…。いいですね。

風花かざばな

おもしろいよくできた作だとおもいます。ミルクと海の対比がすごいですね。「クダイテイク」のあとに1行空きがあってもいいような、でも、むろん現行で、すばらしいとおもいます。贅言余計でした。

アヴェ・マリア(シューベルト)

最後の3行なるほどとおもいました。うまいですね。どんな音楽なのか想像します。

人間の生き方

第1連の「朝」から4連まで、朝の時間が推移してゆくと捉えました。そして「夜」です。この「夜」をカメラ目線で刻銘にとらえてみると迫力がでてくるようにおもいます。

Eight Days A Week

偶数連のところの中身を具体化してみると「神様」がどんな神様なのかが具体化されるように思いました。

よきこと

迫力の詩です。「花」が2度出てきます。その2度のイメージの違いを、そして、その変化変容をさらにイメージ化してみると「かなしみ」「いかり」の中身がぐいとせり出してきて迫力を増すようにおもいますが…。

 

平石貴樹より

弁慶の泣き所

 コミカルに傷ついている。よくわかります。

希望という名の丘

 けなげです。がんばってください。

二月の終わるころ

 なかなかの観察ですね。

風花かざばな

 タイム・スパンがなんかずれてるような・・・。

アヴェ・マリア

 なるほど。そういうものですか。

人間の生き方

 よくわかります。もう少し歩いてみましょう。

Eight Days A Week

  ビートルズをなつかしく思い出しました。

よきこと

 つらかったですね。忍耐と成長がまずは大切だということですね。

 

渡辺信二より

弁慶の泣き所

「君」「君たち」「貴方」は、同一人物(たち)を指しているんだろうか? 「私」とはどういう関係なのだろう?

希望という名の丘

場所が「くさのうえ」(1行目)、「草原のうえ」(16行目)、(丘のうえ」(18行目)と交代してゆくが、その効果はどうなのだろうか?

二月の終わるころ

初春が樹木に入り込む様子をよく描いている。

風花かざばな

もしも風花が晴天時に雪が風に舞う現象を意味するなら、これと海底の砂との関係がもう少し詳らかになるといいかもしれない。

アヴェ・マリア(シューベルト)

音楽作品を題材にするのはとても難しい。

人間の生き方

「足枷」が増えようと「もう少し歩いてみよう」とするのは、勇気ある「人間の生き方」です。

Eight Days A Week

元のビートルズの歌詞には、"Hope you need my love babe/Just like I need you"とあります。

よきこと

人称名詞「私」と「お前」を使い分けて、過去の「私」を「お前」と呼ぶことで、後者を愛おしみ大切にしながらも前者が後者の経験を踏まえて前へ進んでゆくのでしょう。

 


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