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あさひてらすの詩のてらす

ふらここに揺れる14篇の詩(25年4月)

桜もすっかり葉桜に姿を変え、日中はすこし汗ばむ季節となりました。今回はご投稿いただいた中から、14作品を掲載いたいます。春を感じさせる作品もあり、作品に宿る言葉の息遣いが聞こえてくるようです。ぜひご一読ください。


 

 ふらここに揺れる14篇の詩

・24

・…頃から

・沈黙の臓器

・ニュース

・風のかおり

・人間だもの、人間だから

・帰り道

・陽光

・人生の選択が見えたとして

・月夜風

・スカボローフェア

・春の夢

・しみる

・その花の言うことには

 

24

散歩家

 

0に一が足されて

新たな日が始まる

意識のない時間が流れる

 

六になって初めて

自分の時間が動き出す

変わらず数字は増え続ける

 

1増えるごとに

空の笑みが沈んでいく

陸の笑みが増えていく

 

1がだんだん積み重なって

二十四になった時

 

…頃から

棒ノ折 山田

 

…の頃から本当のことがどんどん言えなくなる。

 

本当は徹夜でゲームをしたせいで体調が悪いことだとか、

 

ただ、めんどくさくなって約束を破ったのだとか、

 

あなたの顔の作りがどうにも気になのだとか、

 

あなたのノリに虫酸が走るのだとか、

 

いまでも日に3本吸っていることだとか、

 

雰囲気や言葉の選び方に恋をしているのだとか、

 

よかったら今度お茶してほしいのだとか、

 

瑣末なことも、大切なことにも口を閉ざして、

 

それが積み重なって不機嫌な顔の一人の人間ができる。

 

それは良いことでも悪いことでもないのだけれど、

 

それが昔想像していたのとはなんだか違うなってことは、

 

きっとみんなが思うことなのだと思う。

 

だけどまた別の…の頃から、

 

そんな今の自分もまあ悪くないかと思う。

 

沈黙の臓器

七海独

 

僕は沈黙の臓器。

決して悲鳴をあげない。

助けてと言わない。

最後の最後まで、

沈黙を貫く。

そして、

もうどうしようもなくなった時、

静かに泣いて散る。

僕がいなくなった時、

もしかしたら誰かが、

僕の存在に気づいてくれるかもしれない。

それまで僕は、

沈黙を貫く。

たとえ苦しくても、

惨めでも、

僕は決して悲鳴をあげない。

助けを求めない。

だって僕は、

沈黙の臓器。

 

ニュース

南野すみれ

 

軟らかな土の感触と

匂いが

からだを目覚めさせる

 

葉桜の根は乾いていない

雨が降ったのだろう

空では小鳥が鳴いている

風が

ここに居ると葉を揺らす

 

夕べはニュースを聞きながら寝ていた

長い 長い夢のなかで

恐怖に追いかけられて

逃げ回って、逃げた

どこへ?

わからないことが恐怖だった

 

世界はニュースの通りに動いている

雲に覆われた空はスキマ一つの青もない

風まかせのヨットが北辰を捉えられずに

漂っている

 

足下で閉じている蒲公英を

手折る手、を

止めた

 

風のかおり

SilentLights

 

あなたを想う

この気持ち

 

すきまなく

言葉をならべることでは

言いあらわせない

 

それはきっと

野に吹く やさしい風に

似ている

 

木々を

しずかに

ゆらすように

 

綿毛を

しずかに

とばすように

 

遠い あなたを

想いたい

 

人間だもの、人間だから

鏡文志

 

人間だもの、誇りを持つのだ

人間だから、獣とは違うのだ

鳥や獣が自分を卑下しないように

人間は落ち込んでいる時さえ、傲慢だ

人間だもの、春の風感じるのだ

人間だから、借りた金返すのだ

落第者が道徳を嫌うのを笑うように

春の風、音楽のように軽快だ

人間だもの、自分の尻自分で拭くのだ

人間だから、時におしっこもこぼすのだ

失敗を重ねて成功があるように

チョコレートの味、ほろ苦く甘く

帰りの散歩道、歩く僕を勇気づける

 

帰り道

倉橋謙介

 

小学校の校門前に

1本だけ植えられた

満開の桜の下で

犬が鼻をクンクンしてるのを

おじさんは見るとも無く見ていたが

どこかでタイミングがきたのか

クイッと紐を引っ張って

そのまま坂を下っていった

どちらにとってもそれはただの

夜の散歩の決まりごと

今更何も

面白いことなんかないんだろう

向かいで信号待ちする僕には

桜の花びら1枚透かして

死んだ母と犬の姿が

重なるようにみえていた

声をかけたら

一緒に顔を上げてくれそうだ

 

陽光

槻結糸

 

柔らかな陽光が空から降りてきて

冬を忍んだ樹々を包み

鶯がほほほけきょと光の中に鳴く

 

柔らかな陽光が空から降りてきて

春の川面に宿り

きらきらと光の粒が瞬く星になる

 

柔らかな陽光が空から降りてきて

未だ雪が残る林の中に光の柱を創る

煌めく光の粒が柱の中で自在に舞う

 

