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あさひてらすの詩のてらす

冬の終わりに届いた8篇の新しい詩 後編(23年3月)

内堀からすこしあたたかい風が吹くようになった頃に届いた8篇の詩。「冬の終わりに届いた8篇の新しい詩」、その後編です。

前編はこちらから。


冬の終わりに届いた8篇の新しい詩(後編)

・大人

・水滴

・役者の恋

・或る断崖

 

大人

二月

 

大人は なにかやらかすたびに

あなたは幾つなの

と口を揃えて叱責するのだが

これから歳を重ねるごとに

してはいけない壁は

高くなるのだろうか

あぁ

大人にはなりたくないなぁ

 

今日

従兄弟に

幾つだよ

思って

しまった

あぁ

もう

私は

片脚を

突っ込んで

いるのかも

しれない

 

水滴

雨村大気

 

生まれて

生きたから

仕方なく立ち上がった

目の前に水滴がぽたぽたとたれてきた

どうせだし手で受けた

 

たまったけれど

少しづつ手の隙間から

こぼれていった

 

私はそれを見ていた

 

手の水は無くなった

無くなったので

濡れた手を

だらりとたらした

 

「虚しいか?」と問われた

 

半分嘘だけど

「幸せです」と私は言った

 

役者の恋

長谷川 哲士

 

紙で作った靴穿かされて

車に無理矢理乗せられて

ドライヴドライヴハイスピード

紙の靴なんて牛乳パック改造よ

臭くてぬるぬる

奴は此処で降りて歩いて行けと

言い腐った深夜のウォーキング

どこかで肉を焼いてる匂いがするよ

どうやって歩けと

行く先は何処なのだ苦しみはとこしえか

破れた靴で歩いて行く

ずるずる足の裏まですぐそこだ

底が消失した靴で荊道なんざ歩けませんよ

おい何とかしろよ

噛みつき不倫で悪いか俺名役者だぞ

あなたに恋をしただけだ

会社まで辞める必要はないよ

もう何年続いたのかな

お前熟女キャバクラで働くまでになり

俺は国宝役者のままフカッとした絨毯の上

ふらり六方踏むだけよンベンベンベンベンベンベンンッ

ぅよおおおおおっ

道ならぬ恋なんて有る筈も無くなんて勘違い

意識は飛ばされ未完の渦巻き星雲に

チューッと吸い取られ

僕俺儂と出世魚の如く一人称を変容させて

挙句の果てには儂から鷲への突発変容

遠くの空越え突き抜けて高速最高速最々高速

摩擦熱摩擦熱熱いよう

発火しながら飛行する鷲

入れ物の無い意識は笑いながら鷲と合一しようと

速く速く燃える飛ぶ追い越し合うふたつ

塵芥に成っても成りたくなってもどっちゃでもいい

とにかく行く

宇宙が見える

目ん玉の風景

両手の小指のみ震えているぷるぷる

 

或る断崖

麻未きよ

 

冷たい水道水が

肌と血管を切るように滲みて

地面の奥の自然の佇まいと 繫がる気がした

この冬は雪が降るでもなく

東京は連日乾いてお天気 底びえの

ウサギ年2月 ちぢれた観葉植物へ

スプレー水を吹きかけると虹がでた

背後からふっと

ここの海は

見おろすとほんとうに綺麗に澄んで

誰もが安心して自殺するのでしょうと

わたしたちでもそう思うからと

柔らかに話す声がする 画面には

ある断崖近く 能登の宿の女将

日本海 そこは身投げの名所

安心… …     そういう感じ方があるのね

海鳴りがきこえた 青く

 

能登や北へ 行ったことがない

いちど行ってみたいな

 

冬のおわり 陽は神さまの

前歯のようにひかって

だいぶ高くなってきた

きょう光が満ちている

心で隔てなければ

禍々しく暴れさわぐ亡者の影もなくて

悲しみは

みんな光の下

あるがまま 自由なまま

 

 

|世話人たちの講評

 ・千石 英世より

大人

1連目と2連目の間に強烈な切り返しがあって、この切り返しが詩ですね。つらいけれども詩ですね。この切り返しで傷を負うのはこっちかもしれないけど、詩なのだから傷ついても仕方がないです。いたくないです。むしろ鍛えられます。

水滴

起承転結のしっかりした詩です。歌かもしれない。怖いところもある。最後の3行、身震いしました。そこに達する前に「だらりとたらした」があり、「どうせだし」があって少しニヒルを積み上げて最後の3行がくる。やはり怖いです。最終行、「と私は言った」とありますが、そんな「私」の背中をボーゼンと見送るほかありません。

役者の恋

良い作だと思います。やくざな感じ(いい意味で)がでていて、なまなましい細部があって(そうなのか! 牛乳パックは靴になるのか! ただし1000ccパックだ! それでも靴底が破れて!)、その流れで頻発するオノマトペーも効果抜群で、人生やぶれかぶれのスピード狂でいくしかないのだと思わせられます。できないけど。でも詩ならできるかも。と思わせられます。とくに「未完の渦巻き星雲に/チューッと吸い取られ」の箇所、ほれぼれとします。

或る断崖

 転換から転換へと展開する美しい詩です。とくに、「背後からふっと」のところへのきれいな、そして、不気味な転換が鮮やかです。魅せられました。そして、どの比喩もうまくいっている。そして最後の3行、これはやや観念的なメッセージなのですが、この詩の場合、気にならなくて、むしろふさわしくて、作全体を虹のように包んでいるように感じました。

 

・平石 貴樹より

 大人

 従兄弟はなにをしたんでしょう。

水滴

 実感ありますね。

役者の恋

 迫力ある心象風景ですね。

或る断崖

 最終連がとてもいいと思いました。

 

・渡辺 信二より

「大人」

率直な思いが言葉になっています。

「水滴」

一行目「生まれて」と、二行目「生きたから」の間には、直ぐにはとうてい表現できない思いが凝縮しているのでしょう。これを言語化するか? 言語化できるか? その時、じぶんの幸・不幸を問われる必要のない地平に、詩人として立つのだろうと、そう思わせる。

役者の恋

ふ〜む。言葉が爆発し膨張している。作品として、際どく終わっています。

「或る断崖」

「悲しみ」(27行目)が偏在すれば、むしろ、喜びかもしれない。それは、「冷たい水道水」(1行目)を通して「自然」(2行目)と人間が「繫がる」(3行目)ように、「綺麗に澄めば」(10行目)「安心して」(11行目)、海に入れる、そのように、「「心の隔て」(24行目)を取れば「亡者」(24行目)の影も消える。多分、「断崖」(タイトル、14行目)も「断崖」ではなくなるのだろう。

 

 


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