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あさひてらすの詩のてらす

旱空に浮かぶ13篇(25年8月)

8月の末ですが、それでも夏の終わりは見えては来ていないようです。暑さを耐え忍ぶ日々に届いた作品の中から、今回は13篇を掲載いたします。涼しい部屋でのひと時に、ぜひご一読ください。


 

 旱空に浮かぶ13篇

・水面

・回想

・自分の尊厳ぐらい

・井戸の底

・Innocence in blue

・アイス

・高1の夏休み

・愚者のスピード

・対話

・人がいる

・芯 

・秘めた思いを託して

・いってきます

 

水面

ヒンヤ

 

今 半身浴をしている

 

何する訳でもなく

薄暗い水面を眺めてる

 

何処かに考えが彷徨い

水に浸ってみたくなった

 

生み出す側の人間は

 

心のメモを握りしめ

悩みあぐね

震えながら考え込む

 

先人は

 

重力に

抗う事なかれ

抗う事なかれと

 

いつも危惧している

 

彼も昔

 

水面に揺れる灯りを見つめながら

悩み苦しんでいた

 

回想

yasui

 

ある日あるとき、なぜか文字を並べて、遊ぶことにした。

きらいでない作業であった。いやでない。

最初には、耳を澄ませるようにした。

例えば、お湯の沸く音。扇風機の音。

これは何の音だろうと考えていると、時間が過ぎていた。

ポコポコとかコォーとかと、聴こえてくる。

稀に、キランッと心に沸いてくる。大概とあんまりだ。

やさしい音を拾うよう心掛けている。

そうして、そっと文字を並べている。

 

自分の尊厳ぐらい

鏡ミラー文志      

 

自らの足りなきを認めても

直すつもりのない自分を

謙虚などと言うな

直す努力をしている人を内心、見下しながら

それを外の欲で満たすことで補えば

それでいいと思っている俗人

埋まらなきを埋めるために

他人を利用する自らの愚かさを

賢きなどと言うな

自分で自足する努力もせず

喜ばしきを提供する気前の良さも持たず

ケチな百姓根性に堕した凡人

自らの愚かさを認め

過ちを認めても

まだ居座る席があるなどと思うな

使い古されたロジックで居直りながら

そこに胡座を掻き

いつまでも、その振る舞いが許されると思っている盲人

気高きを見下し、鼻をへし折ることで

プライドを誇示しようとするな

快楽と快適に自らの精神を浸し

脳まで侵されることを選んだのは、自分なのに

自分の尊厳ぐらい、自分で守れ 馬鹿者よ 

 

井戸の底

miwa

 

井戸の中に落とされた

 

溺れてもがいてあがいて、

上がったり下がったり

ああ、抜け出せるかもと思ったら、

また沈んでゆく

 

苦しみ続けてるうち、

いつしか井戸は乾いて

底に足がついている

 

ああ、まだ立てる力が残ってた

何もないから、見えてくる

必要なもの、信じていけるもの、本当の自分

 

大切なもので井戸の水がまたいっぱいになって、抜け出せるまで

もう少し、もがいてみよう

今は深くて見えなくても、井戸の上で待ってる人は必ずいるから

 

Innocence in blue

SilentLights

 

かたく閉じられたまぶたが 静かに開くとき

 

草原のうえ 空高く 水色の少女がただよう

 

ゆらめき うつろい

広い青空のなかを 少女は舞いおどる

 

さわさわさわ・・・

 

草原のうえを

やわらかな風が 吹きわたってゆく

 

風にのって舞いあがる 子どもたちの歓声

 

なつかしい 夏草のかおり・・・

 

鳥たちのさえずりに合わせて

少女のステップは 軽やかに弾む

 

夜明けのリズムが

子どもたちの歌声を 遠くへ運ぶ

 

もっと高く もっと高く

 

少女は その手を大きく広げ

 

夏の青空と ひとつになった・・・

 

