催花雨に打たれる17篇の詩 前編(25年3月)
「
今月は17篇の詩作品を掲載いたします。ぜひご一読ください。
この場所が、書き手と作品の「催花雨」となりますように。
催花雨に打たれる17篇の詩 前編 ・夜に晴れる ・明日出逢う海は ・みんな平等 ・一匹狼 ・微かな灯火 ・出勤 ・地球 ・孤独 ・整列 |
夜に晴れる 七海独
僕の世界は 夜に晴れる。 太陽は夜に現れて、 月とお喋りしている。 僕は無慈悲な人間たちから 切り離されて、 あったかい繭に包まれる。 痛みはもう無い。 ただ、鼓動が踊ってる。 ただ、嬉しいだけ。 複雑な僕の思考は、 一直線になる。 追い求めた単純さを、 僕は夜にだけ得る。 今日も晴れ。 明日も晴れ。 夜は僕にとって羽毛布団、 マフラー、 キャンドル、 炬燵。 雪が降ってもへっちゃら。 だって僕の世界は、 夜は、 晴れるから。 |
明日出逢う海は 草笛螢夢
もう何度も此処には 来ていたつもりだった いや 来ていたと勘違いしていた
明日この海岸で出逢う海は きっと 成長している海だ 昨日 泳ぎ廻ってた魚は 遠い沿岸へ泳ぎ去り 昨日 足を引っかけた石は 波の緩やかな頬刷りで細くなり 波消しの岩も 痩せ細ったかも 流れ着いた 遠くからの貝殻の手紙は 恋しい人からの返事を待ち続け 新しい海に出逢いを繰り返す
そしてまた 明日出逢う海は… 何かを自発的な背伸びに似た 駆け足を波に託し 新たな輝きを教えてくれるのだろうか |
みんな平等 A
太陽は人を選ばず みんなを照らす 風は名前を聞かず 全員に吹きかける 世界は最初から平等だ
大きな川も 小さい雨粒から生まれる 草も花も同じ土の上で息をする 違いがあってもどれも大切な命だ
この地に立つ誰もが 同じ空の下で息をする それだけでもう十分じゃないか |
一匹狼 辻谷衣南
群れはない 風が道をつくり その中を歩く
名を呼ぶ者はいない 月だけが 私の存在を知っている
川の水が喉を潤し 木々がざわめき 静寂を満たす
月明かりに溶ける影 迎えるものは森の匂い
孤独は怖くない 我が道を行く 森を自由に舞う風のように |
微かな灯火 太眉ちゃん
眠れる街の合間を縫って走るバス 窓の隙から覗く太陽が微笑む なのに私の心はそっと沈んでく
鏡に映る私の顔は昨日と同じ なのに外の世界は今日を始めようとして 私だけ昨日の続きを歩いている
流れる景色は一瞬で目の前を去る 私の足元だけたしかに重くて 自分で鎖を繋いだだけなのに
目まぐるしく回る日々の中で 手を伸ばそうとするが灯りは掴めない 今日もまた微かな灯火を求めて |
出勤 雨村大気
あの人がまだ何か言ってるのに 灰青の夢が覚めてしまった また、置いてけぼりだ
溶けたまま起き上がる 準備しなくちゃ
背中にあるはずの羽を隠す 曇りガラスの眼鏡をかける
おっとっと 腹からこぼれた内臓をしまう
鏡に映る 普通になりたい僕の 最近覚えた作り笑いは歪んでいる
結局自作のちゃっちなお面を被る
いってきます |
地球 N
地球が熱を感じて 息をするたび 汗が流れ落ちる
氷は静かに溶けていき 海は涙をためている
風はもう 冷たくない
森は静かに泣いていて 私たちはただ 見過ごすだけ |
孤独 ゆうと
SNSを開けばみんな楽しそうに見える 「いいね」がつくほどうれしいはずなのに なんでだろう心はなんかもやもやする
カフェに行ってもみんなスマホを見てる 同じ場所にいるのに言葉はほとんどなくて イヤホンをつけたまま時間だけがすぎていく
「元気」と送ろうとしてやっぱりやめた うっとうしいって思われるのがこわくて 結局スタンプひとつでごまかしてしまう
電車の窓に映る何となく寂しそうな自分 まわりにはたくさん人がいるのに なんでこんなにひとりなんだろう |
整列 南野 すみれ
ことばが 頭の中から パラリ パラリ 飛び出してきて 紙の上で文字になり 勝手に動きだした
文字たちは 右往左往していたが そのうちに 誰かに命令されたのか 居場所を見つけ 整列する
整列したことばたちが 白い紙の上から 真っ正面に 私を 射た
萎んだ背中を起こす 伸びていく背筋(せすじ)の上で 顔が明日を摑まえる |
世話人たちの講評
・千石英世より
夜に晴れる
出だしがいいですね。むろん全部いいのですが、とくに出だしが。なにかに挑戦する意志がかんじられるとうけとりました。となると、「へっちゃら」のところ、これは好みの問題でしょうが、ゆるいフランクな感じではなく、意志的な口調がみつかれば…。
明日出逢う海は
出だし4行、
みんな平等
共感します。ついついこの共感を壊す力あるものをにらみつけたくなります。
一匹狼
見事です。
微かな灯火
いいですね。一か所「そっと沈んでく」の「く」が他の語調に比して口語的で目立ちますが、「沈んでいく」もご検討を。
出勤
詩は一面批評なのだと思い知らされました。見事な批評意識だとおもいます。3,4連目とくに秀逸と存じます。
地球
短いけれど鋭い作だとおもいます。もう1連、3行ばかり追加できないでしょうか。中途で遠慮している感じがしました。言い切る潜在力がみなぎっていますので。
孤独
まっすぐで、ピュアで、正直で、そして孤独で。かざらない、まっさらな詩があると感じます。
整列
見事な詩をありがとうございます。大事なのは詩への信頼、ことばへの信頼とあらためて知りました。
・平石貴樹より
夜に晴れる
せつない憧れですね。
明日出逢う海は
海も成長するんですね。発見です。
みんな平等
おっしゃる通り。元気が出ます。
一匹狼
ひとつの覚悟の唄でしょうか。
微かな灯火
第2連、いいと思います。
出勤
洒落てる、けど哀しい。
地球
温暖化のことでしょうか。
孤独
都会の実感ですね。
整列
最終行がちょっと・・・。
・渡辺信二より
夜に晴れる
通例の詩作品は、句読点を使わないのがほとんどです。使うとどういう効果が得られるのだろうか。逆に、句読点を使わないことが、詩に何を保証/保障していたのだろうか。
明日出逢う海は
最終連、最後3行に連続する「を」が捉えきれない。
みんな平等
言う通りなのだけれど、どうだろう、「それだけでもう十分」と思わない人をこの作品で説得できるか?
一匹狼
確かに、野生の一匹狼に何かを託しているのでしょう。狼は、今、日本にいるのだろうかと気になる。
微かな灯火
形が整っている。最後の2行に現実と希望が表現されているが、「灯り」と「灯火」の違いは何なのだろう?
出勤
発想が面白く、また、作品としてまとまっている。
地球
静かに「私たち」の責任を問うているようだ。
孤独
スタンプひとつの孤独がよく伝わる。
整列
「整列したことばたち」が「私を射た」理由を仄めしてあると、より、納得がゆくだろう。
後編はこちらから。