朝日出版社ウェブマガジン

MENU

教えて、先生!英語学習お悩み相談室

Q.133「どうして英語の歌詞を聴き取るのは難しいのか?」

英語は比較的得意で、高校大学と成績も良かったのですが、洋楽の歌詞を聴き取るのに苦労しています。聴いても音がわからないので、歌詞を見てやっとどんな単語を発音しているのかわかることが多いです。リズムやメロディーがついていると、本来の発音から多少違うものになってしまうというは、実際あると思うのですが、実はネイティブでも苦労していたりするのでしょうか。聞き取りの難しさの理由について、もしご存知でしたら教えていただきたいです。

それと、どのような練習をしたら、ネイティブぽい発音になるのでしょうか。人前で英語を話すことがたまにあるのですが、ネイティブの友人や海外に長く住んでいた同級生と比べると、どうしても自信がなくなってしまいます。発音を上達させる何かいい方法はないものでしょうか?


 

音の仕組みと文化的要素を含む表現の学習でリスニング力を磨きましょう!

英語の歌詞はうまく聞き取れませんよね。しかし、歌詞の聞き取りはどの言語でも難しいようです。日本人が日本語の歌詞を聞き間違えることがあるように、英語のネイティブスピーカーが英語の歌詞を上手く聞き取れないことはあるようです。英語にしても、日本語にしても、ネイティブが歌詞を聞き取れない大きな理由は伴奏の音に発音がかき消されてしまっていることが考えられます。これは言語能力に関係ないので、ここではそれ以外の理由として考えられることを紹介させてください。

 

一音一音がはっきり発音されていない

まず、一つ一つの音を丁寧に明瞭に発音していない点が考えられます。音楽に合わせることが重要なので、一つ一つの発音を明瞭に発音できない場合があります。たとえばラップ音楽はかなり早口で、相当数の単語を詰め込むように歌っているため、聞き取りにくいはずです。実際に計測したわけではないので、正確にどれくらいのスピードで歌われているのかは分かりませんが、部分的には通常の会話速度の1.2~1.5倍くらいのスピードで歌っている箇所もありそうです。これは歌詞を知っていてもなかなか聞き取れないかもしれません。それは発音が早口になるため、音の脱落が頻繁に起こるからです。歌詞の表記でさえ、すでに脱落があります。よく登場する例としては、c’mon (come on)や‘bout (about)が挙げられます。これらは実際に発音されている音に合わせて表記が変えられています。しかし、実際には、表記上は通常の英語表記なのに、発音上では脱落してしまうものもあります。たとえば、I hopeなどは、ときどき /aɪ oʊp/と発音されることがあり、/h/の音が脱落してしまうことがあります。このような発音上の音の脱落は、スピードが早ければ早いほど頻繁に起こりますから、早口で歌われている曲は必然的に聞き取りが難しくなります。

 

使われる表現のむずかしさ

もう一つ、歌詞の聞き取りが難しくなる大きな原因として挙げられるのは、歌詞に使われる表現にあると考えられます。歌詞は詩なので、作詞家が、様々な言語表現を使って、人が感じている心の動きや感情の描写をしていることがよくあります。また、情景を聞き手がイメージしやすくするための表現も様々で、直接的に目に見えるものを描写するだけでなく、聞き手の心に刺さる何かにたとえて比喩的に描写することも多く、文化的な要素を含む表現やスラングが使用されることもよくあります。知らない表現の聞き取りは難しく、知っている単語の組み合わせでも聞き取れないことは少なくありません。

たとえば、日常でも使われる比喩表現のひとつなのですが、Alicia KeysのIf I ain’t got youという曲に中に、“Hand me the world on a sliver platter”という歌詞があります。私はこの曲をはじめて聞いたとき、このhand ~ on a silver platterという表現を知らなかったので、on a silver platterの部分が聞き取れませんでした。曲に合わせてona sil ver pla tterと聞こえてきたときに、まさか銀のお盆が登場するとは想像もしなかったので、この部分がon a silver platterと認識できなかったのだと思います。後に歌詞を確認して、この表現が「なんの苦労もなしに~与える」という意味だと学び、確かにこの曲の歌詞全体の内容に合っている表現だと納得した記憶があります。

