おぼろ月の見える頃に届いた6篇の詩(24年3月)
街中で、晴れ着を身に纏う学生を見かける季節。桜が咲くのはまだすこし遠いようですが、体に触れる空気の変化に気付き、春が近いことを悟る頃となりました。あさひてらすの詩のてらすに届いた作品の中から、今月は6篇を掲載いたします。ご一読ください。
おぼろ月の見える頃に届いた6篇の詩 ・「詩」 ・「路子/みち/こ」 ・誰とも知らないけれど ・青い少女 ・こころ ・こつこつと |
「詩」 草笛螢夢
人の来ない綺麗な砂浜を探し 詩は言葉を産み落として行く
道端の野の花を見つけ 詩は心に温かいものを教えてくれる
ドス黒い夜明けの前の空の下で 詩は宛てのない手紙を置いていく
空に虹が二重に成ったその時に 詩は例えようの無い感情でペンを走らせる
憎しみ会う争いの様子に心打ちのめされ 詩は言葉の理解を探し続ける
赤児の笑い声を聴きながら 詩はゆっくりと深い眠りに入る |
「路子/みち/こ」 長谷川哲士
寂雨が路を潤す 身がもたないと 命の葉っぱが 揺れながら 落ちようとする
葉っぱには名前が有る 路には名前が無い
有るから無いへの 引っ越しは辛い
せめて下からの 風など吹いてもらって 浮遊してみたい などなど願望するが
吹上の風は 婦人のスカート めくりあげて ふふふと笑って去る
路だけうねり続いて 時折穴ぼこがある どうしても雨止まぬ 何となく寂しくて 鼻水上下してる |
誰とも知らないけれど 筒路なみ
途方もなく大きな結晶に 彼は一思いに力を振るって 新しく角を作ったその断面を 見つめる間も無く鋭利は弧を描いて そうするうちに 結晶はちっぽけになってしまって
少年は 削ることを最善だと教わり 撫でることを怠惰だと教わり 時間をかけることを偽善だと言った
ならばせめて 空をも切り裂くような結晶が それを生み出した少年の 同じように鋭利な心へ すっぽりはまってくれますように 隙間がそれで埋まりますように
小川のほとりの小さな河原 小さく固く、丸い石を胸に抱いて そんなことを、願っていた。 |
青い少女 野木まさみ
その青い人は 凪いだ水面の小舟を押す風のような人
その少女の放つ光が 静かな夜に月を引き寄せ 星は共鳴しチカチカと輝きを増す
季節の到来を人々に伝え 雨の日もこの太陽の子供は微笑みを絶やさず
泪を流すところを見せず 頬を伝ったものを詩に変える
穏やかな声で話し 沢山の仕事を抱えながらも 少女の周りは時間が緩やかに流れる
私は少女に触れることはできないけれど その創り出すものを通じて出会い 恩恵を受け続ける
私はその恩恵への感謝を伝え続ける |
こころ 安藤 院
オメガ星雲で 新しい星がいま 誕生している
創造は柱となって 可視化されている
神々の顕現にも見えれば 悪魔の夜行にも見える
創造が形づくるものは いつだって心に似ている 小さな人間はいつだって 宇宙の創造にすら 自分の心を投影する
新しい星はそのうち ガスや塵を吹き払って 宇宙に輝きを放ち始める
君の心もそうだろう 新しい星の誕生のように 果てしない宇宙で どこかで失われた こころを求めるために 君は生まれた |
こつこつと 筒路なみ
こつこつと、こつこつと 一文字ずつ、文字を連ねた文章は あまりにそこだけ見つめていたので がたがた曲がっていることがままあるけれど 罫線の引かれた紙を使うことを レールの敷かれた人生、というのでしょう
こつこつと、こつこつと 一歩ずつ、歩んでいくこの道には 足元の野花だけ追ってきたので 本当は多くの分かれ道があっただろうけれど 確かめられない、花の香りもわからない ここが生きるべき今なのでしょう
端っこに立たないと 全部が見渡せないので 崖っぷちにいないと そこから離れる道筋が見えないので 私は今日も歩きます こつこつと、こつこつと
こつこつと、こつこつと それは、地道な夢への一文字ではなく こつこつと、こつこつと それは、出来る限りのスピードで 未来へと歩く足音です 蛇行しながら歩く、私の足音です |
|世話人たちの講評
千石英世より
「詩」
ことばの運びがおだやかで流麗で、きれいな詩だなと思います。こまかいところで漢字と仮名の配分を見直すと、キレがでてくるような気がしますが、むろん、現行でも無問題なので贅言を弄していることになりそうですが、思い切って言ってみました。
「路子/みち/こ」
うまい! 感心します。
従前、読ませていただいてきたのとちがう作風で、こっちの作風もいいですね。スゴイです。シブイです。
誰とも知らないけれど
