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あさひてらすの詩のてらす

小春に届いた5篇の詩(22年11月)

今月の題に使われている「小春」とは陰暦十月の異称で、気候が温暖で春に似ていることからそう呼ばれているそうです。少しずつ冬支度がはじまった頃、あさひてらすの詩のてらすには5篇の詩が届きました。「小春に届いた5篇の詩」、下記に一挙掲載いたします。


 

小春に届いた5篇の詩

・「リーダーの口ぐせ」

・薬 罐

・真夜中の子供

・銀木犀の夜

・「冬の非定型文」

 

リーダーの口ぐせ」

雪藤カイコ

 

臨機応変に対応できない人がいる

それはしかたのないこと?

自分のために人のお金を利用する

それもしかたのないこと?

 

ありもしない感動に会費と名づけ

身勝手な理想を艶やかに着色する

種の近くだけ腐った果物のようだ

 

楽しいことが好きな人!募集します!

後悔はさせません!声とお金出して!

いつでも切り離せる関係性希望です!

 

カラカラ回る口ぐせが、カラっぽだとは

誰も気づかない、特大声量で気づかせない

 

台所で半分になった昨夜からのキャベツ

猛暑の中でもみずみずしさを保っている

それは喜ぶこと?それとも疑うとこ?

ブレーキを探している

引きずり込まれないように

ブレーキを探している

腐った物を食べないように

 

薬 罐

長谷川哲士

 

熱く熱くなって行く薬罐よ

我が貧困なる生活には欠かせざる

湯を沸かしましょうか我が血液も

沸々熱いサイダーみたく心打擲

 

貧太り窮太り困太り骨痩せる

全部混ざって固まって

棒になった生活達

そうれす我貧棒な人れす

 

薬罐ぴいぴい泣いているではないか

辛抱出来ませんかそんなに蒸気噴かせて

もう少し辛抱出来ませんか

こちらは貧棒なんです

 

病んで震えてる恋女房

意図もせず薬罐に触ってしまって

心まで火傷してしまって本当に可哀想

我不作法な程困ってしまって棒な夜

 

まさに沸騰せんとす薬罐ぴいぴい

火ぃ消して湯ぅ冷ましてよぉ

白湯でも呑みましょう落ち着いて

さあさ困った困った銭が無い

 

皮も心も火傷した女房よ許せ

どうぞ抱きしめてお上げます

どうぞ泣いておくんなさい

薬罐よその注ぎ口の奇妙な曲がり具合すら

嗚呼憎らしい金を呉れ

 

 

 

 

真夜中の子供

野木まさみ

 

屋根裏のねじ時計がふいに時を刻み

真夜中の子供が目を覚ます

あたたかいミルクとビスケットを待たず

約束事は全部お預けにして

開いた窓から港を目指す

手にした灯りが一列につながり

おちあった仲間と無言の合図

上気した頬が辺りを仄白く照らし

額には輝く星の印

さあ 出航だ

帆を上げろ 銅鑼を鳴らせ

 

月がその身を 隠さぬうちに

鳥の羽音が 聞こえぬうちに

 

 

銀木犀の夜

野木まさみ

 

ぜんまいの鳩が

扉の奥にその身をひそめると

白い寝間着が子供部屋をしのび出る

 

満月に覚えた呪文を三日月の空に唱え

納屋の隅のほうきを起こす

 

ほどいたみつ編みは少し大人のしるし

ポケットには庭の銀木犀

 

眠たがりの仔猫を置いて

星が尾を引く夜空へと飛び立つ

 

こんな夜はほうきの上の見知った顔に

幾度もすれ違うけど

翌朝、学校で出会っても

少し目くばせして知らんぷり

 

気になる子の窓辺には

それぞれのポケットの中身をあけて

 

家には咲かぬ花々に

あの子が首をかしげても

澄ました顔で知らんぷり

 

 

「冬の非定型文」

泡沫 コト

 

雪が、

独りを見つけて勝手に冷たくなるのではないか、

と、時々思う。

外付けのぬくもりを珈琲で流し込んで、

渋谷のネオンが、

今日悲しいことがあったのに、

それを余計に盛り上げているようだった。

どうやらこの世界は、強い人が勝つみたいだ。

自分の気持ちを音にできない僕は、

きっと淘汰されてしまう。

レジ越しの他人に、「今日悲しいことがあった」

と言ってやりたくなって、

関係のない関係に、

突然血潮を流してしまいたくなった。

罪を隠して、僕は机に向かう。

寒いのは、きっと不幸なせいだけじゃない。

冬に咲く花だってあるのに、

僕は僕が死んでしまわないように必死だ。

眩しすぎて閉じた目の中に、

幸せを正義のように腕に抱いている、

愚かな僕のせいだ。

 

