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あさひてらすの詩のてらす

踏青に寄り添う5篇の詩(24年4月)

踏青とは、春先に野に出て草を踏んで遊ぶこと。今風に言えば、ピクニックになるでしょうか。桜も咲き、暖かい日が続く日々、外に出ていつもよりすこし遠くまで歩いてみると、新しい言葉が自分の中に浮かんでくるかもしれません。

今月の詩のてらすは、5篇を掲載いたします。ぜひご一読を。ご投稿も引き続き募集しています! 


 

  踏青に寄り添う5篇の詩

・明日

・三面鏡

・陽春/まほろば便り

・妄念

・ギヤマン

 

明日

花 詩子

 

遠く遠くに思うのも

手が届きそうに思うのも

 

それは心の持ちようで

 

明日は明日に変りはない

 

同じ時間が流れても

明日への距離が違うのは

 

時間を人が歩いているから

 

焦って歩いても

ゆっくり歩いても

 

空回りするのは感情ばかり

 

時間はいつもマイペース

 

 

三面鏡

草笛螢夢

 

過去

現在

未来

 

心理状態

現実

人間関係

 

直したい心模様

ありたい心模様

なりたい心模様

 

表に出せない顔

日頃の顔

周りから思われている顔

 

たくさんの光と

いろんな角度から確認しておきたい

今からの心構えを整える

 

ただ見たいのは

その扉を閉じた時

真後ろの貴方の顔は

今からどんな道を歩むのだろう

 

 

陽春/まほろば便り

野木まさみ

 

春が浸透して 吹き上げられた花片と共に

少女は風に口づけた

春は浸透して 散りばめられた心音が

書き損じの手紙からこぼれ落ちた

誰の耳に届くのか 知る者はいなくとも

 

芽吹き 蕾膨らみ

生まれたばかりの物語がはじまる

今は春の季節だから

春には春だけの 調べが奏でられるから

 

春は浸透して 立ち上るかげろうと共に

かつて青年だった者の瞳が揺られた

春が浸透して 閉じ込められた想いは綴られ

待人を辿る書簡には野菫の薫りが迷い込んだ

誰の手に届くのか 知る者はいなくとも

 

舞う綿毛 根を下ろし

時をへだてた物語がはじまる

今は春の季節だから

春には春だけの 不思議が起こるから

 

春が浸透しきったら

咲き誇った花々は 緑のベールに包まれて

初夏の子供が鐘をつき 春の淑女を送り出す

誰知らぬ季節の移ろいの約束事は繰り返され

幾つもの物語はかたられゆく


 

妄念

長谷川哲士

 

晴れ上がった空のもと

港は見える

ヒマワリ抱えた中学男子

港の方まで走ってゆく興奮している

好きんなった中学女子の事を考えてもいる

なんだろ体の中身まで青々してくる感じ

 

その目の前を超巨大タンカー横切り

最興奮中学男子将来成らん事決意

「何に?」「タンカーに!」

それ青春の突然父母もオドロキ

更に尚も強く思い込むあの中学女子の事も

強く強く

 

やらなければならぬことがあるのだ

 

タンカー良く観察してみるならば

船首から舳先へ向けてのスピード感

それまさしく尖ったリーゼント

真っ黒けの走るリーゼント

中学男子まず髪型から変えてゆこうと

伸ばしっ放しのボサボサさらば

汗まみれの決意と共に告白への前章

 

おもむろ高台方面の襤褸床屋へ

ヒマワリ抱えて駆け抜ける

 

いろんなおうちから

昼下がりのワイドショーの音声

聞こえる聞こえる

不倫絶唱坂長し

「オッサン、リーゼントにしてくれ!」

 

そこへ幼馴染のサッカー仲間ども

異変感じて追いかけて来る

隠れろ隠れろ

何故だか隠れろとにかくタンカーに成る

中学男子床屋にて

 

さっぱりきっぱりさあ行こか

真っ赤に染まって告白をする

沸騰するヒマワリの黄色が

凄まじいハレーションを起こして

新しい航海への予兆を告げる

 

ギヤマン

小村咲

 

ありったけの硝子の器を

青空の下に並べ

人差す指の先

桜色の付け爪でコツリコツンと

縁を弾いてゆく指先の旅

ひらり掬った六花をしゃらしゃらと注いで

 

まったりと待つ

器の中の雪解け

水平線が透けて見えくる

それまでの間愛しく

意味のない遊びを

光のもとで楽しめたら

蝋梅笑ってつるりと咲く

 

浅緑の器を手に取り

野辺に傾きかけた陽光を

透かして目を細める

揺れる水面がレムニスケートを描く

 

指の平で円をなぞる

次から次へ糸を掛けるように

ひらりゆらりと

畝り出す音階

不揃いの和音

歌にならぬ曲調を

永遠に奏で続けるとすれば

この想いは蝶々になり

果てなく夢現を謳うのでしょうか

 

