朝日出版社ウェブマガジン

MENU

あさひてらすの詩のてらす

残暑の頃に届いた10篇の詩たち(23年9月)

ある日突然、風にひんやりとしたものを感じて、私たちはもう秋が近いことを悟ります。長い夏も終わりにさしかかり、これから新しい季節を迎えようとする頃、あさひてらすの詩のてらすに10篇の詩が届きました。今月は作品はもちろんのこと、世話人のコメントも読みごたえのある回となりました。ぜひご一読を!

引き続き作品の募集を行っております。作品の投稿方法の詳細は、下部に記載しています。こちらもぜひご確認ください。


 

残暑の頃に届いた10篇の詩たち(23年9月)

・夕暮れ

・あともう少しだけ

・死の間際にて

・なびき

・眠りについて

・Ordinary days

・万感の愛

・くしゃり

・仮面の告白

・Evacuation drills

 

 

夕暮れ

関根全宏

 

葉を茂らせた樹木の向こうで

七月の太陽は

冷静を装う

乾いた庭で

行き先を失った果実の種が

掬われることなく

大地は歪むというのに 

 

それでも薄暗い台所で

夏野菜が茹でられ

玄米が炊かれる

骨と肉

顔と顔

視線が陰るその顔には

カタルシスなどないというのに 

 

それでも夜になれば

死者と戯れる

今はただ

魚が焼かれた

良い匂いがする

 

あともう少しだけ

軟水と昆布

 

世界がささくれて

私に小さな痛みを拵える

やがてささくれが大きくなって

私はここで踞る

 

満月の夜に

真夜中に浮かぶ

満月の夜に

この世界から上を見上げてみたら

ここから抜け出せるかもしれない

 

手をのばして

煌めきも瞬きも輝きも

哀しみも全部

無い世界へ

 

この満月の夜に

 

この世界からの出口の先へ

 

立ち上がっては指先を彼方へ

 

私はこの先へ

 

死の間際にて

酢昆布

 

跳び上がって

君の目の奥の

その先の 

遠い世界を見た

 

僕はどこにも居なくて

 

乾いた音と

煌めきの中で

 

君が踊っていた

 

あまりにも美しくて

歓びと嘆きの中で

僕は目を瞑る

 

明日

ここから居なくなっても

 

君が踊っているなら

 

僕はもう

 

 

大丈夫

 

なびき

長谷川哲士

 

怒った風が吹く

 

閉める扉のそして

食器を洗う音が

荒々しい

 

隙間に挟まって

死んだふり

 

無理筋の生活

苦しいのは

自我だけではない

 

切っ尖の彼我

何方に向けられたのか

どうしようか

 

不穏の高鳴りばかりが

気になり出す

誰かに知られて笑われて

無駄死にする前に

 

家の掃除をして

作戦を決行しよう

妻の寝てる間に

 

 

 

眠りについて

おののもと

 

眠っているのが、好きだ。

眠りの中には安息がある。

官能がある。

欲望がある。

幻想がある。

そして、愛がある。

 

正義のための戦争がある。

反撃がある。

快楽がある。

信頼がある。

疑問があり、納得がある。

 

 

どちらも本当だ。この世に嘘はひとつもない。

ただ、それに気づかない人々の言葉に、真実はない。

 

途中、目覚めれば、と言う言葉をつけ忘れた。

本当は、目覚めについて語りたくない。

僕は、眠りについて語り続けたい。

それが、僕のロマンティック。想像力、それは愛だ!

 

 

Ordinary days

MT

鋭い音の断片に傷つけられた午後は、かけらを取り除いて見えない血を隠そうとした。

一揃えのユニフォームに身を包む人形達のJ POPに心を壊されそうになりながら、

つかみどころの無いワイヤレスの鎖で繋がれそうになった。

もうすぐ今日も夕闇が迫ってくる。

明日は静かな色の雨で傷口を探してみよう、小さな心の振動を探すために。

鈍い痛みにさよならを告げたら分厚い夜が微笑んできた。

 

万感の愛

おののもと

 

真の芸術家四十にして、立ちたり。若き成功悲劇也。

詩人、沈黙を好まぬは、何故か? 傾聴し過ぎているからである。

人論理、完璧に非ず。

その誤に気づけし者、密やかに沈黙を守り、口慎みながら、従いたり。

その誤ち、修正せし時、傾聴し続けし者、立つ。

即ち、四十迄は、沈黙を守り、時に羊の皮を被る。

人が発するとは、なにか?

