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あさひてらすの詩のてらす

色なき風に揺れる6篇の詩(24年9月)

今月はいただいた投稿の中から6作品を掲載します。季節が変わると人々の装いが変わるように、やはり言葉も同様にして、移りゆくもののようです。詩人が紡いだものだけでなく、その作品に触れた読者の内側で浮かんでくる言葉も。

ご一読ください。


 

色なき風に揺れる6篇の詩(24年9月)

・手鏡の外

・巡る季節

・パンタグラフです飛ぶ空

・空白

・I Want New

・午前零時の香水

 

手鏡の外

草笛螢夢

 

お手直しに慌ててる

あの人が待っているのに時間を勘違いして

遅れてしまっている事に 今気付いた

 

カバンの中の化粧品と手鏡を探す

あの人と会うための いつもの私に

いつもの落ち着ける気分を思い出し

いつもの笑顔を見せたくて

いつもの化粧して

 

素顔の性格の私を出せる

タイミングを見ながら自信を奮い立たせるが

いつも鏡の外に隠してしまう

 

そう長くは化粧という魔法に

頼ってばかりはいられない事は

解かっているつもり

そろそろ 手鏡の枠の外も出してみようか

そろそろ その時期が

近付いていることは知っているつもり…

 

巡る季節

倉橋謙介

 

面接の時間に間に合うように

駅までの道を急ぐ

夏祭りが終わったばかりの諏訪神社

静かになった境内に

ツクツクボウシの声が響く

木陰の中は涼しそうだ

横目で通り過ぎて

突き当たり

公園の前を右に曲がる

あの頃の僕達は

君の門限ギリギリまで

ここでブランコに乗って

くだらない話をして笑い合った

ふと見上げた先に

揺れる満開の桜

とても遠い季節の思い出に

危うく息の根を止められそうになる

そのまま駅に続く坂道を下る

一緒に駆け下りた風に

僕は次の季節の気配を感じた

 

 

パンタグラフです飛ぶ空

長谷川哲士

 

空が飛んでいる

古いお寺が空の下にぽつねんと有る

そこのありがたい仏様の前で

一人遊びする小さな男の子まわる

 

鳥が啼く虫騒ぐ

ひとりでじゃんけん

みんな負けて消えてった

ひゅうひゅう抜けてく音がする

 

空が飛んでいる

青い色の日も

どんより灰色の日も

太陽だけ眩しく切ない日も

紫色に腫れ上がっている瞬間

にさえも

 

お堂で小さな男の子は

くるくる回っている

まもなくしたら笑えても来る

ははははははははぷぷぷ

 

そんな時です

平時だろうが非常時だろうが

空はぐるぐるふわふわ

飛び回っている

ああ御空様と呼びかけたくなる

 

飛んでく御空を追っ掛けて

捕まえて小さなおててで

鈍行列車のパンタグラフはさんで

潰したり戻したりする様に

空ばかり汲汲と泣かせてしまう

天下の児

 

 

空白

小村咲

 

真珠のブレスレットを

空に引っ掛けたよう

大粒小粒の雨音が真っ直ぐに

バルコニーの壁となる水曜日

腕を伸ばし雫に触れる

遠くに白く煙った尾根が

ぼんやりと高く広がる

数々の屋根は

麓まで続いているのかどうか

静かに積もってゆく時を

何も頑張らない今日を

ただうっとりと

瞳を閉じて

耳を澄ませば

立体的に展開する世界の始まり

ねっとりとした夏の行方を

前髪に感じて

君の帰りを

待っている

風は

吹きそうにない

 

I Want New

鏡文志

 

新しいが、欲しい

次の扉、いつも開けたい

古いシコリ、ホコリ払えたら

現実の問題にいつも、直面する

それでも、それだけど

新しい扉、いつも開けたい

完成度? ンなもなあ

いつだって、上げようとすれば 上げられる

それよりも、新しい扉開けたい

新鮮な空気、いつだって吸いたいんだよぉ〜

脳がいつだってリフレッシュ 吐いたら大アクビ

吸ったり吐いたり 伸びたり縮んだり

扉の外と中を自由に行き来していたら

アラ、また今日も 一編の詩が出来上がりました

 

午前零時の香水

七海独

 

深夜の匂いを身体に纏う。

 

月は出ていない。

 

午前零時の匂いが好きだ。

 

孤独を香水にしたような匂いが好きだ。

 

私は独りじゃないんだと、

励まされているようだ。

 

みんな孤独なんだ。

 

みんなこの香水をつけているんだ。

 

なんて素敵な香り。

 

なんて静かな癒やし。

 

月は出ていない。

 

孤独だけが、漂う世界。

 

 