柔らかな陽光が空から降りてきて

わたしを包み

わたしに宿り

わたしを照らす

 

柔らかな陽光が空から降りてきて…

 

 

 

人生の選択が見えたとして

草笛螢夢

 

生きていくのに

これから先の選択で立ち止まる

 

目の前の人が自分と気が合いそうで

好意的で気が合いそうと見極められたら

理想の幸せを掴めたと思えるだろうか

 

今まで 幾つもの分かれ道で

選択を迫られながら 同じ迷いを繰り返し 

またある時は 今までの過程のせいで

意図しない選択を選んでしまう事が

多かったかもしれない

結果として その殆どを人任せか

自分の意志で 選んで今がある

 

今からも続く道では 選択の直観力と

自分に必要な力が身に付いたなら

どんな未知の世界が待っているか

きっと誰にも予想は立てられないから

前だけを見て進んでみる

 

月夜風

yasui

 

一体何度目の夜だったろうか。

おつきさんがきれいだよと、慣れない紅を指して君が言う。

ああ、ほんとうだね。月を見てみると三日月だ。

三日月だね。と言う。

そうだよ。三日月だよ。と君が言った。

うんうんきれいだな。とずっと月を見ている。

ぼくもうなづいて、うんうんきれいだね。とそっと言う。

窓から少し夜風が通る。

まだ寒いね。

うんうんそうだね。

閉めようか。

うんそうしよう。

 

スカボローフェア

南野すみれ

 

カーステレオから

『スカボローフェア』が流れて

市(いち)が浮かんだ

 

笑い声

魚の匂い

パセリ、オレンジ

誰かが大声で話している

 

足音を重ねて石畳を歩いていた

まるかじりの林檎が頭のなかで音をたてる

粉雪、突然

頭と肩にちいさく積もる

見上げた寒空は 雲ひとつ

石畳の小雪が踊っている

立ち止まり、

無理難題をいう男

女は、

 

音と色、熱と匂い

根雪になった言葉

拾えない時間

 

道が下がっていく アクセルを

踏み込んだ

 

春の夢

小村咲

 

地球儀を捨てたあの日から

世界は少し小さくなった

スーツケースをいくつか買い替え

桜はブーゲンビリアにとって代わり

空を見上げる時には両足の

しんなりと芝生に沈む様が

なんとなく頼りない気がして

君の瞳の色を覗き込む

なかなか降らない雨は

ブルーのカーテンを汚すことなく

山の向こうで燻っているのだろうか

誰かの話し声

旅客機の飛行音

キャスケットを投げ飛ばしたら

もっと遠くへ行ける気がした

である

 

しみる

倉橋謙介

 

使いたい時には

乾いてるもんだよ

なんて

フォローになってんだか

君がカバンから

サッと出してくれた

どこかのファミレスの

紙おしぼりは

僕を優しい気持ちで

確かに満たしてくれた

ハンバーガーからこぼれたトマトが

ズボンに消えないシミをつけても

今はどうでもよくなるくらい

 

その花の言うことには

高山千歳

 

ある日

魔法の花を拾った

おしゃべりできる不思議な花

小さな植木鉢から顔を出すと

[私はレモン水が好きなの]

[分かった]

言うとおりに用意してやった

[ああ美味しい]

それからは前の世話人の話

花は綺麗で優しいご婦人の話し相手だったという

毎朝好物のよもぎ団子を肥料にくれていたらしい

その花はそのご婦人を心から愛していた

[でも急にいなくなったの]

突然その花から姿を消したとのこと

寂しくて寂しくてしおれかかるところだったと

話つかれたのか眠るように黙ってしまったので

私もすやすやと寝てしまった

次の日

花は普通の花になっていてうんともすんとも言わなくなっていた

私はそれから毎日レモン水とよもぎ団子を

その花に与えている

[私はいなくならないようにするね]

 

 

世話人たちの講評

千石英世より

24

数字が面白いです。算用数字と漢数字の使い分けにいみがあるのかと考え込みました。最後の2行は、続きは読者で補ってということだな受け取りましたが、どうでしょう?

…頃から

面白い自己省察だなと思いました。前半「…とか」の反復がリズムがあっていいなと思います。なんだかどきっととするような発言もあって。最後の1行はまとめすぎかな? もう、ちょっと宙ぶらりんでもいいではないかとも思いますが、そこは受け取り方はいろいろなのでしょうね。

沈黙の臓器

まっすぐな表現に好感します。臓器の形はどんな形なのか、想像します。何の内部にある臓器なのか、想像します。となりの臓器はどんなのか。不思議さのある作ですね。

ニュース

3連目からの後半に抜群の詩を感じます。凝縮された意志を感じます。隙のない詩を感じます。

風のかおり

やさしい恋歌になっています。2連目がとくにこの作をささえているとかんがえました。

人間だもの、人間だから

人間への応援歌と受け取りました。生活感のある語彙と一般的な語彙の混ざり具合をちょっと整理するとさらに面白い作になりそうだなとも。

帰り道

読後、「僕」の登場以後がとらえきれない、時系列的にも空間位置の配置的にも、そんな感想をもちました。そこまでは描写が確実で、いい作品になっていると思います。でも、難しい心模様をとらえようとしている力技が感じられ、応援したくなります。

陽光

「陽光」に照らされるもの、こと、を身近な生活世界からもってくるというのはどうですか。そうすると「陽光」のありがたさが倍増するような魔法があらわれるように思いました。そうすると終わりから4行目以降のリフレインの透明さもきらきらと増すような...

