短い梅雨に届いた詩 後編(22年7月)
「短い梅雨に届いた詩」の後編です。前編はこちらから。
短い梅雨に届いた詩 後編 ・水の裏側 ・ニュー宗教おニューの ・「あけ鳥」 |
水の裏側 祝杯にきらめいている ひとびとはこれまでどのくらい わたしたちの愛は 梅雨の折、本日は晴れまに恵まれ‥ 鏡のような青空のうしろ 水の裏側で 流れのままに こすれ合う 軋みを聴きながら 遠く碧くゆたかに濁った海をいく とてもなつかしい 匂いを嗅いでみた |
ニュー宗教おニューの 血染めの電信柱が一本だけそこに見えるでしょ 君、頭おかしいのでの事給われると まあ、良い、そのまま少し歩いて行って そこの虎皮を被った鬘を被った包茎のオジサンに 其れ其れ其れ その生物だよ その人というか動物というか其れに 苦しいね苦しかったねえ アッ、その前に虎爺に餌やった? ユートピア建設しませんか まぁゆっくり参りましょうや 蓮の花浮いた湯そして楽園そして |
「あけ烏」 雪藤カイコ 指をめり込ませた背中が悲しそうに震えてる 波の音に合わせ何度も愛と快楽に身を寄せる せめて夜が明けるまで 指輪の場所に戻るまで 体内にずっと感じていたい 近づく夜明けに呆け、体を揺らす 烏の鳴き声が朝焼けを告げる 二羽並んで空の影になる 二人のシミが刻んだ時間を残している 「あけ烏のようだね」 視界から消えゆく烏を眺めた 「そうだね」 もう見えない烏がいた遠い空 どこまで朝を告げに行くのだろう 涙が目元を無視して指先をつたう 新色のマニキュアが同調して気配を隠す この人を圧縮できたら持って帰れるのに 少しだけ息苦しそうに服を着る 聞こえてしまいそうなため息を 窓を開けてあてのない風と絡み合わせた |
|世話人からの講評
・千石英世より
水の裏側
3連目「そうして」は、意味の表面をたどれば「しかるに」となるところ、今日のところは「そうして」で、許しておいてやろう、手加減しておいてやろう! という感じでしょうか。重たい詩ですね。というか、重たいものを隠した詩ですね。そこで、重たいものを正面にすえて遠慮会釈なくリアルに精密に描写するというい道もあるかと思うのですが、それだと詩でなくなるのかしら。詩でないものとこそ取り組むのが詩であると気楽に考えて、ふわっと空中浮遊する道もあり得ますが…。むろんやさしいことではないですが。
ニュー宗教おニューの
ある種のロックミュージックを思い出しました。難解句に「頭おかしいのでの事給われると」がありましたが、「苦しいね苦しかったねえ/救われたいのねイイわよ此処は/まあこの液体でも飲みなさい」の3行にはつよいリアリティーを感じます。特に「まあこの液体でも飲みなさい」が、すばらしい。タイトルの標榜する宗教性、あるいはそれ以上かもしれない。また、「右に曲がって」「右手に」がうまい。あくまで政治的な左右はこの際まったく無関係で、詩の造りとしてうまいと感じます。「お背中流す男女問わず」というお仕事は今でもあるのでしょうか? 昔、銭湯にはそういう仕事があったとか、銭湯でなくとも、サウナなんかにも。何だかなつかしいような1行です。
「あけ烏」
「この人を圧縮できたら持って帰れるのに/少しだけ息苦しそうに服を着る」の2行が良いと思いました。ただ、「少しだけ」が気になりました。せっかくの「圧縮」とのカラミを活かすとすれば、ということですが。
・平石貴樹より
水の裏側
「水の裏側で」からの3行は印象的でした。
ニュー宗教おニューの
ちょっと面白かったです。
「あけ鳥」
やや歌謡曲っぽいですか。
・渡辺信二より
水の裏側
主語述語の係結びが気になる。詩なので、主語述語の関係が乱れてもいいのだが、このままだと、例えば、第3連、主語述語の係結びが正しいのだろうかと思わせる。つまり、「わたしたちの愛は/・・・/自分ひとりの中に/男神と女神を 見いだそうともしている」と読めるが、そのメセージが読者を納得させるだろうか? あるいは、最終連の述語「聴く」「海をいく」「匂いを嗅ぐ」はどう関連するのだろうか?
「イメージの連鎖が読者にもっとさらに訴えてくれば良いのだろう。
ニュー宗教おニューの
何かに心ざわつく語り手がいるのだが、誰に何を伝えたいのか、イメージの激しさやワイ雑さが、必ずしも、世界を切り開いてはくれない。「多様性」で世界を説明しようとして、それで読者が納得することもあるだろうが。
「あけ烏」
古来のキヌギヌの歌は、翌朝、帰った男から女の元へ送られる歌だったが、それを変換したこの作品は、帰ろうとする女から残る男への言葉書きだと読める。
「指輪の場所に戻るまで」、が秀逸でしょう。
古代は、お互いの下着を交換したとも言いますが、相手は言葉を発しないのですかね。
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