アイス

とし

 

口の中でフワッと溶ける

冷たいバニラの感触

 

転んだってへいちゃら

ツルリと滑るスリルと興奮

 

夕暮れ時のカフェで

お気に入りの本とクッキーをお供に

 

身の周りのアイスは

甘く

エキサイティングな

安らぎを

 

日常に溶かし込む

 

 

 

高1の夏休み

倉橋謙介

 

コンビニで

久しぶりに見かけたあの子は

髪をピンクに染めていた

あんなところで

何を探しているんだろう

自慢じゃないけど俺なんて

ゲームのやりすぎで

「友達のお父さん」に

怒られてきたところだぜ

ああ、こんな日に

君に気づかれてしまったら

夏がブチっとおわってしまうよ

逃げるように自転車に飛び乗って

夕暮れの街がぐらつくまで

ペダルがなくなるくらいまで

スピードを上げる

 

あれ、誰かに見られてる?

 

夜のはじめに吹く風が

なんでもないみたいに

僕たちの周りを駆け抜けていった

 

愚者のスピード

七海独

 

時間が激しく動き出すのを待っていたら、

十年も経っていた。

ほとんど動いていないと思っていたそれは、

わたしの知らないところで、

猛スピードで走っていた。

必死に走っていた。

わたしのスピードはせいぜい、

時速一ミリメートルくらいで、

だから時間も同じようなものなのだと、

そう錯覚していた。

それだけはわたしのそばで、

ずっと一緒にいるのだと、

ずっと並走しているのだと、

安心していた。

十年経ったわたしは、

まだ時速一ミリメートルのまま。

ずっとずっときっとこのまま。

 

対話

南野 すみれ

 

君が困った顔をしないので

ぼくは調子にのって

滔々と喋ってしまった

きっと君は

戸惑っていたんだね

 

何を話していたのだろう

 

雨あがりの

草いきれのする公園で

小一時間も

君は凸凹の言葉で

ぼくは―・・・―・の言葉で

 

言葉を失ったぼくたちの耳に

小鳥のさえずりが聞こえてきた

あの木の上の二羽は

ずいぶん楽しそうだ

あれっ

一羽が飛び去った

点になっていく

 

空にとけた

 

今日の空はエジプシャンブルー

君の手の中の林檎が

同じ色だと

今になって気がついている

 

人がいる

 

プルタブを人差し指に引っ掛けて

踊るように駅のホームを歩く 

あっちに人間 こっちに人間

そこらじゅう、

感じることの意味が麻痺してら

 

さようなら、の意味がなくなったんだ

毎日出逢って消えて

潤うことは一瞬のひとまたぎだと

 

冴えない女がページを捲る

俺の心に風が通る

 

あ、なんだ奇麗な女!

 

笑ってくれよ

笑ってくれよ

 

一瞬が永遠なんだから

はじめまして、の意味こそ重要だ

そこから永遠がはじまるのだから

 

そこらじゅうに、人間

過去いつか 俺の一部だった人たちへ

 

あさのでんしゃ

 

真っ赤 真っ赤な

りんごには

かたい芯がありました

 

あおむし達に実を齧られても

芯はずっとそのままでした

 

りんごはそのまま

りんごのまんま

 

どんなに形が変わろうと

りんごのまんま

そのまんま

 

可愛い 可愛いりんごにも

ちゃんと意志はあるのです

 

それは たとえば「強さ」とか。

「負けないぞ」って思う気持ちが

誰にだってあるように

 

りんごにだって

ありますとも

立派な芯が

ありますとも

 

秘めた思いを託して

草笛螢夢

 

秘めた思いを託して

誰にも見つけられにくく

貴方しか読む方法が判らない方法で

あぶり出しの手紙を書いています

火を近づけすぎない様に

ひとりで気を付けて読んでください

 

