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あさひてらすの詩のてらす

鐘冴える頃に届いた10篇の詩(24年2月)

寒い夜には音がよく響くように、詩の言葉が体へ直に響く時があります。北国では夜に凍裂の音が聞こえくる頃に届いた作品の中から、10篇をここに掲載します。「鐘冴える頃に届いた10篇の詩」、ぜひご一読を。


 

鐘冴える頃に届いた10篇の詩

・「朝」

・一方通行

・混色末路

・浸食~旅立ち

・雨女

・粉雪

・空が青い

・春への祈り

・僕は毎日生きている

・サラバ!

 

 

「朝」

マイラ

 

朝起きて窓を開けたら今日も清々しい朝

ちょっと寒いけど…空気の入れ替えをする

そして…窓の外は

見上げれば、どこまでも美しい青空

はるか遠くを見やれば、かすかに見える山々

目を落として下を見れば

 

絶え間なく流れる清らかな川

山々から時の旅人として流れ下って

また今日の新たな出逢いに感謝する

人生というかけがえのない景色に

もっと美しく、もっと豊かになれと

色んなことが思われてくる

自分の人生だもの

豊かな気分と、美しい心で行こうか


 

一方通行

網谷優司

 

僕が持っている愛なんて、歪で身勝手で、もはや醜いと言ってもいいくらいのもので、それは幼子を胸に抱く母に芽生えると想定されているものとは似ても似つかない。おなじシニフィアンで、「愛」という漢字で、それを記すことの収まりの悪さよ!

でも、それでも僕は、君をそれをそうしたものすべてを心底愛していたんだ。どうして、もともと歪なものをそんなに足蹴にする? よろめきながら愛した過去が崩落してなお、これから何を愛することができよう?

 

混色末路

筒路なみ

 

あなたの心のパレットは

隅々まで真っ黒でした

いえ、漆黒と言うよりも

もっとおどろおどろしい色です

 

どうしてあなたのパレットには

もうきれいな色が置けないのだろう

拭ってあげることはできないけれど

僕が、きれいな色を教えてあげることにします

 

情熱たぎる赤はどうですか、

静寂の青が似合いでしょうか、

穏やかな緑も不可欠では、

焦がれる桃色は、

朝焼けの黄色は、

煮えたぎる黒は、

 

こうじゃない、あなたはこうじゃない

僕は僕のパレットをかき混ぜます

筆の付け根が音を立てます

すっかり、汚くなりました

おどろおどろしい、パレットの出来上がりです

あなたと同じ、心です

 

あなたを、僕は見ます

正確には、あなたのパレットを

同じ色です

全部の色を混ぜて、僕は同じ色を作りました

だから、わかるのです

あなたへの言葉は、こうなのです

「とても、きれいなパレットですね。」

 

浸食〜旅立ち

草笛螢夢

 

川原の上を一個一個が転がっていく 石の欠片たち

雨が降る 風が吹くのを眺めていた

 

そして 川は水嵩を増し石を飲み込み

飲み込まれた石は一緒に海へと転がって

ますます丸みをおびて 小さくなっていく

そんなこと 分かり切っていること

 

でも 俺はこの道に落ちている

小石でさえも 持ち上げきれないほど疲れている

 

でも 俺はこの浜辺に落ちている

砂粒でさえも 噛み砕けないでいる

 

それほど疲れていたのか?と深い ひと呼吸をしてみて

今になって気付いた

何とか 自分らしさと自分探しを

取り戻そうと 旅出つ事を決めた

 

 

 

雨女

鏡文志

 

雨女は、健全な夢を、笑う。

雨女は、不健全に愛があることを知っている。

雨女は、晴れ男の建前を嫌い、正直な雨男を

晴れ男に仕立てようとする。

 

雨男は、雨女の要求通り、晴れを演じようとするが

正直さがどうしても抜けない。

 

建前がひっくり返れば、正直がいつか、建前に変わるさ。

 

こうして世界はグルグル回り、反転した末に

正直な若者の時代になりましたとさ。

 

粉雪

花 詩子

 

うつむき加減の心に

舞う粉雪の

冷たさがやさしくて

見上げれば青空が

白く揺れている

 

無垢な静寂の中

知らないふりの

心の気持ちが

呟いている

 

前を向く私

振り向く私

 

これも私

あれも私

 

全てを抱える

優しい強さを

持っていたいと

 

雪の白さに包まれて

私がそっと目を覚ます

 

空が青い

秋風ゆのみ

 