 

|世話人たちの講評

・千石英世より

手鏡の外

タイトル、いいですね。内容も切なくて、応援したくなりました。その時が来たよ! などと。

巡る季節

「公園の前を右に曲がる」、この1行、すばらしいとおもいました。次行が改行されていてもいいような感をいだきましたが、むろんこのままでもちゃんと通じていますので余計な感想をいってしまったかも。でも、今、「改行」のことをいいましたが、そのせいか、この作、改行ナシで来ていることに気付きます。この作のなかを流れる時間の経過がこの作のいのちだとするなら、改行するしないとは別に、時間の屈折をどう詩としてつかむか、そこに「危うく息の根を止められそうになる」という強烈な内的体験が深まりそうに思います。

パンタグラフです飛ぶ空

よくわからないところがあるのですが、にもかかわらず、すばらしい詩だと思います。好きになれます。最終連が一番わかりにくいかも、1連目がやや説明的かも、などと余計なことをいってますが、無視して下さい。こんな感想、蹴散らしていただければ嬉しいです。根本的に詩としての意力を感じます。

空白

複雑な心模様を捉えんとした作だと読ませていただきました。タイトルが内容をあらわしているととりました。「空白」は「君の帰りを/待っている」がゆえの「空白」だと。作を流れる感覚が視覚のものと聴覚のものがあり、その混在をくしけずれば、最終2行がぐっと迫ってくるようにおもいます。「風は/吹きそうにない」という2行が風になって、作中を吹き抜けていく気がしますが、どうでしょう。あくまで1個の感想です。妄言多謝。

I Want New

切実な気持ちが伝わってきます。終わりの5行、おもしろいとおもいます。「脳」の1語が効いています。イメージがあります。この「脳」何色しているのかな、などと空想を誘われました。なまなましい脳です。脳が一人歩きしている感じ。

午前零時の香水

「午前零時の...」がリフレインされて、効果をあげているように思いました。そして、それを「匂い」に結合させたところが独創的だとおもいました。こころのしずかな叫びを事実描写ふうに描いている部分がすばらしいと思います。「月がでていない」の行に代表されるような描写的、具体的なところがいいと思います。

・平石貴樹より

手鏡の外

 一編の歌謡曲のようですばらしいです。

巡る季節

 思い出の抒情ですね。

パンタグラフです飛ぶ空

 少年の日のせつない記憶でしょうか。

空白

 あるがまま、そのままの世界がお好きなのでしょうか。

 

I Want New

 気持ちはよくわかる気がします。

午前零時の香水

 ちょっと「孤独」を言いすぎてますかね。

 

・渡辺信二より

手鏡の外

タイトルが面白い。おもしろいので、これを「手鏡の枠の外」(15)と言い換えた方が良かったかどうか。「その時期が/近付いている」(16,17)この時期に、語り手がなぜなお化粧するのか、何を躊躇っているのか、「いつも鏡の外に隠してしまう」のはなぜかなど、心理的な葛藤などを詩人がさらに描くと良いかもしれない。

巡る季節

「季節」(タイトル)の変化、「面接」(1)を受けるようなじぶんの方の変化、そして、「君」(11) との関係の変化、とが多分重なっているのでしょう。最後の1行、必要か?

パンタグラフです飛ぶ空

「パンタグラフ」とは、Wikipediaによれば、「ギリシア語の 「すべてを(παντ-) 書く/描くもの(γραφ、drawing, painting, writingの意味)」を語源とし、菱形で収縮する機構に通常充てられる語」とある。「空が飛ぶ」(1, 9, 21-22, 24)、「空を泣かせる」(28)などおもしろい発想です。「天下の児」(最終行)には、多分、作者が納得できる強い思い入れがあるのでしょうが、このままで大丈夫ですかね。あるいは、「天気の子」のもじりか。

空白

「立体的に展開する世界」(15)とは、おもしろい表現だ。ただ、これは、「君」(18)の不在と関係するのでしょうか? もう少し、この作品として、「世界の立体的展開」とはどんなものなのか、示唆がほしい。1、2行目は、比喩として良いので、別の文脈で使った方が、さらに生きると思われる。

I Want New

この作品は、ソネットではないが、14行詩なのか。

今日出来上がったはずの「一編の詩」(14)とはどんな作品でしょうかね。

アメリカの詩人Ezra Poundは、”Make it new.”と言いつつ、”The oldest is the newest.”とも言ったとか。彼は、毎日歯磨きするように、詩を毎日1篇書くことが日課でした。なお、I Want Newは、伝統的な英文法から言えば、非文でしょう。

午前零時の香水

「午前零時の匂い」(3)が「孤独を香水にした匂い」(4)ですか。これは、いいですね。「月」(2, 11)の不在が、どういう意味を内包しているのか、せめて、ヒントが欲しい。

 

 


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