盆波とたはぶる11篇の詩(24年8月)
ご投稿いただいた中から、今月は11篇を掲載します。ぜひご一読を。
作品に触れていただければ、詩人たちの言葉がどこからやって来たのか、きっと思いを馳せることになるかと。
盆波とたはぶる11篇の詩 ・虹 ・夜の駅の出口で ・天井 ・何もない空 ・星占い ・優しい朝に ・不如帰 ・出逢い ・I'M ONE ・今日 |
虹 倉橋 謙介
本屋を出る頃には ゲリラ雷雨は 駿河台の上を通り過ぎていた 帰りに少し回り道して 聖橋を渡って秋葉原の方を見ると ビルに覆い被さるような とても大きな虹 橋の真下を通る電車を 指でつまんで置けば そのまま走り続けそうなくらいだ それに飛び乗れば どこか知らない場所に行けたんだろうけど ホースで撒いたような明るい雨が 降り続いていたから 僕はさっき買った本をカバンに入れて 地下鉄の駅へ向かった |
夜の駅の出口で 草笛螢夢
夜の駅の出口を通り過ぎる人々の 一日の思いをそれぞれが 何かしらの思いを 心のポケットに仕舞い込み込み 帰り道すがら 又 この地に明日も 何人の人が通るのだろうか
様々なひとりひとりの思いも 又明日はきっと 今日より素敵な出会いや 様々な目的で動くのだろう
僕は夏が近づいた 今に ゲームでの使い残した 100円玉硬貨を手の甲に乗せ 思いっきり天高く みんなの心にも天気になぁれと 投げ上げた |
天井 秋峯かおり
考えている事は少なかった。どうやって生きるかそれだけで、他には、何も。 夜中の4時に目が覚めて、熱を測る。想像の上を行く数値に何故かホッとしながら、また仰向けになる。昔病気の子が言っていた。わたしは病院のこの白い天井をいつまで見続けるのだろうと。わたしは答えられなかったし、その子も答えを知りたいとは思ってなかっただろう。 永遠の値踏みなんて無意味だ。 何か冷たいものが落ちて来た。雨漏り?暗くてよく見えない。古いアパートだから、あり得なくはない。今は、どうだろう。高熱だし、冷やしてくれてる位に考えるのは。そんな親切な人?が一人位いてもいいじゃないか。 いつの間にか眠りに就いたらしく、熱も下がり、お約束通り朝が来ていた。いつもの自販機でいつもの缶コーヒーを買い、職場へ向かう。 あの子は、今もまだ病院の天井を見続けているだろうか。あの、真っ白な天井を。 |
何もない空 菫
風船が 空を目指している まだまだ膨らんでゆく
パアーンンン
掌に落ちてきたのは 桃色の欠片と 細く白い糸
あの時 手を離していたら 空の中で いつまでも浮いていた ものを きっとわたしが 欲張りすぎた 勝手な想いを詰め込みすぎた
音は耳の底へ下りて 止まらない
弾けた場所が黒く 焦げている からだのまん中を 少し外れている |
星占い 小村咲
削れてゆく月の下 握る鉄棒はほんのり冷たい 腕を折り胸に寄せ ひんやりとしたその一直線に しばし重心を預けてみる
顎を空にめいいっぱい向けると 背中がうんと伸びる このまま猫のように 気まぐれにジャンプできたら あの階段も あの曲がり角も 夕萓の咲き乱れる お祭りの前夜 明るみにあるポスターは 夜空に咲く花
爪先からゆっくりと ミュールのヒールを しっかりと大地に預けてゆく 腕が伸びれば夜風も長く 木の葉の形のイヤリングが 後ろへの第一歩を予感する その固いラインをぐっと引き寄せ 後ろ脚はもうその先へ 舞い上がるジーンズのボトム お腹を押す鉄の反発 くるりと 裸足が地に戻れば みだれ髪が ふんわりと頬を撫でた 明日 天気になあれ |
優しい朝に 槻結糸
優しさを広げてください
目覚めたばかりの山を撫で 生まれたばかりの霧をくぐり 朝に残る月を眺め 限りをつくらないで 遠い彼方へ どこまでも どこまでも
川の流れにのって 淵に留まらず 川面に浮いた葉を抱きしめて 川を渡る風を包み込み 限りをつくらないで 遠い海へ 緩やかに 緩やかに
風にのる鳶のように 風に揺れる樹の葉のように 風の音に心を寄せて 限りをつくらないで 私の知らないあなたへ 優しく 優しく
優しさを広げてください |
不如帰 槻結糸
雨の夜 ここにこいと 不如帰が鳴く ここにこい ここにこい 雨の音に消されることなく 耳に届く ここにこい ここにこい
雨粒の間を縫って 暗がりに躓かぬように 雨の夜に 不如帰が私を呼ぶ
風の夜 ここにこいと 不如帰が鳴く ここにこい ここにこい 風に飛ばされることなく 耳に届く ここにこい ここにこい
風の波を潜り 闇夜に迷わぬように 風の夜に 不如帰が私を呼ぶ
夜が重い 雨が重い 風が重い 私は体を遺し 不如帰の元へ
ここにこい そこへゆく |
雨の日に 槻結糸
静かに降る雨の粒が 川面の上を 一粒一粒光りながら滑ってゆく 川面におりたその時に すぐにつぅと滑ってゆく 音もたてずに
川べりの樹に 太く巻き付いた山藤の豆は おおかたが弾け飛び 莢は散らばり 種は土に潜ろうとしている 種は土を滑らない
ひよどりが 雨の粒を蹴散らしながら ぴぃぴぃとけたたましく道を横切る 私を見ようともせずに
静かに降る雨の粒が 私を濡らす 涙の粒を抱かえながら 土に潜り 川へと辿る
|
出逢い 水瀬そらまめ
決めた 貴方に決めた そう決めた若い心
青空 真っ青な青空色の貴方 素敵な
たくさん語ってくれた言葉が 輝いていて 夢中になった
今は懐かしい日々
好きよ 大好きよ
今も変わらぬ想い
風船みたいに 飛んでいってしまわないように 木に結びつけ⋯⋯ |
I'M ONE 鏡文志
たった一人で、生きている だから、仕方ない
たった一人で、生きている 一体、なんのため?
