注がれる言葉による3篇の詩(23年2月)
人を想う気持ち、幼い記憶のつづれ織、読む人を圧倒する言葉たち。今月のタイトルは「注がれる言葉による3篇の詩」、それぞれの作品があなたにイメージさせるもの、それはどんなものでしょうか?
注がれる言葉による3篇の詩(23年2月) ・「寒梅」 ・「泣きむし」 ・ファンファーレ |
「寒梅」 中村 友紀
だれかの声が 心地よい風のように 駆け抜けていった
昨日みた笑顔や 今日かわした約束や 明日伝えると決めた言葉たちの ゆくえはまだ わからないけれど
寒空の下で ほころび始めた あのちいさな蕾を いつくしむように
そっと今を だきしめたい |
「泣きむし」 雪藤 カイコ
雨、幼稚園の靴置き場を思い出す 目の前が灰色に滲んで、じわり悲しくなった そうして涙が出てきて、雨の勢いと同化した 先生が涙の理由を私に聞いてたけど混乱して 水浸しの頭の中、雨で汚れた靴のせいにした
泣くのに理由が必要だと知った 理由がなければ泣いてはダメなのだと思った
本当はなんで泣いたのかわからない どうして悲しくなるのかわからない 人前で泣くことは悪いことだと思い込んだ
人前で泣かない小学生の私はからかわれた いくらからかわれても平気だった 中学生になると、私の体の中からぽとり 教室の床になにかが転げ落ちて消えた
日々の終わり ベッドの中 声を殺して しゃくりあげながら泣くのが日課になった 暗い夜 ひとり 悲しくて 雨の音がした なにも聞かずにただ抱きしめて欲しかった (誰かは指していない大人に) |
ファンファーレ 長谷川 哲士
ケムリ模様の雨模様 雨ばっか降りやがって どんどん雨激しくなりやがって 哭く喚く天の声なのかよ ひゃっひゃっひゃっ
ああキノウの蝶々だなこれ 地に目を遣る 激しい雨に打たれ打ちひしがれて 飛ぶ事諦めさせられ 死んで行った美しい揚羽蝶 その美し過ぎる屍はヌルリ輝く
まるで嬉々として残酷シャワーに晒され 爆音警報鳴り止まぬ中 びしゃびしゃ飛翔しようという 抵抗の姿を見る それは神々しく狂おしくも無残解体へと変容し 黒いアスファルトに貼り付けられる結局
その燻んだ翅模様、死んだ一昆虫の微々たる光 ぺたりと存在しています、ばらばらばら ひとごとでも無かろうに、ククク笑いが込み上げる
死への面影だけは身綺麗にしておきたいものだ。 |
|世話人たちの講評
・千石英世より
「寒梅」
「あのちいさな蕾」が元気に咲きだす日、陽光も輝き、空気もやわらぎ、空が真っ青に拡がる、その春日が目に見えるようです。いい詩ですね。タイトルが地味な感じがしますが、それがいいのかも。
「泣きむし」
ジーンときます。ぐさりときます。1,2,3連がとくに迫ってきます。「水浸しの頭の中」、読んでいてツライところですが、がーんと撃たれました。4連の「私の体の中からぽとり」も、さみしさでしょうか、悲しさでしょうか、感じました。5連、ベッドのなかで「雨の音がした」もいいですね。詩全体でせまってきます。
ファンファーレ
「ああキノウの蝶々だなこれ」 「残酷シャワー」 「ぺたりと存在しています」 「ひとごとでも無かろうに」、見事なフレーズが凶暴に繰り出される、コトバのボクシングです。汗がとびちっています。血も! 最後の1行、最初、こうまとめるのか! と意外感があったのですが、二度読み、三度読みで、このニヒルこわい! こわさのつよさがある! と感じ直しました。いいですね。さわやかな強さと抵抗。
・平石 貴樹より
今月の三編はどの作にも、それぞれ感じ入りました。
・渡辺信二より
「寒梅」
タイトルと内容がよく釣り合っている。
「泣きむし」
まとまった良い詩です。
感じやすい幼稚園生の心を持ったまま、大人に成長しなければならない悲しみがよく表現されていると読みました。
最後の一行、作者としては、やはり、入れたいんだろうな。
ファンファーレ
タイトルと内容の奇妙な対照が効果的です。
揚羽蝶の死がよく、詩的に表現されています。
細かいことだけど、最後の「。」は必要なのだろうか。
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