抜けるように青い空の下

朝陽が眩しくて

思わず目を瞑る

 

何が悲しくて 

こんな日に

灰色の小さな箱の中で

いがみ合わないといけないのか

 

そんな些末なことについて

そないに‥

 

春への祈り

野木まさみ

 

雪がドサリと音を立てて落ち

針葉樹の葉が顔を覗かせた

 

茶色いささくれた小鳥が一羽

体を振るって飛び立った

 

火が絶えなかった炉は 時折休む間ができた

 

溶け出した雪がチョロチョロと流れを作り

小川へと変わってゆく

 

雪割草があちこちで 菫やムスカリを呼んだ

 

浅い春の風に乗って

沢山の人の呟きが耳の奥にまで届く

「春が来たよ 待ちに待った雪解けよ」

 

慣れた棲家の時計は たった今も時を刻む

 

扉の奥に留まり続けるものがある

けして消えることの無いそれらも

針を進めているだろうか

 

見つめ 目をそらし 見つめ そらし

なお日々問い続ける

 

共に暮らすそれらが 在る暖かい晴れた日に

扉をそっと開け 黄緑の草の上に

素足を下ろすところを見てみたい

 

軽くなった体で駆けて行く後姿を見送りたい

帰宅した時には新しい部屋へ入って行くだろう

 

私は卓上に反射する光に目を据え

臆病な指先を

もう片方の手で固くギュッと握りしめた

 

僕は毎日生きている

たかはしまっく

 

ラブラドール犬とすれちがいました。くたびれたおしりをふりふりしながら、おばあちゃんと歩いていました。僕はラブラドールのおしりを、見えなくなるまで見ていました。

 

スーパーの店内で焼いたパンのコーナーで、パンをひとつずつ丁寧に見ているおばあちゃんがいました。僕も横に並んでひとつずつ見ていきました。迷っちゃいますよねって僕が言うと、ねーっておばあちゃんが言いました。

 

自転車に乗った女の子が車にひかれそうになっていました。僕は女の子にびっくりしたねーとか、ぶつかんなくってよかったねーとか言いました。女の子はありがとうございますって言いながら帰っていきました。僕はその子の背中に向かって、あれは車が悪いんだよって言いました。

 

中国から来たおじいちゃんと出会いました。僕の名前を教えたら、これはいい名前ですと言われました。お前、長生き。楽しく長生きしたいなあ。

 

僕は家に帰って餃子を作って食べました。白菜、ニラ、もやしを刻んで、生姜やらひき肉やらと混ぜて、皮で包んで茹でました。そうです、水餃子です。水餃子うめえ。明日はハンバーグが食べたいなあ。

 

サラバ!

網谷優司

 

君からの愛よ、サラバ! 美しい愛よ、サラバ!

 

正直、負担でしかなかった。重い想い。

 

ありがとうとは思う。でも、欲しいのは君からではない。

 

出会えてよかったのかはビミョウ。君が悪くない人なのは確か。だとすれば、悪いのはこちらか。

 

君の涙がじきにおさまることを祈ります。

 

サラバ! サラバだ!

 

 


|世話人たちの講評

・千石英世より

「朝」

最後の2行、惜しいですね。よくある言い回しになってしまいました。

それ以前のところは「素」の感じがでていていいですね。でもここも何か所か、よく聞く言い回しがでてきますので、それを避けて自分の言い回しを試みるのも大きな実りをもたらしそうです。

一方通行

厳しい自己認識を言葉にする試みです。「よろめきながら愛した」という部分、別の言い方でいえばどうなるのかな、と想像しながら読みました。恋愛や失恋を語る先行作は多くあります。詩に限らず、映画でも、小説でも、ドラマでも。それらとの連想で、ここに言われているよろめきながら愛した「愛」を漠然とですが、比較して上記のことを思いました。

混色末路

タイトルいいですね。最終連に「全部の色を混ぜて」とあるので、「とても、きれいなパレットですね。」は厳しい皮肉に取れますが、そうとるとして、どうなんでしょう、相当厳しい皮肉ですね。 それはさておき、詩の流れができていて、読ませます。

浸食~旅立ち

第1連目、すばらしいと思います。最終連も伝わってきます。一点、「砂粒でさえも 噛み砕けない」のところ、「砂粒」が気になります。「砂を噛むような」という言い回しはありますが、「噛み砕く」はどうでしょう。でも、そこを別にすれば、しっかり緊密にかかれていて好感しております。