ほかにも

遠くから 手旗信号か

封筒の中にQRコードにでもして

送りましょうか

お花屋からに

伝えたい思いを込めた花に託しましょうか

 

沢山の秘めた想いの

送り方はあると思うけど

やっぱり

ひらがな表から最初の2文字だけを

切り除いて あなたへと贈ります

 

いってきます

小村咲

 

覚えたての文字を

月光に当てたまま

昨夜を超えて

朝早く照り輝く

床板の白き筋の先に

枝垂れ咲く橙の花の

名をまだ知らぬことに

優雅を感じて

 

陶磁器のような

その花の曲線を

際立たせている斜光の

揺れそうで揺れない

風の不在の知らせや

小鳥たちの戯れる影が

生み出す流動的な陰影

その余韻を

言葉にしない

ふんわりとした気持ちで

イヤリングを

ぱちんと弾いた

 

 

 

世話人たちの講評

千石英世より

水面

こころの描写が落ち着いていて、かつ実直な感じになっていてとてもここちよく受け取りました。とくに、出だし3行と終わり3行の呼応が目立つようで目立たず、自然で、そうだよなあと感じいりました。

回想

周囲の静けさをメモしているのに心の静けさが伝わってきます。

「これは何の音だろうと考えていると、時間が過ぎていた。」

いいなあと思います。

自分の尊厳ぐらい

最期の「馬鹿者よ」が強いコトバなので、それ以前の「俗人」「凡人」「盲人」のところを弱いコトバにしたほうが、たとえば単に「人」とだけにしたら、コントラストが出て、調子にくっきり感がでるように思います。全部強い言葉でいうと、どの語が強いのかまぎれてしまうのではないか。コトバの勢いに強弱のリズムというか流れをつけると面白い詩になるゾと思いました。

井戸の底

最期の自己説得がいいですね。水の水位の変化の様子がもう少し知りたいですね。

Innocence in blue

アニメのきれいな一場面を思い浮かべます。青空と青空に舞うもののたちの動きが捉えられているからですね。「少女」と「子どもたち」は仲間? 今は夜明け? これ、決めなくてもいいのでしょうが、なにか手がかりがあればと思いました。

アイス

甘いデザートは幸福感を呼びますね。それがよく伝わってきます。ただ、この幸福感、夕暮れのひかりのなかよりちょっと前、遅めの午後のひかりのなかに置くと、広がりがでてくるような...

高1の夏休み

いいですね。ただ一点、最後の「僕たち」は「俺」でも成り立つのでは? と思いました。そうなると切迫感、納得感がでてきます。と、おもうのですが...

愚者のスピード

「時速一ミリメートル」が面白かったです。一時間で1ミリなら24時間(1日)で一日24ミリ。一日24ミリなら、1年365日で24×365で・・・これが植物なら立派な成長ではないかと思います。そして人間は一面では立派に植物なのだと思いますが・・・いずれ大木になってゆく植物ですね。それを知らず「猛スピードで走っていた」のは時間知らずの「猛獣」ではないのかと。しずかに成長する植物の前では「愚者」たちではないのかと。

対話

せつない場面です。胸をしめつけられます。パステルカラーのうつくしい場面。

人がいる

前のめりで斜(シャ)になって、シャウトしていて、また、シャウトして、そして、しずかにゆるやかに口をつぐんでゆく。そんなライブ感のある詩だとおもいました。好きですね。こういうの。終わり2行とくに。もっと歌ってください!

