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あさひてらすの詩のてらす

雨季に届いた4篇の詩(23年6月)

涼しい日と暑い日を交互に繰り返しながら、やってきた今年の雨季。外出をせずに家で過ごすことも多くなる時こそ、詩作にはうってつけの日なのかもしれません。さて、あさひてらすの詩のてらすには、今月4篇の詩が届きまました。「雨季に届いた4篇の詩」、ぜひご一読ください。


 

雨季に届いた4篇の詩(23年6月)

・雨

・天然無窮

・行きたいな

・浜

 

けい

 

サーサーサー

僕らは、降りる

サーサーサー

僕らは、次々と降りる 

サーサーサー

空が僕らを送り出す

その顔は、泣いているようにも、笑っているようにも見える

サーサーサー

僕らは、振り返らずに降りる

 

天然無窮

長谷川哲士

 

思索は全て脳の泡もう考えるな

汁の流れに身を任せ

心臓と肋骨の隙間こじ開け

外を恐々覗き見してはほくそ笑み

極北の群青あるのかあるのかあるのかと

震えてそこに在る事だけが

人間に許された唯一の享楽

 

ぶるぶるぶるぶる震える音楽

泡は弾けて空へ溶けてゆく

もう考える必要も無い

深々と血液の真紅が

黒々と成りゆきて漆黒の夜

踊って睡る泣いて融けて

存在に謝れ

 

土に頭擦り付けて

土の中にまで潜り込んで

呼吸を忘れてやっと

謝った事にしてもらえるかは不明瞭

分からないから賭けてみる

 

からりと骰子を振った

後からずっと

静かな静かなここにいる

たまに周りで血の繋がった

他人が来ては泣いている

風は口笛吹いている

 

 

 

 

 

行きたいな

雪藤カイコ

 

風の向こうの海

行きたいな

 

海の向こうの国

行きたいな

 

知らない土地で知らない人に

会いたいな

 

頬杖ついて教室の窓辺

雲を眺めては夢を描く

 

ぼんやり描いた地図に

溶けたいな

 

ため息に滲んだ願い

叶うかな

 

口だけで終わらない人に

なれるかな

 

海の向こうの国

行きたいな

 

浮島サウス

 

にんげんの抜け殻が

潮に揉まれて

波に運ばれ

浜に漂着した

めずらしいもんだから

わらわらと人が集まり

ぶよぶよの抜け殻を

つついたり ひっぱったり

こどもたちは ひざを浸からせて

海をたたいて遊んでいる

町では金と同じ値がつく抜け殻を

人々は

かわかし くだいて 畑にまく

いい野菜が育つのだ

いい野菜を食うと

こどもたちがああして元気なのだ

とサンダルをつっかけた酔っ払い

自分の抜け殻を探しに浜に来た と伝えると

そんなものはない と言う

 

重荷となって剥がれ流れた

ぼくの抜け殻は

もくずとなって

若き蟹を太らせろ!

 

そんないのりが滞った

にんげんの抜け殻が

人々に担がれ

陸に登っていく

こどもたちが 潮にのって

沖へ駆けだした

 

 

 

 

|世話人からの講評

・千石英世より

出だしから最後まで「サーサーサー」が気持ちよく響きます。シンプルで短くて、すっーと印象にのこります。

口ずさんでしまいます。途中、「その顔」が一瞬だれの顔かわからなかったのですが、すぐに、「空」の顔だとわかり、そうわかると、ますます印象がふかくなり、良い詩だなあとおもった次第です。

天然無窮

「存在に謝れ」は秀逸の一行! それを含め、全体力強いのに、ある種の諦念が貫通する作になっていると感じます。連構成にて全4連の作ですが、連に分けないやり方もあったのではないかと推測します。するとどう感じが変わるだろうと想像しました。どちらがいいかと言いうのではなく。連構成のほうが最後の連の方向性が強く出るのかな、と思ったりします。ということは、最後の連がとても重いということだなと思ったりします。全体ユニークなリズムをもったグッジョブ! いい詩だな、いい音楽だなという感想です。あ、言い忘れました! タイトルもいいですね。

行きたいな

祈りの詩だとおもいます。たんなる願望ではなくて。2行ずつの反復がここちよく、それにつづく空白の行がきれいです。

出だしから、「いい野菜が育つのだ/いい野菜を食うと/こどもたちがああして元気なのだ」まで、イメージ、メッセージとも鮮明でぐいぐい乗せられます。次に登場する「酔っ払い」と、そのまた後に登場する「ぼく」の関係がもう一つ捉えきれませんでした。それでも最後5行はイメージがあって重いメッセージが伝わってきます。それで、詩は、そのまま冒頭へ円を描くように還流してゆく。そんなふうに読みましたが、フカヨミすぎるかしら? 以上の感想とは別に「海をたたいて遊んでいる」の1行はすごい! と思いました。このように一か所難解箇所がありましたが、激しい感情の秘められた作と受け止めています。

 

 

・平石貴樹より

 なんか詩の「はじまり」の感じがします。
 
天然無窮
 ねばりづよいヴィジョン。重く受け止めました。
 
行きたいな
 わらべ歌のようなムードですが・・・。
 
 空想と適切な観察が折り合って秀逸と思います。からりとして寂しい余韻。

 

 

・渡辺信二より

「雨」

雨や雪は、詩の題材としてとてもいい。山田今次「あめ」、草野新平「ゆき」、まど・みちお「みぞれがふった」、川崎洋「ゆき」なども、よく読まれていますね。この作品「雨」の作者が、雨シリーズをこれから始めるとすれば、この作品は、シリーズ最初の方に並べられる作品なのでしょう。6,7行目の2行は、行分けして、1行を短く、行を多くして、形を揃えると良いかも知れない。 

「天然無窮」

この作品を正しく理解したのなら、おっしゃる通り、無窮の自然に比べ、骰子を振って済む人の世など何だと怒りつつ、しかし、無碍にもできず、風のように、向こうをむいて口笛を吹くほかない。

 「行きたいな」

確かに、「海の向こうの国」は素晴らしいに違いない。

「浜」

なぜか、会田綱雄「伝説」を思い出す。

抜け殻が6回繰り返されるが、それぞれ、誰の「抜け殻」なのか、ちょっと不安です。また、「いのりが滞った/にんげんの抜け殻」も不思議な表現ですけれど、作者の意図通りに読まれるのかどうか、ちょっと不安です。

 

 


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