論のみ正しければ、発することなし。

ただ、筆にて議題を決め、互いに腑に落ちるまで、論を深めれば、善。

発することによりて、感を味わい、互いに情を深め合う。

分かち合いて、縁繋ぐ。是即ち、愛である。

 

くしゃり

雨村大気

 

その蝉の抜け殻は取り残された

 

中身は出ていったとき

羽が開ききらないまま乾き

飛べずに地面に落ちて死んで

腐りかけた頃、蟻に運ばれていった

 

抜け殻は土にいた頃のあやまちを数えながら

今はただ黙って世間を聞いている

 

中身も無いしピクリとも動けないけれど

心も空っぽなので

体には乾いた風が快く流れた

 

抜け殻はよく晴れた昼間

雄の蝉が鳴いたり

雌の蝉が待ったりするのを眺めながら

自分がその一員であるような気分になったり

 

誰もいない雨の日の夜

湿気で少し柔らかくなって

生きているような気分になったりした

 

ある日足が一本ポッキリ折れて

抜け殻は地面に落ちて転がって

誰かに踏まれてくしゃりとだけ言った

 

仮面の告白

おののもと

 

僕は、井上陽水さんの歌を聴いて、女性の滴る汗の匂いを嗅ぎました。

 

小田和正さんの歌を聴いて、風の吹く音を聴きました。

 

ビートルズの演奏を聴いて、雷鳴のなる音を聴きました。

 

ものを感じ取って、それを発するって、とっても恥ずかしく、勇気がいることです。

 

Evacuation drills

MT

 

俺はまちを捨てて逃れた。

何年かは犠牲者の様に振る舞い、何年かは偽善者のようだった。

今は傍観者かも知れない。

あの頃の夜空の星の光は何光年も前の物だと言う。もしそうなら何を照らしていたのだろうか?

あれから何回も朝焼けと夕焼けが無言のうちに繰り返され、空には無数の色や音が悲しみとほんの少しの優しさをつれて漂った。

その多くは鈍い痛みに変わり、地球の隅々に輝きと言う名で現れた。ある者は希望という名前に形を変え、ある者は憎悪した。真夜中の月は冷たい炎を燃やしあらゆるものを目覚めさせようとした。太陽がやってくる少し前、墨のような空に電線がショートしたように稲妻が現れた。それがあの日から続く終わりの合図のはずだった。それなのにあの日の風は止むことを知らない。

 

 

 

|世話人たちの講評

 

・千石英世より

夕暮れ

全3連の作で、2連目の「骨と肉/顔と顔」の2行、印象強烈で、ここ、ポエジーありと感じます。「骨と肉」はありがちな語群といえばいえるようおもいますが、次の、「顔と顔」にがっつりつながり(ぶつかり)、そのつながりが、ありきたりの「ありがち感」を大きく突破し、意義あるイメージを確保しているのだとおもいました。全体、漢字と仮名の混ざり具合に推敲の余地ありとおもいますがどうでしょう。それは、いま上にいったことと関連もするのではないかとも。最後の「魚が焼かれた」は「魚が焼かれる」とするとどう全体と照応することになるのか、考えましたが、よくわかりません。

あともう少しだけ

1連目、好きです。いいですね。2連目、重複句が気になりました。そこを整え、全体、整えれば、たぶんみじかくする方向で、そうすれば味わいふかい良い作になるように考えています。きほん、良い作なのだ、という確信をもちました。

死の間際にて

いいですね。複数の行の連と1行だけの連が組み合わさった詩ですが、そこをヴィジュアル的に整えると、軽やかだが艶のある作になる予感あり。そしてタイトルがさらに意味深になるような。

なびき

最後の行でオッとおもいました。「妻」が登場する詩には良い詩が多いという大づかみな感想をもっている私ですが、これもそうだとおもいます。最後の連がしぶく深いです。怖くてササリマス! 「隙間に挟まって/死んだふり//無理筋の生活」、ここ、もう詩そのものですね。見事な作と存じます。

眠りについて

禅の言葉のように受け取りました。「この世に嘘はひとつもない」、そうだった。そうだったのだ、そうだったとはうすうす感じていた。ただ気づかないままであった! まだ間に合いますか。

