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あさひてらすの詩のてらす

短い梅雨に届いた詩 前編(22年7月)

あさひてらすの詩のてらすに、今月は7編の作品が届きました。

「短い梅雨に届いた詩」前後編でお届けします。

作品のご投稿はこちらから。


 

短い梅雨に届いた詩 前編

・本を読むヒト晩成型

・「おともだち」

・夢
・「強いハルジオン」

 

本を読むヒト晩成型
後藤新平

「あいつは馬鹿だから」
馬鹿になれないヤツが言う。
正直に生きてきた僕は、そう言う輩
を不幸に思う。

今流に言うと、僕はNO BOOKOFF
NO LIFEだ。
110円の文庫本か220円の単行本しか
買わない。

すぐに役に立つモノはすぐに役に立
たなくなる、と言う言葉があるよう
に、逆を言えば、すぐに役に立たな
いモノは…と僕は感じる。

人間は自分の生まれた意味、役割に
徹して生きるのが幸せなのでは。

 

「おともだち」
雪藤カイコ

できないなにかを言い訳にして笑う
相づちだけ欲しがるフリコのように
同じ話、嚙み合わない温度

小銭をかき集め上目遣いで涎を垂らし
塩をまきながら他人の不幸が落ちるのを待つ
化学反応で溶け出る密に呆けている

これがこの前までのおともだち

懐かしい思い出は赤く塗りつぶした
腹黒いとはよく言ったもので、腹は黒かった
おいしいところなんかちっともなく
蒸しても焼いてもダメだった
烏は生き延びるべくそれをくわえて飛んでった
薄明るい空
孤独達に恋人達に、この国の夜明けが来た

おともだちはひとりもいなくなったけど
ひょっこりあらわれる烏のために
ふらっと誰かに話しかけてみようかな
同じことの繰り返しじゃないことを本当は
本当は祈っている、本当に願っている

 


天沢泪

この世で一番大切なものに
虫が群がる夢をみた
この世で一番苦手なものを
迷うことなく素手で払った

夢から覚めて安堵した
土壇場でこそ露わになる
魂の本性に安堵した

蚊の鳴くような私の声は
世界の雑音に揉み消され
耳に栓をしているように
私に一番聞こえないから

耳栓を越えて鼓膜が震えた
この手に収まる一握りだけ
守るためなら迷うことなく
グスコーブドリでありたいのだ

銀河の隅のカムパネルラ
星になった小さなよだか
バルドラの野原の蠍の火

そんな私であれたならと
夢と夢とが交差する
誰に押し付けるつもりもない
不確かな私の確かなエゴだ

 

「強いハルジオン」
葉っぱ

帰り道、ふと足もとをみると
側溝のコンクリートの穴から
ひょこっとのびている
ん?なんだ?

うす桃色の小さな花
ハルジオンだ!

こんなところでも咲くんだ
すごいなあ

今、私はつらくて苦しい日々を過ごしている
でもハルジオンは わずかな土に根を張って
力強く花を咲かせたんだ

私も頑張らなくちゃ 立ち上がらなくちゃ
勇気をもらったよ

ありがとう ハルジオン

少し経った日 ハルジオン 3つにふえてた!
今度は一緒に笑ったよ

 

 

|世話人からの講評

 ・千石英世より

本を読むヒト晩成型
下から3行目の「…」の箇所は、略さずいうとどんな言葉が入るのか、「いずれじわじわ滋養になって自分の心を支える骨や筋肉になる。体幹になる」でしょうか。詩のタイトルから推量してそんな気がしますが、どうでしょう。そこを言わずにおくというところに作者の覚悟がみえる気がします。Bookoffも大型店は本揃えが行き届いているの承知してますが、町の図書館もいいとこはいいですよ。開架で系統だてて本が並んでいるとこは! 先刻承知!のことかもしれませんが、一言申し上げました。

「おともだち」
2連目、辛辣さに驚きました。激してますね。「密」は「蜜」? 「呆けている」は「ほうけている」、「ぼけている」? 「ほうけている」でしょうね。そう読みました。いずれにしてもこの「辛辣」に痛いユーモアのトッピングあれば、とはつまり、この辛辣さを突き放すもう一つの「辛辣さ」がまぶしてあれば、とはつまり、自分を突き放す「自信」がでてくれば、「おいしいところ」がでてくるよな、と思いました。そうなれば、「烏」は生き延び、大空を飛翔するよなと思いました。


1連目に対して、つらいけどつよい! 大丈夫! 何が大丈夫なのかわかりませんが! そんなこと思いました。つまり、2連目の「魂の本性」とは1連目のこと全体のことなわけです。すなわち「素手」であり、4連目の「この手」であり、すなわち「この手」のなかの「一握り」のものであり、すなわち「グスコーブドリでありたい」と願うことであり、すなわち、5連目の全てである、と。となると、最終行の「エゴ」は遠慮がちに「エゴ」といっているのでしょうが、「魂の本性」のことです。この詩のポエジーそのもののことです。この詩は自己確認の詩としてとても素直な良い詩だと思います。

「強いハルジオン」
「今度は一緒に笑ったよ」がいいですね。評者も一緒にほっこり笑いました。
詩の中では、だから4人(?)が笑ったのですが、評者をいれると、結局5(人)がほっこり笑ったことになり、なんだかいいですね。

 

・平石貴樹より

本を読むヒト晩成型
 同感ですね。

「おともだち」
 いいですね。がんばりましょう。


 自然に書けてますね、エゴのゆらぎ。

「強いハルジオン」
 最後の2行、感動しました。

 

・渡辺信二より

本を読むヒト晩成型
メモ書きを作品にする辛さがある。感想が詩想に高まるモメントがいずれ訪れるのだろう。

「おともだち」
直視する具体的な場面があればさらに良いと思われる。一般論と比喩で展開しても、読者にはなかなか、刺ってこない。


気持ちはわかる、わかる気がする。でも、例えば冒頭、「この世で一番大切なもの」「この世で一番苦手なもの」が並列されているが、読者は、どう受け止めるといいのだろう。決意は良し。グスコーブドリでありたいという決意が、この先、私たちをどこへ連れゆくのか、注目したい。詩は、言葉である限り、また、それを公表しようとする限り、作者だけの世界では無い。

「強いハルジオン」
この作品の気持ちもわかる気がする。自己への激励ですね。感情は、でも、もう少し、押さえたほうがより効果的です。

 


後編はこちらから

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