月代に光る14篇(25年10月)
秋が深まり、朝日出版社のある九段下周辺の木々も少しずつ色づいてきました。
今回は、ご投稿いただいた作品の中から14篇の作品を公開いたします。ぜひお手すきの際にご一読くださいませ。
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月代に光る14篇 ・あなたという自然に手をのばして ・尽きないで ・秘密 ・記憶 ・思い ・枕辺の写真 ・余白 ・果実と私 ・エスキース ・捻り出たもの ・四十過ぎの旦那の頭皮 ・「、」 ・キャベツと彷徨 ・MY BODY IS ON MY SIDE |
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あなたという自然に手をのばして 私は 青空をながめます
あなたの手をとり 抱きしめるかわりに 私はひとり 草原に立ち 青空をながめます
私の大切な光景の中に あなたはいないかもしれません
それでも
草原の みどりのきらめきの中に
青空の あおさのふかみの中に
何か とても大切なものが あるような気がするので
私は今日も 丘のうえへ のぼり たったひとり 草原に立ちます |
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尽きないで こはく
踊らずに済んだ午後に、 私はじっと、あなたの肩を見つめていた しずく、しずく。しずくの群れは、 私が見つめる限りどこへも行かない。 尽きないまなざしの奥で チャイムが鳴って やがて、 私はあなたへの矢印をはぐらかすために ため息を。
みんなが箒を取り出して、 私とあなたの周りを掃いてゆく 溢れそうなそれは、 かつて私たちが忘れることにしたひかり かもしれなくて だからどうしても願ってしまう
いつか 私たちが切り落としたリボンのはじっこ 扇風機の羽根からこぼれた埃 小さなボタンを繋ぎ止めていた糸くず
はぐれても、尽きないで あなたのほつれ目に、記憶よ 絡まらないで伝ってほしい |
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秘密 とし
ハゴロモガラスは知っている
リス君が埋めた金のどんぐりの在処を。 スズメ君とフィンチさんの忍ぶ恋、 モグラ夫婦の新しい寝室の壁の色も。
ハゴロモガラスは知っている
明日、雨が降ったら秋が来る事を。 遠い北国に住むクマ君が冬の間に見る長い夢、 春の風に溶けている千年に一度咲く小さな白い花の香りも。
ハゴロモガラスは知っている
あなたの知らないアナタノヒミツを。 |
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記憶 パラフレーズ。
目まぐるしく過ぎる日々に 謀殺される記憶の中に あの日も溶けているのだと 気づいてしまった夜に 風通しがよくなった心の 軽さが僕を焦らせる
いつかこんな夜が来ることは 知っていたし ここを目的地にしたのは僕だし 何も間違ってなんかない 間違ってなんかないんだ
それでも これほど早く着いてしまうなんて 誰も教えてくれなかったじゃないか
少しでも長くぬくもりの中にいたくて 触れていたくて 回り道をしたつもりでも ずっと下り坂だったから 思っていたよりもずっと速くて 思っていたよりもずっと寒かったんだ |
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「思い」 フクシアとも
人は様々な“思い”を抱き生きている 憎しみを抱き戦争する者 相手をいくしみの思いで愛する者 愛する人が亡くなり悲しいと言う思い 同じ人間同士なのに様々 戦争する者は 人を殺め心が傷つかないのか 同じ空の下色々な思いが 世界に人間達に蠢いている どれだけの”辛い思い“すれば地球上から戦争が無くなるのか ”強く思えば“そして願えは 犯罪も戦争も無くなる世界になるでしょう。 |
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枕辺の写真 倉橋謙介
遠い日の記憶の最低保証になったよ 思い出したいのは本当のぬくもり 僕は寒がりだから 夜は毛布一枚じゃ足りないのさ 波の音が遠ざかるにつれ 辿る道のりの足元は 大分おぼつかなくなったけど この先でまた あの日の君に会えると思うだけで いつも朝までよく眠れるんだ |
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余白 草笛螢夢
余白が溢れる文字に押しやられ 原稿用紙の中に収まらず彷徨っている
真っ白な余白の中で私の感情が映し出され 感情と欲望の醜さがペンに何かを訴え 生物の営みの息吹と生死の弱肉強食 そして 地上で起こりうる 天変地異の現象を波打って止めど無く 胸に鼓動を感じさせペンの行き先を掻き立てる
本当は 穏やかで透明なこの海岸の 波間のすれすれに寝ころび潮騒の音を聞いた跡 思い溜めていた事を書き進め様と思っていた
しかし 文字を書く者の習性なのか 今朝 聴いたニュースの話に 思いを馳せて 何故か 自分の思いを書き残したいという感情が 勝手にペンを握り書き始めていた |

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果実と私 筒路なみ
