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あさひてらすの詩のてらす

木々が色づく季節に添える8篇の詩(23年10月)

先月の終わり頃より過ごしやすくなり、 朝日出版社の近くにある日本武道館周辺の木々でも紅葉が始まっています。読書はもちろん、詩作にも一層精を出したいこの頃、投稿された作品の中から選ばれた8篇をお届けいたします。ご一読ください。 


 

葉が色を変える季節に映える8篇の詩たち

・蚊

・身代わりに不感症

・君が散る

・変遷

・自由

・だんだん

・小瓶

・MY LIFE

 

浮島サウス

 

明け方の蚊は身重になって

赤く透けた腹を引きずりながら

彼女とぼくの顔のあいだを通り過ぎる

ぱちぱちとライトを明滅させたような不愉快な音

 

明け方の僕は起き上がって

右手で簡単にとって潰した

掌は黒い血と蚊の破片とがべっとりと

白いシーツにこびりつく

 

刺されていたのは彼女の方で

ほほのあたりの小さな腫れは

こんなにも遅い秋の朝に冷やされる

腹の中のもっと大きな腫れも

 

昨日からヒガンバナが群れ咲いて

土手が赤く色づき始めた

お祝いにヤマモモのあまい酒を一杯

たわわに実る秋になるようにと

 

しかしまだ薄着のぼくらには寒すぎて

あたたかな光が射すまでは

このままくっついていよう

それでも寒かったら毛布をだそう

 

身代わりに不感症

網谷優司

 

あなたを失ってからの日々。

時間は蝸牛のごとく、でも確実に進んで、

一人寝にも慣れてきました。

 

わたしが崖から転げ落ちるように仕組んだのはあなた。

でも、あの時落ちていくわたしを見下ろして、

泣いていたのはどうしてなの。

 

罪な人ねって笑ってあげたいけれど、

もうわたし、笑い方なんて忘れてしまいました。

わたしの心は醜く枯れ果てて、不感症。

 

罪びとのあなたと、あなたが大好きなわたし。

あなたを責める人はどこにもいない。

だからわたしがずっと、

あなたの罪を背負っていけばいいんでしょう。

 

わたしが庇いきれなくなったら、

許してね。

憎しみが愛を上回ることなんて、

よくあることなんだから。

 

なんだかわたし、

あなたを泣かせてばかりですね。

 

君が散る

筒路波

 

手を伸ばした

それに触れた

そこには、散りゆく花弁

 

手を引っ込めた

風が吹き付けた

そこには、散りゆく花弁

 

どうせ散るなら、触れたいのに

どうしようもなく、君は脆い

 

君を覆ってしまおう、

君に屋根をつけよう、

君へ眩しいくらいの光を当てよう、

 

もう風に揺られない君は

太陽から目を背けたまま

いつか舞う、桃色の涙を待つ

 

変遷

鷹目綾香

 

自分が何かに躓いた時

 

誰かの何気ない優しさに救われることがある

 

誰かを忘れるために新たな誰かと出会い

 

今日もまたさよならを繰り返す

 

それがどんなに短い時間でも

 

たとえどんな別れ方をしたとしても

 

一瞬でも私の傷を癒してくれたこと

 

この先もずっと忘れずにいたい

 

永遠に大切にしたい思い出

 

自由

おののもと

 

殴りたいから殴った。それは自由では、ない。

頭に来たから怒った。それは自由では、ない。

自由とは、想像力を通し、世界を理解し、物事を捉える、解釈の自由だ。

 

それを発するか? 発さないか? それは第二の自由。

選択権の自由。

 

その自由を保障すること。それが法律による規制である。

自由とは、法律による規制があって、初めて約束される。

 

つまり鳥籠の中の自由を自ら選ぶその献身。

その社会的積極性があって、成り立つもの。

 

では、多くの人々にとっての自由とは?

肉体的奴隷を選ぶ盲目的自由。つまり、野蛮による自由である。

 

だんだん

草笛螢夢

 

初めて

嘘をついた

嘘には

いろんな意味を持たせたい

時がある

でも

心が痛まなかったことが増えると

だんだん自分を正当化した

偽善者になるようだったので

怖かった

 

大人は子どもに

正直で居て欲しいし

そう信じて居る子どもがいると

信じたい

 

でもいつの間にか

見抜かれていることさえ

その大人は気づかない

 

その見抜くのを教えたのも

心を失いかけている

大人がいるからだと

 

成長のための嘘を使い分ける

子どもがいて欲しいと

心の中で願う事もあるが

それは

ただ自分が安心したいだけ…

 

そんな心配している間に

子供は成長し

どこで身につけたか

世渡り上手の処世術を

何の疑問もなく

いつの間にか身につけていく

 

誰のせい?と

ふと胸に手を置いた私がいる事で

我に返っている

 

小瓶

筒路波

 

海岸を歩いて

足をひたして

くすぐったいね、なんて独り言

裸足を撫でた

くすんだ小瓶

なんだろう?なんて独り言

 

開けたら。小瓶は疲れてたらしい

ヒビが入って、手の上に欠片を落としていった

中には古びた空気だけだった

吸い込んだって、吸い込んだって

もうみーんな潮風に溶けてる

 

ああ、いい終わり方だね。

私も、そういうふうに終わっていける?