Ordinary days

良いとおもいます。とても良いとおもいます。「音の断片」は音楽のカケラではなく、あくまで「音の断片」で、それをつないで「音楽」にするのはわれわれである、「小さな心の振動」こそが音楽で、それが詩で、本作は詩への信頼の詩であるとおもいました。良いとおもいます。とても良いとおもいます。

万感の愛

心して読ませていただきました。私のようなものに向かって語られた貴重な金言と受け止めました。とくに、「発することによりて、感を味わい、互いに情を深め合う。/分かち合いて、縁繋ぐ。是即ち、愛である。」私のようなものもそうおもいます。

くしゃり

「抜け殻は土にいた頃のあやまちを数えながら/今はただ黙って世間を聞いている」、

ここ素晴らしい! 「世間を聞いている」が効いている! 普通こういういい方しませんものね。全体、作のメッセージとしては、暗くってはかなくて、つらいものがあるわけですが、詩としてはみごとにまとまっていて、詩的信頼に足る作という気がしました。大いに好感ありです。

仮面の告白

最後の行、まったくそう思います。定型もなくリズムなくメロディーもなく、つまり音楽なしで「それを発するって」、「恥ずかしく、勇気がいること」、まったくそう思います。となると、われわれは井上陽水よりも小和田和正よりもビートルズよりも「恥ずかしく、勇気がいること」を試みている!? でも、この「仮面」の告白、全4行にはリズムがありメロディーがあり、つまり音楽があるではないか。定型ではないにしても! いや定型ではないからこそ、新しい音楽があるのではないでしょうか。この4行は、井上にも小和田にもジョンやポールにも書けないことを書いている。

Evacuation drills

すばらしい詩句がちりばめられた佳作とおもいます。無限の過去、無限の未来、無限の現在、これらは時系列化できる無限の時間か。イメージでとらえるしかないヴィジュアルの無限の広がりなのか。最後のセンテンスに何かヒントがあるように受け取りました。触角か。なまな触覚か?

 

・平石貴樹より

夕暮れ

 生と死のせめぎ合い。何度も読み返させる力がありますね。

あともう少しだけ

 繊細で切実ですね。

死の間際にて

 跳び上がれるのだから、僕は元気なんですよね? うーん、複雑微妙な味わいです。

なびき

 「作戦」とは何なのでしょうか。

眠りについて

 したたかな構成の、共感を誘う作品だと思います。

Ordinary Days

  時代に傷ついた魂ですね。共鳴できます。

万感の愛

 文体はいいのですが、やや速断でしょうか。

くしゃり

 抜け殻の擬人化。感動しました。

仮面の告白

 同慶の至りです。

Evacuation drills

 終わりが終わらない、という、すえたような悲しみでしょうか。

 

・渡辺信二より

夕暮れ

「死者と戯れる」がいかにも重く、かつ、その具体的な内容は何々かと戸惑うが、それが、「魚を焼く」日常性とは、明らかなアンバランスの妙を醸し出している。

あともう少しだけ

「ささくれ」で「踞る」ほどの何かがあるのでしょう。余韻の残る終わり方です。

死の間際にて

第1行目「跳び上がって」「君の目の奥の/遠い世界を見た」僕と、君との関係が気になる。

なびき

確かに最後の行が、意味深い。「作戦」とは何なのか、おぼろげにわからないことはないが。「なびき」がタイトルなのですね。

眠りについて

「愛」って何かなと考える。作品中のヒントは何だろう。

Ordinary days

これが、「Ordinary days」だと大変です。

ひとつだけ、「繋がれそうになった」という表現は、中途半端でしょう。

万感の愛

孔子の「四十にして」の現代版でしょうか。やはり、今は「愛」なのですかね。

くしゃり

タイトルがなんとも言い難く、作品内容を受けています。

仮面の告白

2行目、3行目で、「・・・を聴いて」「・・・を聴きました」を繰り返すのが気になる。

Evacuation drills

タイトルは、「避難訓練」という理解でいいのでしょうか? もしそうなら、タイトルと内容の関係が今ひとつ掴めない。また、「あの日の風」についてだが、これが最終行で初出なので、作者の思いを託された強さが伝わるが、作品全体ではちょっと落ち着かない。

 

 


あさひてらすの詩のてらすでは、

みなさんの作品のご投稿をお待ちしております。 

 

投稿についての詳細はちらから。

下記のフォームからもご投稿いただけます!

作品投稿フォーム

 

バックナンバー

ジャンル

お知らせ

ランキング

閉じる