人生の選択が見えたとして

力強い自己省察と拝読しました。その強さは最後の連で、控えめになっているのですが、最終行でまた盛り返しています。この1行の先にさらに深い省察と強さが湧き上がるであろうと予想させる作になっていると思います。

月夜風

シンプルな運びなのに、いいなあと思いました。二人の関係もいいし、言葉遣いも無理がないし、こちらまで幸福な気持ちになります。

スカボローフェア

映画の場面のようです。映画のシナリオになっているようにも受け取りました。その分言葉の流れ、というか、文章の流れによる登場人物の心模様、心理の熱い汗、葛藤、苦渋が車窓の風に流されて惜しいところだと思わせます。しかし、これはないものねだりの場違いの感想です。シナリオ風の詩だって十分伝わるものはつたわっているのですから。というわけで贅言でした。

春の夢

よくできた作品。音楽がある作品。済んだ声で歌がながれてくる作品なのではないでしょうか。

しみる

「ファミレスの紙おしぼり」、この、えもいわれぬ具体性が魅力です。

日常にみなぎる恋心、好きです。

その花の言うことには

何かいい物語が、そして深い話がかくされている詩だと思います。隠されているところを一言か二言か挟めばこのやさしい口調がさらに胸に迫って来るのではと思います。

 

平石貴樹より

24

 なんとも半端な感じですが…。

…頃から

 なんか納得できます。そういうものなのでしょうね。

沈黙の臓器

 意志を感じます。

ニュース

 幕切れが印象的です。

風のかおり

 美しいです。歌になりそう。

人間だもの、人間だから

 やや散漫ながら、納得します。

帰り道

 どういうお母さんだったのでしょう。

陽光

 まさに最終行のつづきを書いてほしいです!

人生の選択が見えたとして

 ぜひそうなさってください。

月夜風

 え、これだけですか?

スカボローフェア

 下り坂でアクセルを踏み込んでだいじょうぶでしょうか。

春の夢

 おぼろなところが春らしいのかな。

しみる

 いい場面を切り取りましたね。

その花の言うことには

 見事な展開ですねえ!

 

渡辺信二より

24

漢数字と算用数字の使い分けの秘密がわかるといいのだが。

「散歩家」にとって、時間は「増える」のか、「流れる」のか、それとも、「積み重なる」のか? あるいは、その全てか?

…頃から

タイトルを含めて「…」を3箇所で使っているが、読者に言いたくないのか、自分でもわからないのか、あるいは、別の理由があるのか、わからない。

細かい事だが、「どうにも気になのだ」(4行目)が気になる。

沈黙の臓器

「沈黙の臓器」が、沈黙を破って語る構成です。なぜ、この「臓器」が沈黙を守るのか、なぜ、存在に気付いて欲しいのか、なども知りたい。

ニュース

「世界はニュースの通りに動いている」はとても面白い発想です。これをもっと活かせないか。

風のかおり

雰囲気があります。

「遠い」ってなんだろう。 私の想いが遠い? あなたが遠い? 全てが「遠い」? 

「遠い」をもっと生かせると期待しています。

人間だもの、人間だから

確かに、人は、誇りもしくじりも抱えて生きてゆきます。

帰り道

「死んだ母と犬の姿」が「みえていた」のは、どこからの「帰り道」だったのだろうか、気になる。

陽光

「柔らかな陽光が空から降りてきて」が、全ての連の第一行目に必要なのかどうか。これが評価の分かれ目でしょう。

人生の選択が見えたとして

詩は、こうした人生哲学的な作品を好みます。さらに具体的になると、感動が生まれるでしょう。

月夜風

ケレン味のない素朴な会話が良い。

第一行目「一体何度目の夜だったろうか」が必要だとすればの話だが、これが生きるためには、読者に対して、これまでの夜との違いを際立たせるか、それとも、やはり、これまでと同じだったと納得させるか、どちらかにしてもらえると助かる。細かい事だが、「紅を指して」は、「紅を差して/さして」?  それとも、「紅を指差して」?

スカボローフェア

「魚」「オレンジ」「石畳」・・・と続く連想が作者にもたらす何かを、読者も共有できるならば、最終連、道が下るのに、アクセルを踏み込む理由もわかるかもしれない。

春の夢

「地球儀を捨てたあの日」という始まりは、読み手をワクワクさせますね。

しみる

「しみる」が効果的な小品です。

その花の言うことには

レモン水とよもぎ団子」ですか。面白い組み合わせですが、このふたつと「魔法の花」とを結びつける必然性が仄めかされると、「魔法」の「魔法」たる所以が、ぼんやりとでも、読者の腑に落ちるでしょう 魔法の花は、またいつか、喋り始めるのだろうか。

 


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