このように歌の歌詞は、音楽に乗って歌っているので、演奏の音によってかき消される音もあり、早く歌うことによる脱落によって聞き取りが難しくなることは避けられないため、ネイティブも完璧に聞き取るのは難しいと思います。文化的要素を含む表現であっても、地元の人しか知らないような地名や馴染みのない通りの名前などはネイティブでも聞き取れないことがあると思います。しかし、知っている単語の組み合わせで意味を知らない表現というのは、語彙学習として継続して触れていけば、少しずつ聞き取れるようになる表現が増えていきます。歌詞を聞き取りたいというのであれば、歌詞とその歌に込められたメッセージなどを併せて学ぶと、表現の勉強にもなります。ただし、歌詞にはスラングが非常によく使われるので、それを会話で生かす場面はあまりないかもしれません。

 

文化的要素を含む語彙の強化方法!

あとは、日常的によく使われる文化的要素を含む表現を聞き取る練習としておススメなのが、ドラマやYouTubeなどです。字幕で表現が確認できると、聞き取れない箇所の学習に役立つので、最初は字幕なしで聞き取りをして、聞き取れなかった部分を字幕で確認するという学習方法がいいと思います。実際に私もアメリカのコメディドラマのFriendsを何度も見ました。Friendsは一話一話が短く、登場人物が大体同じなので、固有名詞で混乱することがあまりなかったのもよかったですし、映画のような非日常な世界を描いていないので、リスニングの学習にとても役立ちました。字幕のOnとOffが可能であれば、どのような教材でも構いませんが、継続して続けるには、興味があるもので楽しめるものがベストです。何か好きなドラマなどを使用して継続して表現の学習をすると、文化的要素を含む語彙が増え、後に聞き取りができるようになります。

このように、発音上起こり得る脱落などの現象を理解して、文化的要素を含む表現を学習していけば、聞こえてくる歌詞も必然的に増えてきます。聞こえないことは学習のチャンスなので、少しずつ学習を進めましょう。

 

 

きれいな発音のために...

次にどうしたらネイティブのような発音を身につけられるかですが、そう考える学習者は少なくありません。しかし、とても重要なのは、ネイティブのように話す必要は全くないので、通じる英語であれば、堂々と自信を持って話すべきだということです。

昨今ではEnglish as a Lingua Franca(共通言語としての英語)という概念が主流になっていて、ネイティブのように発音をすることが重要だと考えない指導者や学習者が増えてきています。私もその立場の人間の一人です。周りの人がどのような英語を話していようが、通じる英語であれば十分なので、自信を持ってください。

そうはいってもきれいな発音を目指したい気持ちは痛いほどよくわかります。発音をよくするためには、色々な要素を磨かなければなりません。まず、子音と母音の発音の仕方を学ぶことは避けられません。

たとえば、日本人が苦手とする子音として/l/と/r/がありますが、これを聞き取りのみに頼って、ネイティブの発音を真似て練習するだけで身につけるのは、時間がかかります。大人になってからであれば、さらに時間がかかります。この音を聞き分けることは、もちろんとても重要なので、続けていくべきですが、発音の仕方を明示的に学習することも重要です。

通常/l/というのは、上の前歯の裏当たりに舌先を押し付けて発音します。一方、/r/の発音では、舌先はどこにも触れずに発音します。人によっては舌全体を持ち上げて発音したり、舌先を丸めるように持ち上げて発音したりします。いずれにしても舌先はどこにも触れていません。よく比較される日本語のラ行がありますが、これは上の前歯の裏当たりで、舌先を弾いて出す音なので、英語の/l/とも/r/とも違う音です。このように、大人にとっては、このような説明が学習に役立ちます。どこかで発音指導の専門家をみつけるのもいいですが、YouTubeで発音の仕方を教えてくれている人もいますので、それらを見て、それぞれの音をどのように発音するのかをしっかり学習するといいでしょう。舌の位置、舌の形、唇の形、呼気の使い方など、ちょっとしたことで発音が変わるので、それを意識しながら学習してみてください。

 

英語の音節とリズムは常に意識!

