「ならいの詩 後編」 (21年12月)
「あさひてらすの詩のてらす」に今月届いた10篇の詩、その後編です。「ならいの詩」前編はこちら。
「ならいの詩 後編」 ・ピエロが空から降ってきた ・悲しみのカケラ ・崩壊 ・あなたが遅れただけ ・交渉 |
ピエロが空から降ってきた |
悲しみのカケラ 悲しみのカケラがきらめいて |
崩壊 秋峯かおり
水はいっぱいに溢れていた。これ以上無いくらいに。一体いつの間にこんな事になったのか。いくら考えても分からない。慌ててバケツで掃かすのみだ。 |
あなたが遅れただけ 秋峯かおり 「申し訳ないけど、遅れます」 |
交渉 秋峯かおり
この男も自分と同じだ。胸でひっそり囁くと、正面を見据えた。狩っても狩っても止まらない。乾いた喉は潤いを知る事がない。 |
|世話人からの講評
・千石英世より
ピエロが空から降ってきた
怖い詩です。でも、良い詩だと思います。「子供たち」はどうなっただろう? と想像します。
悲しみのカケラ
哀しい詩です。でも良い詩だと思います。中原中也を思い出しました。
崩壊
「いつもチーズをくすねるネズミだ。ハナクソをほじりながら…」のところ素晴らしい。グッとつらい笑いがこみ上げてきます。「だんだん腕が痺れて来た」、ここも伝わってきます。全体、具体描写が生きています。むろん心情の絵なのですが、よく描写的に客観化されていて強さを感じます。タイトルに一工夫でしょうか。「崩壊」は抽象語ですが、ここを具体物で言っちゃうという手もあるかなと思った次第。
あなたが遅れただけ
本作においても、「ヨドバシカメラ西口裏のスターバックスコーヒー」や「ネルソン・マンデラ」の具体的な場、もの、人が生きています。心情(身に見えない抽象的なもやもや)を具体的なもの、場、人に移し替えるところが面白いと思います。広い意味での比喩になっているといいましょうか。この比喩にするというのが詩想するということかもしれないと私はときどき思っています。
交渉
本作も、これをもっと比喩にすればどうなるだろうと思いつつ読み終わりました。寓話になるのではないだろうか。事実、本作は寓話的な要素の濃厚な詩想になっていると思います。イソップやグリムやアンデルセンや「不思議の国のアリス」といった。アンデルセンは寓話ではなくメルヘンかもしれないですが。とはいえ、本作のリアルさも面白いと思います。
・平石貴樹より
「ピエロが空から降ってきた」タイトルがすでに詩になってますね。
「悲しみのカケラ」第1連が美しいですね。
「崩壊」最後にネズミの一言を聞きたかったかも。
「あなたが遅れただけ」すごくわかる詩でした。
「交渉」もう少しで小説になりそうな感じです。
・渡辺信二より
天変地異を含めて理不尽としか思えないことが、古来からよく起こる。人知を超えた何かが、ぞんざいに人を扱うことがよくある。そのとき、人は、その事実を見つめ、祈る。生きるとは何か、人とは何か。
とりわけ、心ある人は、詩をうたう。確かに、うたう。現代には現代を反映する詩があるのだろうが、しかし、詩の言葉に託す思いには、何かしら通底するものがある。
うたうとは、訴う、である。もともと、詩は、神々への訴えであり、祈りであったのだと聞く。
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