りんごを励ますとは、おもしろい発想です。その励ましは谺となって、語り手を励ますのだと思います。

秘めた思いを託して

なるほど。そういう手もあったのか! と軽くおどろきました。このおどろきゆえに、「秘めた思い」は通じる。

いってきます

冒頭の2行と「その余韻を/言葉にしない」の箇所好きですね。その直後「イヤリング」が登場するのですが、それは直前の「余韻」との関連から? 余韻というのは耳に関係するから? かな、と思いましたが、どうでしょう。とこんな感想がでるのは、終わり3行がやや唐突かなと。全体、視覚の詩行がつづくので、それでまとめるという手もあったかと。

 

平石貴樹より 

水面

 水のイメージ、有効と思います。

回想

 音の文字化の癒し効果なのですね。

自分の尊厳ぐらい

 いろいろと厳しいですね。

井戸の底

 気持ちはよくわかります。

Innocence in blue

 「夜明け」と「青空」がぴたっとこないような・・・。

アイス

 「身の周りのアイス」がよくわかりませんでした。

高1の夏休み

 青春の断片が活写されていますね。 

愚者のスピード

 実感としてわかります。

対話

 青春の一コマ、見事です。

人がいる

 最終連がよくわかりませんでした。

 共感できますね。 

秘めた思いを託して

 いいですね。歌になりそう。

いってきます

 たしかに、名前って知らないほうが優雅だということはありますね。

 

渡辺信二より

場面設定や発想が面白い。

もしも、起が「半身浴」、承が「考え込む」、転が「悩み苦しむ先人」と考えるなら、結が欲しい。

自分の尊厳ぐらい

「自分の感受性くらい」に倣っていますが、倣いは大事です。

文学の歴史は、先行する作品に倣うことで繋がってゆきます。

回想

「文字を並べること」と「音を拾うこと」との密接な関係が知りたい。

井戸の底

「必要なもの」(11行目)、「大切なもの」(12行目)が何かを明示する必要はないのですが、暗示は欲しい。

「また」(12行目)が気になる。以前に一度、いっぱいになったことがあるのか? 

14行を意識していないようだ。

Innocence in blue

タイトルを英語表記する必然性が不明です。

14行詩であることを、あまり意識していないようだ。

「夜明け」(10行目)は、全体の時間感覚と齟齬しないか?

アイス

「転んだって」(3行目)とあるが、前後を読むと、生かしきれているか?

高1の夏休み

確かに、人目が気になる時期があります。この多感さを大事に、言葉にしていきましょう。 

愚者のスピード

「時速1ミリメートル」という表現が面白い。

「錯覚」(10行目)と分かった時点で、変化がないのか。 

対話

タイトルが、作品の内容と一致するか?

第1連「滔々と喋る」ぼくと「戸惑う」君がいて、対話がない。

第3連で、「―・・・―・の言葉」と「凸凹の言葉」で対話になるか。

結局、対話がなくて、「言葉を失って」、不安になる読者がいるのではないか。

人がいる

「一瞬のひとまたぎ」、「一瞬が永遠」など、興味深い。

最終行「過去いつか 俺の一部だった人たち」と表現したい作者の気持ちはよく理解できるが、

それが、先行する17行を受け止めているだろうか。

「真っ赤 真っ赤なりんご」、「実を齧られた」りんご、「形がかわ」ったりんご、「可愛い 可愛いりんご」と

さまざまなりんごに言及されますが、その言及の順序、また、「リンゴのまんま」と表現する順序、

は、このままでいいだろうか。 

秘めた思いを託して

この作品の焦点があっていないような気がする。

「秘めた想いの/送り方」に関心があるのか、それとも、「秘めた思い」が大事なのか?

なお、「ひらがな表から最初の2文字だけを/切り除いて あなたへと贈ります」とあるが、

これが、「貴方しか読む方法が判らない方法」なのだろうか? 

また、この方法だと、「あい」は贈らないことになりますが、その理解で良いのでしょうか。 

いってきます

詩作品として、表現力、構成力を感じさせますが、その一方、タイトルと違って、

どこにも出かけていない印象です。

「覚えたての文字」「名をまだ知らぬこと」「言葉にしない」という表現は、

作者にとって、イノセンスの装いに寄与して、詩的に響くのだろうが、

でも、読者の多くは、それが装いだとすぐにわかるでしょう。

 


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