 

|世話人からの講評

・千石英世より

「リーダーの口ぐせ」

つぎの二つのフレーズがいいと思いました。「種の近くだけ腐った果物のようだ」「誰も気づかない、特大声量で気づかせない」。

辛辣な風刺に接近しようとしているところがうかがえて貴重です。風刺は否定に限りなく近いのだろうが、どこか、ガチの否定ではなく、その手前でさらりとジャンプします。そして後ろから風刺の相手の尻をけっとばすという感じでしょうか。ガチの否定は、否定する側にも否定の返り血がおよぶもので、湿気をおびていますが、風刺は湿気を帯びません。軽快かつ身軽なのが風刺ではないか。からっとしていて、辛辣。本作はそれに接近していると思いました。

 

薬 罐

良い作品だと思います。気迫のこもった詩を感じます。それに「薬缶」、じゃなかった「薬罐」! この古い文字遣にも気迫を感じます。文字遣いだけではなく、この「薬罐」が気迫をうけ止め、気迫に形を与えている。感情を物質化している。オブジェにしている。立派な作だと感じました。

 

真夜中の子供

「開いた窓から港を目指す」、ここがうまい! と感じます。となると港へは、歩いていく? 空を飛んでいく? この後を読んでいくと、「灯りが一列につながり」とあるから、どうやら徒歩で集合したのだと判るわけですが、そこに関し、「窓」からの道行きの様子を一言はさんであってもよかったかなと感じました。というのも、このあたりまでよんできて、ピーターパンを連想したのでした。夢の世界も思わせます。


銀木犀の夜

「真夜中の子供」と同様の感覚を呼び起こす作です。その昔、私などが子供時代「少年少女文学全集」なるシリーズの出版物があったような記憶があります。各種あったような。といって、私がその読者であったことは全くないのですが、つまりそのような少年ではなかったのですが、そうした記憶がよみがえってきました。夢のある、冒険的な物語というのでしょうか、そんな詩だとおもって受け取りました。一点、「気になる子の窓辺には」のところ、控えめですね。「好きな子」の意味でしょうが、この控えめがメルヘン世界につながる、そう合点しました。

 

「冬の非定型文」

切なさが伝わってきます。「レジ越しの他人に、「今日悲しいことがあった」/と言ってやりたくなって」、ここ素晴らしい! 人の気持ちの不思議さをよくとらえていると感心しました。「寒いのは、きっと不幸なせいだけじゃない。」、ここも詩があります。となると、もう一度読み直すと、出だしの三行が不思議に雰囲気があります。初読のとき、よくわからない三行だと思ったのですが、再読時、これは、ちゃんとわからなくていいのだ、このわからなさにポエジーが宿るのだと思えて来ました。

 

・平石貴樹より

「リーダーの口ぐせ」

 しょうもない人とつきあうのはやめましょう。

 

薬 罐

 なんかわりあい感動してます。

 

真夜中の子供

 え、短すぎません?

 

銀木犀の夜

 短い幻想がまとまっています。

 

「冬の非定型文」

 何度もうなずきながら、最後の「正義の力」に悩みました。

 

・渡辺信二より

「リーダーの口ぐせ」

何のリーダーなのかとか、どこがリーダーの口癖か、どこが語り手の反駁なのかを、読者が判断する趣向になっていることをどう判断しましょう。なお、「誰も気づかない」と断定して良いのだろうか、気になる。

 

薬 罐」

文語と口語を混交させています。それが読者へ与える効果をどう測るべきなのだろうか。そういえば、貧乏をユーモアで取り上げた山之口貘の作品を思いだします。

 

真夜中の子供

「開いた窓から港を目指す」のですね。タイトルだけの類似でしょうが、マジックリアリズムと言われているけれど、『真夜中の子供たち』という小説がありました。

 

銀木犀の夜

幻想と現実の混交でしょうか。「銀木犀」が出てきます。庭植えだと、特に追肥の必要はないとか。

 

「冬の非定型文」

暑さは耐えられないが、でも、寒さはなんとか凌げる人もいます。そういえば、「関係のない関係」は、「関係ない」と同じ意味なのかどうか、考え込んでしまう。

 

 

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