冬ざれの日々に届いた10篇(23年12月)
朝日出版社のある九段下は街路樹が多く、秋に黄色い葉をつける銀杏の木を見るのが楽しみなのですが、1年の終わりが近くなるこの頃になると葉はすっかり落ち、空が一層と青々としているように思います。寒さが本格化してきた頃、詩のてらすに届いた作品の中から10篇の詩を掲載します。一年の終わりに詩を読んでみる、あるいは詩を書いてみる。そんな過ごし方も悪くないかもしれません。お手すきの際にどうぞ!
冬ざれの日々に届いた10篇 ・期待しているからこそ ・花冠の頃 ・I Lov. U ・冬が来る前に ・にらめっこ ・鏡文志 ・冬に飛び乗る ・似合わぬ二人 ・開花の今際 ・石 |
期待しているからこそ 網谷優司
近頃君は丸くなった。かつてはいつもいつでも何かに腹を立てては、周囲を困らせたものだったのに。最近では、怒っている人を見るとなんだか不思議に思うゆとりすらあるご様子。
「きっとそれは良いことだよ」と君の内側から声がする。それが君自身のSOSであることに、君はまだ気づいていない。
近頃君は確かに丸くなった。自らのコントロールが及ばない他人や周囲の状況に拘泥することが減ったのだね。それでもなお君は自分が尊大だということに気づいていない。
君、こころは他者なのだよ。いじめてはいけない。自分の思い通りに制御できると考えるなど傲慢だ。
委縮は成長を阻害する。信じて待とう、君のこころが離陸準備を終えるまで。 |
花冠の頃 野木まさみ
ひなぎくの冠 被って踊る君
野原は午後で
午後から曇り
雲の間に間に 少し射す光
光の粒子 細く溶けて 白く濁る空気
空気の中を 泳ぐように踊る
いつしか羽の生えた足
いつまでも色褪せない景色
ときおり現れては 胸かき鳴らし 余韻を残して去ってゆく
皆が頭上にひとつずつ ひなぎくの冠のせていたあの頃を 連れて やって来る君
此処へ繋がる道は 追憶ではなく
鮮鮮とした光景の中 柔らかい花曇りの空の下 花冠は発光し続ける |
I Lov.U 鏡文志
う え と 下 横 横 縦 縦 左 右 ど う な っ て る の ?
上上上上上 ス キ 対 対 左 右 ス キ 対 対 左 右 ス キ 対 対 左 右 ス キ 対 対 下下下下下 ヨ 恋 愛 愛 卵 |
冬が来る前に マイラ
深まりゆく晩秋の朝秋を感じる季節から… 一気に寒さがやって来たようだ 冬が来る前に雪が降る前に何をしよう 外は深まりゆく晩秋の朝 枯れ葉がはらはらと舞い落ちてくる 透き通った空気の晩秋は清々しく美しい 冬が来る前に何をしよう 窓を打つ風や雨音で秋の終わりを感じる 頬を撫でる空気の冷たい日々がやって来た 街を歩いていると様ざまな木々の葉が 宙を舞い黄色や赤茶色に織りこまれて 枯葉の絨毯になっている 枯葉の絨毯はふかふかで カサカサ、カサカサと 楽しいメロディーを奏でながら 街を公園を美しく飾っていく そんな銀杏並木を歩くと金色の絨毯の下で 枯葉がカサカサと音を立ている すでに初冬のきざしか そろそろ冬支度かと思いはじめる 秋から冬への狭間の季節がすぐそこにいる 冬になる前に何をしよう |
にらめっこ シノハラマサユキ
のっぺらぼうと のっぺらぼうが にらめっこしている
いつまでも決着がつかないから おばけたちはどうしたものかと 議論しているが 解決の見通しはない
そこへ鬼が登場し 「意味のなあいこと およしなさあい」 と阿波踊りをしながら歌う
おばけたちはみんなで 歌い、踊る にらめっこを囲んで 化石になるまで |
鏡文志 鏡文志