私は想像する このあと雨が上がって、大きな虹が架かる未来 私は想像する 舞い上がる埃とチョークの粉、それらの行き先
私は想像する 世界を想像する 触れやすいところに触れ 柔いところだけを喰んで あとは見ないふりをする
世界は果実だ あなたは可食部だ 最後には、心に似た形の 硬い種が残るばかりだ
私は想像する 花壇の隅の、小さな芽が あなたの愛から芽生えるということ |
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エスキース 南野すみれ 電柱が見えたら その先の 青い屋根
今日はまっすぐに行く 滑るように手が動く 二階の窓が開いて 風が 白いカーテンを 孕ませているに違いない
やっぱり駄目だ 青い屋根も 二階の窓も 描けるのに 君への道は いつも 途中で 消える
三年を二周した時間は 紫から灰色に 塗り重ねた、のに 隙間の 紫を探している まだ
描いて、破った 描いて、捨てた |
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EXPO 2025 南野すみれ
大屋根リング脇のジニアが 雨を待っている くたびれた靴は 乾いた音をたてて 周っている
残暑のど真ん中 薄雲が広場を覆いつくして 正午過ぎ、 待っている 群れ、 あそこにも、群れ 人、人、人に囲まれては 藤沢周平を開く気になれない 酸素不足の 目と心 耳だけが カナダ館のライブに 踊る
短! それが理由で選んだ 先に ネパールのビリヤニ 黄色い米が 舌を 射す
人、人、人、 夕方のニュースはきっと 万博は大盛況と 誰か 笑顔を向けて! |
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捻り出したもの 棒ノ折 山田
短い昼休みに携帯を開くと、 悲しい知らせが届いていた。 俺はほとんどヤケクソになった。
思い出せる限りの楽しかったことを、 思い出せる限りの悲しかったことを、 思い出せる限りの美しかったことを、 思い出す。
俺はトイレットペーパーに破れかぶれに書き殴った。 惨めにも美しい言葉たちは、愛おしくも痛々しかった。
無造作に引きちぎって、 ほとんど麻痺したケツを浮かせる。 糞を拭い去ってレバーを倒すと、 それはシュルシュルと流れて消えた。
今ではどこかの浄水場で、 他の糞と混ざりあって海に帰ったことだろう。
俺ができたことはそれしかなかった。 |
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四十過ぎの旦那の頭皮 無私無中
脂ぎった頭皮 細切れのフィルム あなたと過ごした時間は 私だけが求める糞
ああ、なんで美しいのかしら 鼻の奥に潜むピラニアは いつまでも私の脳みそを噛みちぎる |

世話人たちの講評
千石英世より
あなたという自然に手をのばして
本作の核心は、ストーリの核もテーマの核も、モチーフの核も全て「あなたのそばに 寄りそうかわりに」にあるとおもいました。とりわけ「かわりに」にが光っています。その光の下に各連がきれいにならんで進んでいく詩です。せつなくてきれいな恋歌になっているとおもいます。そう申し上げたうえで、実験的に、失礼を顧みず申し上げるのですが、その核心を抜き取ってみたらどうなるか。一番光っている部分を抜き取ってしまう。これは、冒険ですし、乱暴でつらい実験ですが、そこをあえて隠してしまう。削除する。恋歌を越えるものが出現するような気がします。
尽きないで
全4連からなる詩です。ことばのながれがきれいです。そのながれをストレートにしたら、どうなるか。つまり、「みんなが箒を取り出して」から始まる第2連は、視野をぐっと広げようとする試みですが、別言すれば、ストーリーを迂回させようという試みであり、迂回せず、まっすぐに、直に、バーンと目的地に行ってしまうのも恋の醍醐味とおもうのですが。
秘密
童話のような進行。いいですね。登場キャラはよく知られた現実物であるものに「くん」がついている仕掛けでその進行になっているわけですね。だから「ハゴロモカラス」が生きてくる。そんな鴉が我々の周囲に実在する、しないに関わらず。ならば「アナタノヒミツ」はたとえば植物名であってほしい、動物名であってほしい、地名であってほしい、料理名であってほしい、、、といった即物性へ寄せてみるのも方法かもしれないとおもいました。
記憶
全4連の詩ですが、3連目以後素晴らしい。ストレートな叫びになっているとおもいます。1連目はそれらをまとめた感じ。あるいはイントロの感じ。だから大事は大事なのですが、詩は叫びでいいのではないでしょうか!
思い
同感です。一点、漢字と仮名の配分を考えてみると、また行分けのあり方を考えてみると、同じコトバ、同じ文章が別の表情をみせることがあるとおもいます。思いは表情にでることもあるのではないでしょうか。
枕辺の写真
素晴らしいエレジーです。哀歌です。ここにいわれる「君」はなんと仕合わせな「君」でしょうか。
そして「僕」も! 浄福の夜。一夜の浄福。
余白
その思い、伝わってきます。全4連の詩。連構成を考えなおしてみるのも方法かとおもいました。
思いがわきでる順序です。すると思いが走り出す! 湧きあがり渦を巻く! 逆巻く思い!
