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梅の実色づく季節の詩 後編(22年6月)

 「梅の実色づく季節の詩」の後篇です。前編はこちらから。


梅の実色づく季節の詩 後編

・カレンダーの外で

・「孤独をわらえ」

・「誕生日」

・窓辺にて

・真夜中を大人として

 

カレンダーの外で
麻未きよ

途切れることのない日付け表示の
コマ送りの先に
なにがあるんだろう
今月 今年 カレンダーの余白
こまごま用事を書きこめば
いつでもおわりのない雑用のさなか
未来が掌サイズの綿雲へ乗って
同時進行で部屋を蠢いている
新緑にいっせい開花まき起こる地上は
いち年の芳香で満ちた 5月の一週め

とても緻密な仕切りの都市が
流れる日々と交差する
複雑でランダムな網目模様は
AI仕掛けの大蛇の如く
いったいどこまで突き進むのだろう
上へ下へ粛々と列車を乗り継いで
地下道から 狭い階段をのぼる

照明にうかぶ 大きな壁絵は
色とりどりの幻想の光景
たまたま後世に展示される絵画たち
美しい幻想は他の誰かに捧げられた賜物
モノクロームの奇怪な小作品群も
おなじ作者が描いた
120年を迸る幽かな幻影 それとも
この土地 建造物 この時点 心の在りか
極上の暗がりへ潜り込み
そっとお祝いする
長い永いルーティン
人のかたちの外で
どんなときも 旅をしていた

 

 

「孤独をわらえ」

雪藤カイコ

 

ため息をついて目を閉じた夜は

ため息をついて目覚める朝になる

 

おひとり様旅行のパンフレット

調べるだけ調べて

妄想満タン錯乱状態で魂を逃がす

口から出るのはおそらく命の蒸気

どこからともなく機関車の音が聞こえた

今ならうまく飛び乗れるはず

切符がないからどこに行くかわからない

高音の汽笛、高鳴る鼓動

座れる座席はひとつもなく

ここでもひとり立っている

それでも変わりゆく景色に胸は躍る

人の顔色は気にならない

ビルも家も畑も田んぼも

あっという間に後ろに飛ばされて少し愉快

愉快だと思った

見えていた景色が一瞬で消える

この体もそうだろう

 

気づけばひとりベランダで雨雲を見ていた

雨雲を突き抜け青空が見たいと手を広げて

 

「誕生日」

葉っぱ

 

誕生日

生まれてきたことを祝福する日

あなたがいなかったら こんなにうれしい気持ちになることもなかった

 

誕生日

今まで頑張ってきたことをたたえる日

あなたがいるから 私がいるよ

 

生まれてきてくれてありがとう

生きてきてくれてありがとう

 

誕生日おめでとう!

 

窓辺にて

日々草

 

私はそのままありのままでとても素晴らしいのに

他人には認められず、必要とされない

認められず必要とされないなら、それはお前が悪いからだと

きっとそうなのだろう そういうことなのだろう

でも、私は他人のために生きてるわけではなく

私は私の幸せのために生きているのだから

別にそれでいいのだ

 

そんな私にも一つ望みがある

それはたとえどんな小さなことでもいいから、

他人を、本当に他人を幸せにしてみたいという願い

いつか、その願い叶うように

今日も私は、私のために生きている

 

真夜中を大人として

後藤新平

 

僕はサッカー少年だった。

小学校1年生から6年生まで。

好きだから続けたようなモノだ。

 

いつだか、少年団の仲間たち全員が

泣き崩れた試合があった。

僕ひとり、泣かなかった。

親御さんたちが見ていたという事も

あったが、僕は「泣くほど練習したか?、努力したか?」

という思いが強かった。

 

僕だってもちろん悔しかったが、その時、

僕は血に涙を注いだのだと思っている。

いつか精いっぱいの夢を叶える時に

動けるように。

 

今、僕は真夜中を大人として生きている。

昼間のお仕事を手を抜く事はない。

すべては繋がっているのだ。

 

 

 

|世話人からの講評

 千石英世より

カレンダーの外で

最後の5行、何か感じます。すごく感じます。でだしのマス目カレンダーの捉え方にも惹かれます。地下鉄の乗り換えのところもいいなと思います。全体を通してこのマス目の影響下、というより拘束下にあるのでしょうか。いや、保護下にあるのでしょうか。いずれであれ、もしそうなら、そのことを少し強調する手もありかと。でもやり過ぎるとうざいか。むずかしいですね。

「孤独をわらえ」

楽しみながら読み終えました。スピード感があり、歯切れ良くて、一瞬の痛みもあって、いい作品だと感心しました。最後の「手を広げて」を「広げた」とすると、どうなるか。作者熟考のすえの「て」でしょうから、読者方の妄想でしかありませんが。

「誕生日」

シンプルで深いことばたち。足すものなく引くものなし、ですね。

窓辺にて

このタイトルにあるとおり「窓辺にて」これら13行を文字に起こしたのだと感じさせて、そう、そうだ、その線で行け! と応援したくなります。

真夜中を大人として

記憶とは今のことだ、とあらためて思わせられます。たとえそうではない記憶のカタマリがあったとしても、それコミで未来直近にある今なのだと。

 

・平石貴樹より

カレンダーの外で

 日常の感覚を幻想でいろどった作品でしょうか。

「孤独をわらえ」

 タイトルどおりの苦笑の精神ですね。

「誕生日」

 ちょっと童謡ぽいかな。

窓辺にて

 まさにそれでいいのだと思います。

真夜中を大人として

 いやあ、きっぱりと頼もしいです。タイトルの1行がいいですね。

 

・渡辺信二より

来し方を思い、行く末を図る機会は、多くに人にとって、お正月であろうか。しかし、詩を書く者たちにとって、過去を省みて将来を見通すは、今に如かず、今にしかあらず。ならば、今を最善に生き抜かずに、何の生命であろうか。今を祝さずして、何の人生であろうか。そういう覚悟が伝わってくる作品たちである。

 

 

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