梅の実色づく季節の詩 前編(22年6月)
梅雨の季節を迎えたあさひてらすの詩のてらすに、今月は9編の作品が届きました。
「梅の実色づく季節の詩」、前後編でお届けします。
作品のご投稿はこちらから。
梅の実色づく季節の詩前編 ・「今日、蝶々に会えなかった」 ・「おだやかな白」 ・100歳ラッパー ・しづく |
「今日、蝶々に会えなかった」 |
「おだやかな白」 雪藤カイコ
処方箋に浸食されていても大事に掬う 小刻みに震え視界がぼやける私の感情 言葉を破っている時は我を忘れ 外にいくつもの破裂音を投げる
小さな腕が目の前に落ちた 血液が固まっていて冷たい 曇り空はやっと雨を降らせ 灰色の世界を洗い流そうとしている
時は戻らない 今が進み 過去は巡らない 性別のわからない小さな腕 土に埋めて白い花を添える 雨が止めば見える筈の太陽 雨水で錠剤を2錠飲み込む
少しだけ優しい気分になる 埋めた腕から人間は生まれやしない 壊れた細胞はなにも語ることはない
横たわる土に頬をつけて最後の1錠を添えた 来てくれてありがとうと雨に打たれ息を吸う |
100歳ラッパー
100歳までラップ頑張らなくちゃ」 教えてくれた親友が、電話ごしに熱く語る。 何かとままならない生活を過ごしている。 |
しづく 長谷川哲士
青年冷徹に人生を哲学する 青葉の匂い前方に座る女子の 背中から漂う濃厚ホルモンの 咽せ返る鼻孔のくすぐり 哲学一時休止せざるを得ず 生命の根源について いけない思考が環状線のざまに ぐるりぐるり巡り加速 加速度増して鼻孔は堪らない 忘れようとしても思い出せない 青春と青葉の膨らんでいくさま 駱駝乃首はとても臭くて長いよ 繋ぎ止められた漁船のざまだ 早く漁に出れば駱駝香しい 華々に誘惑されて 青臭い青春の精子 林檎落ちる 蜜柑落ちる 窓から落ちる あたし落ちるの声隣部屋から 殴る蹴るの競技映像 観る落ちる血湧き祭る 落ちる加速 速度の倍増そして三倍増 行く行く行く産まれる前の世界 |
|世話人からの講評
・千石英世より
「今日、蝶々に会えなかった」
三連目、「それでも」から始まる連がいいですね。力強い。「まだ、終わってはいない」のところ、ここにお示しするようなカギかっこ「 」つけたらどうなるかな? など思いました。
「おだやかな白」
第三連、「時は戻らない 今が進み 過去は巡らない」から始まる連、こわくていいですね。特に「雨水で錠剤を2錠飲み込む」は秀逸至極と思います。こうした具体的な、こと、もの、イメージが詩を輝かせますね。ところでタイトルは? 錠剤の白でしょうか? そうならいよいよお面白い!
100歳ラッパー
良い詩ですね。やさしさと素朴さと楽しさが伝わってきます。リズム感あるし!
しづく
見事なラップと感じます。力があって乱雑で、ちょっとエロで、いや、だいぶエロで。「駱駝乃首はとても臭くて長いよ」はぐっときます。うれしくなります。見事。「乃」もいい感じ!
・平石貴樹より
「今日、蝶々に会えなかった」
なんとなくいいですね。生活的で。
「おだやかな白」
くりかえし読みました。埋葬は人をやさしくしますね。
100歳のラッパー
すごい迫力でした。
しづく
なかなか青春してますね。
・渡辺信二より
生きるとは、息すること。
息吐けば、安堵し、息吸えば、落ち着く。
呼吸とは、容易くもかけがえのない行為。歌うのに、息を吐かねばならぬ。友と話すに、息で音を出さねばならぬ。
逆に、吐けば吸うが、吸えば、好まぬ匂いも、吸わねばならぬ。
世の中、なかなかに、ままならぬ。