たった一人で、生きてきた それは、分かってた
たった一人で、生きてきた それに、気づいてた
大義もなく、名誉もなく 孤独な漂流者よ 貴方は一体、何処へ往く? |
今日 七海独
不安が心拍数を僅かに上げる。 同時に、誇りと希望が体内を駆け巡る。 不安を感じられるのは、 前進している何よりの証だ。 恐怖が全身を震わせるのは、 新しい世界へ向かおうとしている勇気の発露だ。 もう僕には全て揃った。 ここに全てある。 向日葵のように太陽を見つめることができる。 海のように自由に羽根を広げることができる。 |
|世話人たちの講評
・平石貴樹より
虹
一瞬の夢想、自然でいいと思います。
夜の駅の出口で
助詞などを含めてところどころ変なのは、一つの技法でしょうか?
天井
いいですね。感覚も起承転結もいい。
何もない空
「勝手な思い」を書きながら叱る、微妙なバランスがいいですね。
星占い
タイトルがわかりませんでした。
優しい朝に
きれいなフォークソングのようですね。
不如帰
魂の訪れる「そこ」とは、さしずめ黄泉の国なのでしょうか。
出逢い
ちょっと終わりが唐突でしょうか。
I'M ONE
わかるけど、もう少しなにかほしいです。
今日
自分に言い聞かせているのですね。
・渡辺信二より
虹
聖橋付近の風景が思い浮かぶ。
歩く際に見える情景を取り上げるのは、詩の基本のひとつです。
ちょっと理解が及ばなかったのが、天気のこと。明るい雨が/降り続いていた(13-14)とはいうが、ゲリラ雷雨(2)は通りすぎ(3)て、大きな虹(7)が見たのだから、晴れていたのか?
夜の駅の出口で
1行目〜3行目「を」が3回使われていて、理解しずらい。12行目「僕は夏が近づいた」に戸惑う。
天井
「永遠の値踏み」というのは秀逸な言葉です。でも、このままだと、何か、もったいない。
「昔病気の子」(3)とあるが、「どのくらいの「昔」なのか。最終行に、「あの子」への思いが表縁されているが、「あの子」のその後、ないし、現在がほのめかされていれば、また別の作品になっていただろう。
何もない空
「弾けた場所」(18)がどこなのか、ちょっと理解できなかった。もしも、「音」(16)が「耳の底」(16)だけでなく、「からだ」(20)のなかにも広がっていって、その結果「弾けた」のだとすれば、それが示唆されているとありがたい。
星占い
ちょっと不思議な読後感なのだが、タイトルから考えれば、この内容、星で何を占うのだろうか? 「背中がうんと伸びる」のに、「猫のように」「ジャンプ」とつなげると、比喩と表現がうまくいっているか?「ジャンプできたら」を受ける部分は、どこだろうか?「裸足」とあるが、「ミュール」を履いていたのではないか? などなど、色々考えてしまう。
優しい朝に
心やさしさがよく伝わる。「限りをつくらないで」の反復も、うまくできている。
優しさの具体的な場面があれば、さらに、説得力が上がるだろう。
不如帰
雨の夜、風の夜に鳴く不如帰ですね。「私は体を遺し」が面白い表現です。
大伴坂上郎女の霍公鳥(ほととぎす)を思い出す人もいるでしょう。
出逢い
タイトルと作品内容と、釣り合っているか。
I'M ONE
「貴方」の回答は、どんななのだろうか、気になる。
今日
不安や恐怖と勇気との関係を踏まえて、「今日」が新しい出発ですね。
「海のように」の比喩は、一考を要するのでは?
※今回、千石英世氏のコメントは休載となります。ご了承ください。
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