結晶が段階的に変化して行く詩だと受け取りました。その変化にしたがって「彼・少年」の心も段階を踏んで鋭角化してゆく詩だと受け取りました。その変化のさまを観察し描いて、語り手の心のうちがひらかれ、「彼・少年」に語り手の心がよりそうわけですが、そして、よりそい、祈りの気持ちに変化して、最後「丸い石」を抱きしめるわけですが、これらの変化の段階にメリハリがでると説得力が増すように思います。語り手の心情語が、「ならばせめて」と「願っていた」の二つがメリハリの厳しさをゆるめているのではないでしょうか。
語り手の心情語を伏せて読むとメリハリがでているように思えるのですが、いかがでしょうか。
青い少女
「青い少女」、「青い人」、「その少女」、「私」と呼称や人称が変わるにしたがって主人公(タイトルの「青い少女」をかりにそう呼びますが)に焦点が絞られていき、くっきりとしたポートレートが見えてくることを期待させる書き方になっていると思います。さらに「私」と「青い少女」の関係性をほのめかしてもらえばそこが具体化して、さらにくっきり感が増すようにおもいました。たとえば、最終行の「感謝を伝え続ける」のは無言のうちに? それともこの詩を捧げることで? とか、ほかにもAの方法で、Bの方法でとか、Cの、、、のといった関係性が一言あればということなのですが、どうでしょう。
こころ
いいですね。生命賛歌として共感します。「どこかで失われた」のどこかが「いたるところで」でないことにむねを撫でおろすおもいです。
こつこつと
いいですね。「こつこつと、こつこつと」というリフレーンが胸に響きます。胸にやどります。「蛇行しながら歩く」、ここも凄い! 蛇行することを恐れない、これですよね。われわれに必要なのは!
平石貴樹より
「詩」
「詩」がだんだん「人」や「私」とも読めて、味わいがあります。
「路子/みち/こ」
控えめなユーモアがいいと思います。
誰とも知らないけれど
タイトルは「結晶」じゃないですか。そうするともう1連ぐらいほしいですね。
青い少女
なんとなく宮沢賢治を思い出しました。
こころ
スケールが大きくていいですね。
こつこつと
ひたむきな心が伝わります。
渡辺信二より
「詩」
1. 偶数行の言葉の具体化が望まれる。「産み落とした言葉」(2)、「温かいもの」(4)、「宛てのない手紙」の中身(6)、「宛てのない手紙」の目的と要旨(6)、「走らせたペン」が書いたこと(8)、「言葉の理解」の内容(10)・・・。それぞれが、それぞれで、たくさんの詩が生まれるはずでしょう。
2.段落が2行構成ですが、次第に時間が経過しているのか? 気候が変化しているのか? また、詩が「深い眠り」(12)へ至ることを、どういう詩的論理が支えているのか?
3.「夜明け」(5)は、伝統的には「ドス黒」くはないので、この表現を活かすには、もう少し、丁寧な詩的表現が前後に必要です。
4.「憎しみ会う」(9)の漢字はこれでいいのか?
「路子/みち/こ」
最終連「路だけうねり続いて/・・・/雨止まぬ/何となく寂しく・・・」とあるが、「寂」と「雨」に関して、第一行目では、「寂雨が路を潤す」と表現している。読者としては、やはり、「寂雨」がどういうふうに「路を潤す」のか、知りたい。ちなみに、『コトバンク』には、<じゃく【寂】 は 雨(あめ) >=「江戸時代、最後には死んでしまう運命にあること、また、先行きの見通しが暗いことの意を表わす慣用句」とある。
誰とも知らないけれど
タイトルが暗示的ですけれど、作者には、この作品の焦点が何なのか分かっているのでしょうが、でも、それが読者には伝わりにくいだろうということも、分かっているのでしょう。取り上げる素材とその組み合わせは、非常に良いものがある。
青い少女
タイトルの「青い少女」を様々に言い換えて描写しながら、じぶんの「感謝」を伝えて作品を閉じている。詩人としての力量を感じるので、問いの形でコメントしたいのだが、そうした言い換えの中で、「青い」という色彩がどう生きているのだろうか。また、「青い少女」を「この太陽の子供」と言い換えたとき、直前の「月」とか「雨の日」の表現と、良い意味で響き合うのだろうか。
こころ
「君」の誕生と「新しい星」の誕生を重ねる雄大な発想が良い。作者の思い入れがあるのでしょうけれど、タイトルと最終連で、「こころ」と平仮名表記する理由が、少なからぬ読者には、伝わりにくいだろう。
こつこつと
未来への着実で確信を持った歩みが見える。第3連は、具体的にどこをどう歩くのかわからないので、ちょっと、危うい。
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