行く春に届いた5篇の詩(23年5月)
暖かい日が続いてこのまま夏に向かうのかなと思えば、上着が必要なくらいに寒さを感じる日があったりする、今年の春。季節はゆっくりと変わるのではなく、緩急がついて変化していくようになったのだなと感じています。
さて、そんな季節に、あさひてらすの詩のてらすには5篇の詩が届きました。「行く春に届いた5篇の詩」、ご一読ください。
行く春に届いた5篇の詩(23年5月) ・家路 ・「蟻の行進」 ・のざらしの仏 ・走る姿 ・ぜいたく |
家路 中村友紀
ポケットには詩を くちびるには歌を 手には花を この胸には かばんには ノートには そっとつめこんで
きょうも |
「蟻の行進」 雪藤カイコ
小さくて黒い蟻の行列 生前の思いが詰まった地面に瞳を落とした昆虫 羽はあったりなかったり 消える命にたくさんの未来 |
のざらしの仏 浮島サウス
くりかえし くりかえし くりかえし くりかえし
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走る姿 長谷川哲士
お前が走る姿 そんなの嘘だ そう言えば 鬼だと馬鹿野郎 最初のデートの待ち合わせ ラガーマンだと しいいいんと静寂 あったなあったな あったなあったなだと もう大丈夫だからよ 何処にも行かない競争だな |
ぜいたく 浮島サウス
キッチンの横に本棚を置くのは |
|世話人からの講評
・千石英世より
家路
だれかに教えたくなるような詩ですね。こんな詩があるよ!って! シンプルで可憐な詩なのだけど、繰り返し読んでいると切なくなってくる。なぜだろう?
「蟻の行進」
蟻の行進を通して生と死の神秘が描かれている。しかも「イッチニ」の所、可愛く描かれているので、かえって生と死の深さ重さが伝わってきます。こころに響く作ではないでしょうか。素晴らしいと思います。
のざらしの仏
「のざらしの仏……」のリフレインがいい。リフレインが生きている。何か重要なこと、それが何かは判らないけれども、伝わってきます。深いです。神秘的です。
走る姿
愛です。
ぜいたく
最後に子どもの声が出て来るのが、意外でした。意外でしたが、出て来てよかった。詩にふくらみが出てよかった。今、詩にふくらみが出てと言いましたが、「カーテンをふくらませた」の「ふくらみ」につられて、言ったのかもしれません。それほどまでにこのあたり最後の5行が素晴らしい。ただ最後の「ちょっと ぜいたくだ」は確認のため、念押しのために言われているのですが、なくても十分にふくよかな感じは伝わってきます。読んで幸せになる詩ではないでしょうか。
・平石貴樹より
家路
さわやかですね。
「蟻の行進」
「瞳を落とした」のは死にゆく昆虫ですか。ふうむ。
のざらしの仏
言葉づかいが独特でした。
走る姿
口は悪いのに情があって、いいですねえ。
ぜいたく
「子どもの声」は、筆者宅のカレーのにおいをかぎつけた通りがかりの親子ずれの会話、ということですか。
・渡辺信二より
「家路」
わかわかしい詩心が伝わります。作品中にほのめかされている「詩」「歌」「あふれそうな気持ち」「言えなかった言葉」・・・これらもそれぞれが、これから、詩作品となるのでしょうね。
「蟻の行進」
行進に、命のつながりを託しています。「死」が単なる「死」ではなくて、「希望」でもあるわけですね。
のざらしの仏
光と闇、風雨にさらされた仏へ注目するのはいいですね。御仏のお顔は、どんななのでしょうね。
走る姿
最後の「何処にも行かない競争」ってことば、面白い。
ぜいたく
たしかに「ぜいたく」ですね。冒頭に出てきた「本棚」や「詩集」のイメージが、最終行の「ぜいたく」に何らかの形で、再度、関わってくれば、さらに良い作品になるのではないか。
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