雨が降っていない時に 雨が降っていないことについて、想う。 死んだ時に、死ぬ瞬間と、死んだ後、死ぬ前 死にながら生きている人と、 生きながら死に向かおうとしている人について、想う。 死にながら生きている人と 生きながら死に向かおうとしている人について、想う。 匂いを嗅いでいる時 匂いを嗅いでいた自分について、想う。 言葉の扉をこじ開ける時 世界の認識が変わることについて、想う。 貴方は、想うことについて 想うことはありませんか? 想うことや、思い込んでいること。 みんな本当に一所懸命。 私は一度もその一所懸命が出来なかったんです。 |
冬に飛び乗る 長谷川 哲士
雪、雪、雪、 列車は最終だったのだったのだった 焦る急ぐ走るのスパーク現象
雑居ビルの階段踊り場で カンナで材木削る様な スムーズナンパ展開する輩横目にサイレン 精神の木目がシルベスタ・スタローンの顔 飛び乗る前の向こう側の爆笑
時間は針の穴を通ります 進めて下さいそして 下がって下さあああい叫びたい どうか呼応して下さい シティでの木霊
救急車、注射、 一旦消滅してはどう 夜はそう言う 帰ります帰ります帰りますから
千の鳥のムーブで疾駆したもので 意外にスムーズに列車に 乗り込む事出来て吃驚 それと同時に睡眠と失神と幻覚の ループそれは虚ろの現実& 幸福への階段 しいーんとしていた 、 |
似合わぬ二人 網谷優司
僕の眼前から君の痕跡をすべて消したとて、君はこの世のどこかできっと「僕なしの幸せ」を享受していて、僕はその事実から目を背けることができない。
私があなたを地の果てに追いやって、もう二度と私に近寄れないように措置を講じたことは賢明な判断だったと言うほかない。
結局君は、嘘偽りの別れ言葉すら聞き入れてくれなかった。
あなたのために私の幸せを差し出さなければいけない謂われなんてない。
僕らは本当に不幸だね。
どうか幸せに。 |
開花の今際 筒路なみ
うっかり踏みかけた道路の隙間 初々しい老いぼれの花が 風を一心に受けとめようと立っていました
ねえ、あなたは誰からこぼれてきたの? あなたの故郷は、今も開いていますか? あなたが捉えた最初の世界に 誰かの努力が、輝きが 宿っていることを願うばかりです
誰かが、あなたに柔らかい土をかけたよ 誰かが、あなたのいるところを踏まなかった 誰かが、あなたのために影を作ったよ 誰かが、ほら、あなたに笑いかけている
涙なんて浮かべないで 笑顔をあふれさせてちょうだいよ あなたからこぼれた一欠片が 明日の瞳を開くのでしょう
次の誰かが世界を捉える、その間際まで ここはあなたの色で満ちるのですから |
石 鏡文志
石について、考える。 外について考える時、内に籠る。 内について考えるとき、外に逃げる。 中について考える時、そこは空だ。 人について考える時、人になってしまう人もいれば 歌について考えた言葉が、歌になってしまう人もいる。 黄泉について考えた結果、お化けを信じてしまう人もいる。 愛について考え過ぎた結果、待ち続けてしまう人も、いる。 価値について考えた結果、押しつけてしまう人もいる。 石について考えた結果、肉もなく、皮もなく、骨だけの自分。 火が好きな人は、火を人に投げつけないというが 石が好きな人も、石を人に投げつけないのではないだろうか? すべての意思するものの内に、石がある。 その熱は、溶岩のようであった。 |
|世話人からの講評
・千石英世より
期待しているからこそ
自己との対話、成熟へのおだやかな道を歩んでいる詩、いや、今まさに歩もうとしている詩。成熟はまた成長でもある。ゆるやかでおだやかな成長。詩には格言、金言の側面があるとして、これはその好例ですね。
花冠の頃
ここにいう「頃」はむろん季節のことですが、人生の移ろいの「頃」のことでもあるな、とおもって読みました。「ひなぎくの冠のせていたあの頃」の行がその思いをさそいます。青春ではなく幼年時代の風のかがやきのように感じました。それは「発光しつづける」。わたしなど老年に達した読者にはまぶしい光景です。爽やかな作品です。
I Lov. U
かわいい! どうなってるの?