雨女

前半の2つの連がいいですね。具体的なイメージがあります。リアルです。それに比して後半は、それを頭のなかで総括しているわけですが、前半のよいところを見逃している感じが残ります。もったいない。

粉雪

シンガーソングライターの書くふうな「ソング」になっていると思います。きれいなソング、歌ですね。粉雪のやさしさを捉えていて、伝わってきます。

空が青い

何があったのかは、聞かないのがいいのでしょうね?でも、そこを書いてしまうという手もありますが、、、。無論何らかの工夫はいるでしょうが、何かに仮託して書くという手もありますが。Aのことを言うのに、しゃーしゃーとしてBのことをいう。この人はBのことを言ってるふりをしてAのことを言っている、とだれにも気取られないで、となれば、世界が開けてくるのではないでしょうか。というわけで「タイトル」がまさしくそれをやっているなとおもいます。

春への祈り

最後の3行、すばらしいですね。最初の2つの連もいいですね。

「祈り」の内実は分かりませんが、つまり、「なお日々問い続ける」ものたち、これらに具体的な何かがが想定できるのかどうか、複数形になっているのですが、つまるところ「私」でしょうね。最後の3行でそうじゃないかとおもわせ、そうおもうと深みがでていて、いい意味で複雑な作だなあとおもい、好感を抱きます。

僕は毎日生きている

いいなあ! いい作品だなあ!

サラバ! 

ちょっと短いかなとおもいました。「サラバ!」は、たぶん、それを言う方から言っているのですね。言われるほうからではなくて。これが、逆にもなると長めの詩になり、この詩、もっとよんでいたい、となるのではないでしょうか。

 

・平石貴樹より

「朝」

 あえて苦役を隠して清らかでいたいと願う心でしょうか。

一方通行

 本当に「歪」だから「足蹴に」されたんでしょうか?

混色末路

 最後の決めの1行がものたりないでしょうか。

浸食~旅立ち

 イメージもテーマもやや類型的に映ります。

雨女

 「雨女」「正直」などの含蓄がちょっとわかりにくかったです。

粉雪

 なんとなくよくわかります。

空が青い

 もうちょっと続きがほしいです。

春への祈り

 「臆病な指先」がすばらしい。ご苦労なさったのでしょうね。

僕は毎日生きている

 なんかいいですねえ。老人にやさしくて。

サラバ!

 「さらば!」と繰り返す割り切りと内省的な内容が合ってないように見えました。

 

 ・渡辺信二より

「朝」

方向性とセンスが良い。要求を強めるなら、最終2行「自分の人生だもの/豊かな気分と、美しい心で行こうか」と作者が自ら語っているが、そうではなくて、読者の方で、作者がそう思っているんだろうなあ、と読み解けるような作品であれば、さらに良い。

一方通行

具体的な情景や事件やエピソードがちょっとでもあれば、さらに生きてくる作品です。

混色末路

読者を説得できるなら、詩は、たとえ矛盾していても良いものは良い。この作品は、今のところ、もう一つ、隔靴掻痒の感じ。「あなたを、僕は見ます/正確には、あなたのパレットを」(21-22行目)に隠されている、この作品の秘密、というか、「あなた」と「僕」の関係、一心異体の関係を、読者は、このままで理解するだろうか。

浸食~旅立ち

この「旅立ち」は、「詩の世界」への旅立ちでしょう。二度言及される「疲れ」の由来を見極めよ。

雨女

詩の内容や方向性に鑑みて、タイトルは、これで良いのだろうか。

粉雪

作品内の「私」が雪の冷たさを「やさしい」と感じるのは、本当の雪の恐さを知らないか、あるいは、よほどの不幸を生きているのだろう。

空が青い

「灰色の小さな箱」には、何が入っているのだろう。もしも蓋があれば、蓋を取って空に曝す。あるいは、箱ごと空に放り投げる。それとも、・・・?

春への祈り

作者の思い入れがこもった作品でしょう。細かいことで言えば、「けして消えることの無い」はシャレか? ふつうは「けっして消えることの無い」だろう。また、「在る暖かい晴れた日」は、ふつうは「ある暖かい晴れた日」だろう。このように、作品のちょっとした細部に、作者の思い入れが隠れてあるのでしょう。

僕は毎日生きている

この世界を見る目の高さが独特です。どしどし書き続けてください。

サラバ!

「美しい愛」を「負担」と感じるのなら、おっしゃる通り、「悪いのはこちら」でしょう。なぜに、「サラバ!」と別れを告げるのか、その訳が、詩として表現するに値するなら、さらに深まるだろう。

 


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