果実と私
全4連の詩。2ち3の連がいいですね。具体性があって。即物性があって。4連目はまとめであって、まとめない方が面白い詩になるかなと。タイトルもいいですね。
エスキース
せつない恋の歌。最後のリフレーンがいいですね。恋の道の厳しさが伝わってきます。
捻り出たもの
「それはシュルシュルと流れて消えた」で終わらせるとは考えなかったのでしょうか。
その先は知らん! と。読者が勝手に考えろ! と。それくらいの激情が伝わってきています。
四十過ぎの旦那の頭皮
「米」プラス「田」プラス「共」=「愛」にみえてきます。
「、」
良い詩だと思います。「書いた詩が教科書に載るような詩人になることを」の素直といえばあまりにも素直な1行が強烈でした。広い意味で詩人論になっていると思います。
われわれは詩人といえば、そういう詩人しか知らないということでもあるわけですが、知らされていないということかもしれない。人類3千年の歴史のなかで詩とはどれだけ書かれ歌われてきたのか、地面のしたで歌っている詩人も存在するということも気にならないでいるわけです。世にいう詩だけが詩ではないということを知っていながら、ですね。
キャベツと彷徨
「キャベツ」であることの理由が伝わってきませんが、わかるような進行になっている気がします。「キャベツ」そして「心配して鳥たちは囁く」ここ凄い。ここに詩があるとおもいました。
MY BODY IS ON MY SIDE
詩想全体、面白いです。下から2行目はいらないんじゃないかな?
まとめたら面白さが半減しそう。いいっぱなしのパワーというのも
あるんじゃないかな?
平石貴樹より
あなたという自然に手をのばして
つまり「あなた」より自然のほうが大切なのかな?
尽きないで
すみません、私にはわかりません。
秘密
「ハゴロモガラス」が秘密なのでしょうか。
記憶
時の無慈悲な癒し、ということでしょうか。
思い
最終行は楽観的かも。
枕辺の写真
思い出頼りに生きるのですね。
余白
それ、はたして「文字を書く者の習性」なのでしょうか。
果実と私
後半をくわしく聞きたい感じです。
エスキース
いわゆる片思い、でしょうか。
捻り出たもの
「ヤケクソ」が伏線になっていてちょっと変ですか。
四十過ぎの旦那の頭皮
そこまで言いますか(笑)。
「、」
見渡せば、諦めながら継続する人はたくさんいますよね?
キャベツと彷徨
なんかいさぎよくて好きな詩です。
MY BODY IS ON MY SIDE
最終2行、納得できます。
渡辺信二より
あなたという自然に手をのばして
「あなた」と「自然」の関係が不明なので、ちょっと、理解が行き届かない。例えば、タイトルによれば、「あなた」は、「自然」なのではないか? だとすれば、しかし、「私の大切な光景の中に/あなたはいないかもしれません」という2行は、よくわからない。また、「手をのばして」いるのは、詩の中で言うと、どの辺りでだろうか。
尽きないで
良い視線が、良い言葉を選んでいる。ただ、なぜかどこかで言い淀んだり、指示語に頼ったりするので、かえって、書き手の思いを知ることができない。本当に伝えたいのなら、ちゃんと伝えてほしい。伝えたくないなら、伝えないで。
秘密
「秘密」ですね。なぜ、「ハゴロモガラス」なのか、とか、「フィンチさん」なのかとか、作者の密かな秘め事でしょう。
記憶
<謀殺される記憶>とは、面白い表現です。なぜ、「これほど早く着いてしまう」のだろうか。
思い
素直な思いが言葉として溢れ出ている。文字間のアキの取り方に、工夫が必要かも。
枕辺の写真
よくまとまっている作品です。
余白
余白ですか。「余白が溢れる文字」という言い方に、書き手は、思いを込めているのだと推察するけれど、直ぐには、ちょっとよくわからない。「書き始め」るまでの経緯も大事ですが、「思い溜めていた事」や「自分の思い」の方も知りたいものです。なお、「跡」は、「後』か?
果実と私
作者には多分、世界と果実との壮大な構図があるのでしょう。ただ、「可食部」である「あなた」と「私」との関係が、よく捉えられない。
エスキース
「君への道」が「いつも/途中で/消える」理由はなんなのでしょうか。それとも、実は「消える」のを望んでいるのか?
捻り出たもの
「惨めにも美しい言葉たち」も読んでみたいものです。
四十過ぎの旦那の頭皮
「フィルム」や「ピラニア」など、考え込む比喩が多い。比喩なのですよね?
「、」
継続は力です。焦らず、無理せず、でも、諦めず。
キャベツと彷徨
「キャベツ」が生きています。ですので、タイトルの「彷徨い」も生かすか、むしろ、タイトルからは外すか、考えどころでしょう。
MY BODY IS ON MY SIDE
ノっている感じが、よく伝わります
あさひてらすの詩のてらすでは、
みなさんの作品のご投稿をお待ちしております。
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