 

 |世話人たちの講評

・千石英世より

明日

良い詩ですね、すっきりしていてさわやかな智慧がある。ここは「知恵」ではなく「智慧」としたいです。それに詩想が、きれい、というか、軽やかで、可愛い。

三面鏡

三面鏡の一面一面が各連になっていて、工夫のある作品になっていて、こういう作品好きですね。最後の4行が、三面鏡を閉じた世界を書いているわけですが、「真後ろの貴方の顔」の位置関係がじつに複雑です。いい意味で複雑です。三面鏡の左右の二面を閉じると、そこに封じられた顔があるわけです(光学的には無いはず)が、その封じられた顔を封じられたままそこに残して、くるっと三面鏡を背にして立ち去るひとがいるわけです。一般に「鏡」を作品に使うと作品世界が複雑に微妙になって面白いですが、この作もその範疇にはいりそうです。とても、シンプルなのに奥行があると思います。面白いです。観察力が冴えていてうらやましい。

陽春/まほろば便り

自然と人間の時間の経過とそれに沿って流れる静かな思いがよく伝わってきます。また、1行目に観察されたものの片鱗が登場しているのもいいなあとおもいます。「吹き上げられた花片」の「吹き上げられた」のところ。こうした自分の目で観察された自然がもっと登場してもいいかも。言葉の調べがおだやかで、流れるようです。長さも結構長くて、ということは持続力があり、展開力があり、力作になっているのではではないでしょうか。まだ推敲の余地はありそうですが、この線で、とは持続力と展開力の線で、じっくり粘ってみるのも詩作への一つの道であるように感じました。

妄念

凄い! 部分部分わかりづらいところもあるような気もしますが、そんなの問題にはならいないでしょう。鼓舞されました。

ギヤマン

全然好きな詩です。いいなああ! です。 細部にまだブラッシュアップの余地はありそうですが、たとえば、仮名と漢字の配置など、ありそうですが、基本、まったく好きな詩です。

 

・平石貴樹より

明日

 こういうテーマは七五調でないほうが、もっと個人的に書ける気もします。

三面鏡

 最後の1行、やや抽象的に感じました。

陽春/まほろば便り

 くっきりと立った詩だと思いました。

妄念

 中学生の一面を見事に活写していますね。

ギヤマン

 繊細でしかも個性的な感性ですね。

 

・渡辺信二より

明日

詩を書く力を感じます。

「心の持ちよう」(3行目)と、空回りする「感情」(10行目)とは、どういう関係に落ち着くのだろうか。

三面鏡

工夫があります。タイトル「三面鏡」と、本文の三行構成など、よくできている。

「心理状態」(4行目)、「心模様」(7,8,9行目)、「心構え」(15行目)と、「心」を多用するが、「心」に頼りすぎでしょうか。それぞれの「心」は、どうなっているのだろうか。

陽春/まほろば便り

詩を愛している姿勢がよく伝わる。

この作品は、言葉のイメージが良い。他方、イメージに頼っている面も強い。

以下の言葉は、イメージとして使われるだけでなく、

 第一連「書き損じの手紙」(4行目)

 第二連「物語」(7行目)

 第三連「綴られ」た「想い」(12行目)、「書簡」(13行目)

 第四連「物語」(16行目)

 第五連「物語」(23行目)

それぞれ、その内容が語られるのを待っているはずでしょう。

妄念

確かに、タイトル通り、タンカーを中学生に喩える妄な着想を、ことばの力で最後まで押し切っています。

ギヤマン

よく出来ている。よく出来ているので、その才能を惜しんで、ちょっと直截に言えば、イメージの連鎖に頼っていて、それ自体は良いのとしても、言葉の出し方・使い方に、もう少し気配りがあれば、より完成された作品となるように思えます。

ギヤマンで音を奏でるのが誰か、その姿かたちはどんなかなどは不問として、たとえば、ここは、どこなのか。季節は、いつか。「ひらり掬った六花」(6行目)とあるので、設定は、雪国、かつ、冬で、雪が積もっていると思われる。「六花」は、雪の異称だし、「蝋梅」(13行目)も咲いているので。でも、そうすると、いくら「青空の下」(2行目)であっても、器の中で「雪解け」(8行目)するだろうか。予め、器を温めておいたのか。器の縁を弾いてゆくため「指先」(5行目)を出していたり、「器を手に取」(14行目)ったりしているが素手なのか。しかも、陽光が傾きかける(15行目)まで外にいるのか。いや、これは、実は、屋内の話なのか。

「レムニスケート」(17行目)という言葉が、詩の中で使うのは、多分この作品が最初だろうけど、でも多くの読者にとって、すぐに理解が行き届くだろうか。そこから「円」(18行目)へ連想するのも、大丈夫か。また、「指の平」(18行目)とは「指の腹」のことか。「蝶々」(25行目)が現れるのは、日本だと、早くても春先だけど、たとえ暗喩でも、ここでこういうふうに使って大丈夫か。 

 


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