発音をよくするためには、子音と母音だけでは不十分です。ご存じかも知れませんが、英語のリズムは日本語のリズムとかなり違います。英語らしいリズムに乗って話すと、よりネイティブっぽい発音になりますし、通じやすい発音になります。このリズムを理解するには、まず音節について知る必要があります。音節の学習は単語レベルから始めるといいでしょう。まず、それぞれの単語が何音節から成り立っているのか学習しましょう。たとえば、bread, shop, streetなどはいずれも1音節からなる単語なので、一拍で発音します。それとは違い、coffee, market, restroomなどは2音節なので、2拍で発音します。もちろん3音節以上から成る単語もあり、universityは5音節もあります。この音節を理解し、2音節以上からなる単語の強弱を正確につかみましょう。

先ほど挙げたcoffee, market, restroomはいずれも強弱(●・)のパターンで発音されますが、同じ2音節の単語でもaboutやreturnなどのように弱強(・●)のパターンで発音される単語もあります。この強弱については、声の強弱だけでなく、音の高低と長短も含めて表現する必要があるので、たとえば、coffeeなら、cofを強く、高く、長く発音し、feeを弱く、低く、短く発音する練習をしましょう。この強弱、高低、長短を大げさに発音するのが、ネイティブらしい発音に近づくためのポイントです。

英語と比較すると、日本語の強弱、高低、長短の差は小さいので、英語らしいリズムがうまく表現できない学習者が少なくありません。ネイティブの話す英語の強弱の差は、バスケットボールと卓球のボールほどの違いがあるのに比べ、日本人の話す英語は、野球のボールとソフトボールのボール程度しか差がないので、日本人の話す英語はタタタタタタと一定のリズムで話しているように聞こえてきます。したがって、強弱、高低、長短の差は大げさに表現することをおススメします。

 

単語レベルだけでなく、これらは文レベルでも表現することが必要です。たとえば、Dan called me this morning. という文を例として文レベルの強弱を考えてみましょう。「MikeではなくてDanが電話してきた」という意味を伝えるためにこの文を発音する場合には、Danを強く、高く、長く発音してDAN called me this morning.と発音しますが、「あなたではなくて(意外にも)私に電話してきた」という意味を伝えたい場合には、dan called ME this morning.というようにmeを強く、高く、長く発音します。このように、表記上同一の文でも、伝えたい意味によって強弱、高低、長短が変わります。これをうまく表現できると、ネイティブの発音に近づくことができます。この文レベルの強弱、高低、長短は、コミュニケーション上とても重要で、ネイティブは強調されている部分を聞き取って意味を理解することが多いので、改めて自分の伝えたい意味を踏まえて、強く、高く、長く、発音する単語(音節)を押さえて正しいリズムで発音するのが重要です。

 

このように、子音、母音、音節、単語レベルのリズム、文レベルのリズムをしっかり押さえて、ネイティブの発音に少しでも近づけるように少しずつ練習してください。必ず上達していきます!

 

 

■編集部のおすすめ

子音と母音の明示的な学習には、以下のYoutubeチャンネルとサイトがおすすめです。

・Rachel’s English

  https://www.youtube.com/@rachelsenglish 

・「英語発音入門 - English Pronunciation Practice for Japanese Learners -」

  http://kccn.konan-u.ac.jp/ilc/english/uk/frame.html

 

 


★編集部より★

英語学習に質問やお悩みのある方は、ぜひ横本先生にご質問をお寄せください。一人で考えて答えが出る悩みもあれば、悩み続けて時間が経ってしまうことも多いと思います。ご質問はこちらから。ぜひお気軽にお聞かせください!


英語お悩み相談室 質問受付フォーム 

バックナンバー

著者略歴

  1. 横本 勝也

    上智大学 言語教育研究センター 准教授
    カリフォルニア州立大学サクラメント校大学院 修了(MA in TESOL)
    ブリストル大学TESOL/Applied Linguistics博士課程修了 (教育学博士)
    専門は、第二言語習得、英語発音教育。
    著書に、『TOEIC TEST鉄板シーン攻略 文法・語彙』(Japan Times)、『究極の英語ディクテーション Vol. 1』(アルク)、『2カ月で攻略 TOEIC(R) L&Rテスト 730点! 残り日数逆算シリーズ』(共著、アルク)、などがある。

ジャンル

お知らせ

ランキング

閉じる