冬が来る前に
おもっていることが素直にことばに出て来ていて好い感じの作品ですね。すこし言葉を刈り込んで、すっきりさせるのも手でしょうか。たとえば二度出てくる言葉を一度だけにするとか、紅葉する街路樹の「黄色、赤茶色、金色」の位置と配置を整理するとか。季節の移ろいへの感慨と悦びですね。
にらめっこ
キャラが2組に鬼が1人、この3種の立位置をもう少し混ぜ返してあげるのはどうでしょう。もう少し長く書いてあげればどうでしょう。詩の発想が面白いのでついついそんなことをおもいます。
鏡文志
「想う」をかさねて深みへ入ってゆく発想が興味深いものでした。面白いです。最後の1行も苦みばしっていて、突きつけて来るものがあり、意義深いものと感じます。「その一所懸命」が今できつつあるのだと読めます。今出来たのだ、とも。
冬に飛び乗る
最終行、いいですね。冬です。「、」。終わりから2番目の連、出色の4行! なかでも「一旦消滅してはどう/夜はそういう」はジンときます。詩ぜんたい疾走するダンスなのに、静かな夜を実現している。
似合わぬ二人
別れた二人の対話です。「嘘偽りの別れ言葉すら聞き入れてくれなかった」。ここ論理が込み入っていて、論理がズレていて、僕らの「不幸」の深さが身に沁みます。涙。。。
開花の今際
第1連、すばらしいですね。第2連もいい。外来種の植物の物語とも受けとれますが、何か別の物語かもしれない。申し訳ないような連想ですが、ホームレスの老人を連想したりもしました。つまり、何かにやさしい声を掛けている詩であること、そのやさしさが伝わってきます。「初々しい老いぼれの花」この一語が強烈です。
石
きびしい内省で貫かれた良い詩だと思います。共感する箇所いくつもあります。とくに、とくに、「石について考えた結果、肉もなく、皮もなく骨だけの、自分」、ここが素晴らしい。くっきりとしたイメージが刺さってきました。
・平石貴樹より
期待しているからこそ
友人への忠告、あるいは自省でしょうか。
花冠の頃
やさしい幻想と、それをいざなう風景ですね。
I Lov. U
「O」にあたる部分がムダに見えますが・・・。
冬が来る前に
イメジや言葉の反復が落ち葉の絨毯のようでした。
にらめっこ
ふしぎな民話調の雰囲気です。
鏡文志
「匂い」から「自分」への反転が鋭く刺さりますね。
冬に飛び乗る
ラップ調の元気のいい詩です。エンディングがやや唐突か。
似合わぬ二人
「君」と「あなた」の使いわけ、意図があるのでしょうが・・・。
開花の今際
やさしい心が伝わります。
石
よくわからないけど、深い詩である気がします。
・渡辺信二より
期待しているからこそ
自己内の対話なのだろうか。「なお君は尊大」という記述ではなく、どう、尊大なのかが具体的にあれば、わかりやすい。
花冠の頃
綺麗なイメージです。「君」の非人間性が良い。
感覚の問題かもしれないが、最終行の「鮮鮮とした」と「花曇り」は印象が違うか。
I Lov. U
英語を漢字で表記してますが、こういう遊び心は面白い。日本だと、北園克衛かな。英詩では、”visual poetry”とか、”concrete poems”と呼ばれていて、17世紀くらいからある。
この作品、もしも、タイトルと本文が対応するなら、「っ」(5行目)は不要かな? また、「.」が「恋」に対応するとすれば、「卵」は?
冬が来る前に
季節の変わり目です。
枯葉の絨毯が立てる音はとても良い。誰かが踏むからなのだろうか。風が吹くからなのだろうか。
タイトルを数えると、「冬が来る前に」を3回繰り返していますが、最後は、「冬になる前に」と言い換えている。その言い換えの効果は、どうなんだろうか。
にらめっこ
鬼の登場が阿波踊りで、場面を変えるわけだ。
のっぺらぼうは、おばけですかね。
鏡文志
「匂い」(8行目)が面白い。
冬に飛び乗る
言葉が疾駆しています。このままでも、焦ったり急いだり走ったりしたことに関して、その理由は、十分に推測させるが、でも、その先に存在するはずの誰かの姿は見せない。
似合わぬ二人
タイトルにある「似合わぬ」とは、どんなことだったのか、その実際のありようは、この作品が他のいくつかの作品の中に置かれて初めて、合点がゆくのでしょう。
開花の今際
優しさがあふています。
3行目、一身ではなくて、「一心」なのだ。花の心とは、どんななのでしょうか。
石
石と意志の語呂合わせですね。「人」ではなくて、あくまでも、じぶんの石と向き合うのがよい。
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