泡のように

空気を抱えて、上へ上へ

さいごに一気に吐き出して

青い走馬灯に笑いたい

 

いつかね、なんて独り言

帰ろうか、を潮風にのせて

 

MY LIFE

おののもと

 

僕は、見る前になぜ飛ばなかったんだろう

 

人が見る前に飛ぶ理由をどうしても

知りたかった。

 

文化を守ると言うことは

見てから飛ぶことだと思っていた。

 

見てから飛ぶために見続けていたとしたら

その間、何故見続けていたかと言う理由に

説得力がなければ、それは見る前に飛ばなかった理由が

間違っていたと言うことです。

 

私はずっと、飛ぶ瞬間を探しているのです

見ることを自分で選んだ以上、それが途轍もない愚策でも

それは自己責任。それが僕の人生なのです。

 

天が私を睨み始めた。

 

 

 

|世話人からの講評

・千石英世より

素晴らしい詩と感じました。しずかな生活にこそ複雑なふかい陰影があることを知りました。最終連、とくに、感じ入りました。「くっついてい」る「ぼくら」の姿も「大きな腫れ」に見えてきました。

身代わりに不感症

いいとおもいます。深くて怖くていい詩ですね。とくにタイトルがいいです! 最終連も、このポップな感じ、ふっきれちゃって、ふっきれなくって。この二人を二人ごと抱きしめてあげたい! と思わせます。

君が散る

いろんなことを想像させるシチュエーションです。最終連のその先へ、「いつか舞う」その先へ、「桃色の涙を待つ」人(それがだれであれ)その人に、だれか(それがだれであれ)一言いってあげるとして、それは何だろう、どんな一言だろうと想像しました。考えました。

変遷

こういうふうな感慨あるとおもいます。生きてる限り、あいみ互い、ということでしょうか。一方通行的でなく。相見ての、互いを見ての、身を入れ替えての、ということでしょうか。タイトル「変遷」がそれを示唆していると受け取りました。

自由

最終行まで読み、最終行で、「自由」には前のめりの瞬発的自由と、ゆっくりと後ろを向き、ゆっくりと立ち去る自由とがあるのだと知りました。そんなゆっくりの自由があっていいのだと知りました。

だんだん

ここにいわれる「大人」と「子供」は別別の人で、親子関係にある二人と受け取れるわけですが、少しずらして、同一人物の昔と今と受け取れば、どんな詩になるか? と最終連でそんなことを思わせる内省的な詩だとおもいました。

小瓶

最終連の最終行「帰ろうか」、ここ切実でした。ほかにも切実な詩行がいくつもありますが。で、どこへ「帰る」のかしら。「くすんだ小瓶」がきたところ、小瓶が旅立ってきたその出発の浜辺、ですね。

MY LIFE

最終行、すばらしい。「睨み始めた」その目つきは怖い目つきではなく、やさしい、じつは君をハグしてあげようという感じの目つきでもあるとすら思わせます。ところで、「自己責任」という語は最近よくいわれるきつい言葉ですが、その裏面は本当の「自由」なのだと思うのですが、いかがでしょう。そして本作により、自由には、怖い自由と怖くない自由があるとして、怖くない自由が本当の「自由」だと思うにいたりました。「飛ぶ瞬間を探しているのです」の1行の力強さにそれを思いました。怖くない自由とは、希望という名の自由とでもいうのでしょうか。

 

・平石貴樹より

 蚊も身重、彼女も身重、しかし蚊は殺されて、その無意識的願望は・・・という、ひやっとする内容でしょうか。
 
身代わりに不感症
 ちょっと演歌っぽい面白さでしょうか。
 
君が散る
「桃色の涙」は誰のどんな涙なのだろう。
 
 
変遷
 おっしゃる通りと思います。
 
自由
 ご趣旨もうなずけます。
 
だんだん
 育児上の実感でしょうか。共感できます。
 
小瓶
 さびしいユーモアがあって素敵です。
 
MY LIFE
 共感できますが、見ることを「選んだ」ときにすでに飛んでいる気もします。

 

・渡辺信二より

身代わりに不感症

一読した限り、簡潔を旨とする詩の特性を生かした面白そうな内容だけど、一読者としては落ち着かない。その理由は、一人称と二人称の関係や、二人の現状に関して、不明な点が幾つかあるためです。たとえば、「わたし」は「一人寝」しているので、死んではいないのでしょう? それでも、「わたし」は「崖から転げ落ち」た? 「あなた」は「わたし」を殺したので罪人なのか? それで、「身代わり」なのですか?

君が散る

暗喩の世界が広がる14行詩です。こういう作品を書くのは作者の喜びでしょう。

変遷

確かにその通りです。その通りなのですが、「何気ない優しさ」の具体的な様子を知りたい。

自由

こうした主題や論理展開が、日本の詩の中でもっと重視され活用されて良い。ただし、行替してあれば詩である、かどうかは別の問題でしょう。

だんだん

この書き手が初めて嘘をついたのは、どういう場面だったのだろうか。それが暗示されていれば、メセージがもっと響くでしょう。

小瓶

死さえ吸い込もうとする、穏やかだけどたぶん未来が見える呼吸です。

MY LIFE

大江健三郎のように、W.H.オーデン「見るまえに跳べ」を踏まえているのでしょう。具体的な例を示す中で、行替えされてゆけば、更に説得力が増すはず。このままだと、やはり、天に睨まれるでしょう。

 


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