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あさひてらすの詩のてらす

騒がしい夏のはじまりに届いた詩 前編(22年8月)

猛暑という言葉では、表しきれない暑さが続いた月に、あさひてらすの詩のてらすには7篇の作品が届きました。「騒がしい夏のはじまりに届いた詩」、前編後編でお届けします。

作品のご投稿はこちらから。


 

騒がしい夏のはじまりに届いた詩 前編

・「4号室」

・ジャパンアクションクラブ

・盛夏

・「もう少し」

 

「4号室」

雪藤カイコ

 

北向き角部屋4号室

1年に3度、布団丸洗いを依頼した

黒い粒、仲間を呼んだら焼き払ってやる

 

4号室は縁起が悪いという人もいる

怖くはないが、じめっと君が猛威を振るう

年中フル回転の除湿機は過酷労働で眠れない

もう一台増やすことも検討しようか

強力保湿機能付き角部屋4号室

 

冬の結露は寒くて駄々をこねる子供のようだ

涙を拭いて機嫌をとるのにひと苦労

おもちゃを欲しがらないから聞き分けはいい

私が発狂して歩き回っても 思い出しをしても

聞き流してくれる 実は大人か?4号室さんよ

 

たまにカラオケで盛り上がる

隣人の猫の鳴き声も聞こえないし大丈夫

気分がいい時は大声で楽しくやろうぜ

晴れたら世間の風をあびて交流だ

毎日外出なんて考えたくもねぇ

引きこもりに優しい角部屋4号室

やわらかい日差しで紫外線対策バッチリだ

 

ジャパンアクションクラブ

後藤新平

 

高3の春夏秋、僕は遊びに遊んで、

青春を過ごしていた。

見かねた母は、日光江戸村の役者と

して住み込みで働けるよう、動いて

くれた。

 

入社して間もなく、講師のひとりで

ある目黒祐樹さんが「どうして役者

になりたいのか?」と、新人たちに

端から聞いていった。

 

歳も変わらぬ若者たちは、みな熱く

信念を持ち夢を語っていた。

僕は全身からイヤな汗をかいて順番

を待ったことを覚えている。

 

逃げ帰って、僕は初めて本屋の近づ

いたことのないコーナーへと足を運

んだのだ。

あの一冊の言葉言葉の力が、僕を、

人生の大きな潮流に乗せ、責任が始

まった。

 

盛夏

麻未きよ

 

空を映す水たまりは

饐えた七月のブルー

雨あがりの強烈な陽射しに

流れる雲 熟んでいく時間の雫が

マーブルもようの渦を巻いている

 

腰をおろすビル影のステップまで

人熱は波動のように寄せてくる

焦げつきそうにお日様のほうを向いて

駅前ロータリーの人だかりも増していた

拡声器の選挙演説の声

目のまえをゴミ拾いのトングがいく

サイレンがまた鳴り響いた

歓声か爆笑がきこえる

暑さで歪んだ静かな街だ

紙カップを耳もとで揺らすと

まだ硬い氷の音がする

 

今年も父の日は通りすぎたから

ミニひまわりのアレンジメントを

暑中見舞いを添えて送っておいた

流行り病がアブナイので

来なくていい、と言われている

一週間それとなく咲いていてほしい

たあいない造花みたいな花だけど

 

そういえば幼い夏に見たひまわりの群生は

捻れながら黄色く燃えていた

どこまでも立ち尽くす人の姿に似て

剥き出しのタネを

顔に内臓にびっしり喰い込ませ

ちょっとグロテスクにひしめいていた

 

 

「もう少し」

葉っぱ

 

胸にできた不安のすきま

埋めたくて でも埋まらなくて

どうにもならなくて

好きな音楽を聴く

 

君に会いたいなあ

笑顔が早く見たいなあ

たまらなくなって、電話をかける

「プルルルル……。」

ドキドキが高まる

「もしもし?」

やっと出た

 

元気だった?

「あんまり……。」

大丈夫?

「うん……。」

きっと、いや、絶対大丈夫じゃない

いつも無理して、頑張りすぎちゃう君のことだから

 

もうずっと会ってないね

「うん……。」

今音楽聴いてたんだよ

「そうなの?」

少し弾んだ声

ライブ一緒に行ったね

もう3年も前か

今度いつ会えるかなあ……。

 

「もう少しだよ、きっともう少し。」

君の電話越しの力強い声

 

えっ!そうかなあ?

「うん。もう少し。大丈夫。きっと絶対大丈夫。」

 

そうだね!

「じゃあ、またね」

またね

 

電話を置いてまた音楽を聴く

きっと君も聴いているよね

 

「うん、よし。大丈夫!」

君がくれた言葉を、自分に言い聞かせた

 

どんな状況でも 必ず希望はあると、

私は信じたい。

 

 

 

|世話人からの講評

・千石英世より
「4号室」
全体をみじかくすることにトライするのも詩作上の工夫になるように思います。すると自分でも期待していないような詩想がくっきり見えて来ることも。

ジャパンアクションクラブ
第1連目の内容をくわしく知りたいと思わせます。お母さんの慈母たる姿も立体化して見せてほしいようにも。また、どんな遊びを遊ぶ高3生なのか。そんな高3生は母親とどんな会話を交わすのか、短編ヴィデオ作品にして見せてもらいたい気がします。短編ヴィデオはもちろん詩作品の比喩として言っていますが。 

盛夏
最後のグロテスクさがすごい。奈良西大寺駅前のことを連想しました。第1連目をカットして読みなおしてみました。するとますますそのように連想されました。作者にその意図はあった? あったでしょうね。「まだ硬い氷の音」の箇所もいいですね。

「もう少し」
最後の「どんな状況でも」のところ、詳述すればどうなるか、どんな状況なのでしょう?そこを想像の焦点にして読んでみました。現行さらっとした色鉛筆カラーの書き方ですが、それですまない? 難しいところですね。


・平石貴樹より
「4号室」
 不思議な味わいがあります。

ジャパンアクションクラブ
 「あの一冊」がどんな一冊だったのか、具体的に聞きたいですね。

盛夏
 日常雑記風も悪くないですね。

「もう少し」
 これはお互いの「状況」をもう少しわかるように書いてほしかったかな。

 

・渡辺信二より
「4号室」
この詩を虚構として読むと、三行目の「黒い粒」に秘密がありそうです。北向き角部屋の設定だと、東か西に窓があるかも。

ジャパンアクションクラブ
「あの一冊」や「あの一冊の言葉」が読者に明示されたなら、「責任が始まった」理由もわかりやすいかもしれない。

盛夏
第1連、第2連とも、盛夏の情景がよく描かれている。
第3連「父の日」の「ミニひまわりのアレンジメント」や、第4連「幼い夏に見たひまわりの群生」は、それぞれが、別の作品となるでしょう。
そういえば、ひまわりは、ウクライナだけでなく、ロシアの国花でもあるとか。

 
「もう少し」
★地の文と、「  」とが会話するのは不思議だ。
★さらに具体的な方が読者に訴えるのではないか。つまり、会話する者同士の関係がわずかで良いからほのめかされているとか、あるいは、音楽と言っても、クラシックからロックまで、色々でしょう。
★最後の二行の効果は、どうなんだろう。


 

後編はこちらから

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