春の隣に佇む12篇(26年1月)
公開が遅くなってしまいましたが、今回はいただいた投稿作品の中から1月分の12篇と2月分の13篇をお届けいたします。
こちらは1月分12篇となります。ぜひご一読ください。
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春の隣に佇む12篇 ・消しゴム ・アップデート ・使命を笑み ・約束 ・春になっても ・希望 ・新年 ・向こうが透けるうた ・私の私を探しています ・A Five Years Old Girl ・I'M NOT A LOOSER ・ひとり |
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消しゴム 倉橋謙介
数学の授業中 消しゴムを拾ってくれた 見上げた君の視線は きっと光よりも早くて ハートを貫かれたまま 過去に置き去りにされてしまった僕は 恋の予感の余韻に浸りきって 好きになっていることくらい 今では 先にわかっていた気すらしている 消しゴムの上を 虚数やらベクトルやらが 通り過ぎていく |
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アップデート(更新) 草笛螢夢
常に時代は変化と生き易さを求め続け その流行りの波や情報の洪水に 押し流されまいとして 日々抗っている
一人で暮らしで 陽が西に落ち ポツリと残された気分になる時がある 暗い闇夜程 怖いものはないと いったい私は 何に怯えているのだろう ここにいつも待っているからと 道案内人が 近くに居てくれるのなら有難い
今の私は 暗い闇夜でも 自分の歩幅で進み続けられるのなら 自分を信じ 私を成長させてくれる事を期待している
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使命を笑み yasui
一年に一度の、どうしても誰にも言えない秘密がある。 疼きや喜び、果てない痛みを思い出す。 痛みより奥に感覚の記憶が残っている。 真赤な他人の似た者同士。 友情よりも軽薄な愛情。 扉をノックするように、分厚い内壁に訴える。 ドロっとした笑みを鎮めきれず。 指先を示して、伝わらない愚鈍を呆れる。 影からほくそ笑むチビの頰を打つ。 好奇の目を頼りにする、いやしい数奇な使命。 終いに誰も気にかけない、役立たず。 18度目の丑三つ刻。 |
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約束 南野 すみれ
約束は 夏の夕暮れ 黄色いボールを追っていた
空を見上げて 君と 約束をした ラケット越しの返事 コートの上 汗が飛び 夕陽が雨粒のように はじけていた もうすぐ星がでる
二十年ぶりの電話は 時間を圧縮 あの日が昨日になる 続いている声が 時間を ほどく
覚えてる?
君が 想像もできない未来に 躊躇いもなく Yes、と 三百年後の天体ショー 一緒に観る Yes、と |
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春になっても 倉橋健介
しもやけ あったかくしてね そう小気味良く言いながら君は 僕の右肩に積もった雪を払うと 停車したバスの歩道側に座り 駅に向かうよう指で促した 僕が一度頷いてから 衛兵さんみたいにしていると それを見た君が笑う あれから春が何回か来て すっかり忘れたつもりでいても しもやけたままの冷たい両手に 僕はいつも呼び戻されている |
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希望 ヒンヤ
こんなに悲しい時代の中に 涙する位大きな希望が見える
派手な佇まいではなく 流行りを追うでもなく
ただひたむきに丁寧に うつむき加減な横顔が 自信に満ち溢れている
自分勝手な向きではなく 佇む静けさが醸し出されている
私には夢か現実かなんて語れない
ただその光を感じて微笑むだけ
希望とはそういう物であろう
形なく偽りなく感じ取る物であり 静かに私の耳に囁きかけるのだ |
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新年 とし
福の神がやって来る 新しい年に皆が幸せになるように
あの人には「健康」を この人には「金運」を あちらには「良縁」を こちらには「子宝」を
そして これはと見込んだ人には「試練」を 新しい何かを掴むため 今迄の自分の殻を突き破れ! 「試練」の裏側に愛情を添えて 福の神がやって来る 新しい年が笑顔に満ちた一年となるように |
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向こうが透けるうた 筒路なみ
“気に病んでいて味がしない” という事象が頭にこびりついていて 明日の、ただ味が薄いだけのおむすびを 愛と呼んでやれるかが不明瞭だ
大は小を兼ねると言って それでも味が濃いと吐き気があって はっきりしている方がいいと言って どうして透明が美しいのか
あの人の増悪に あの人の狂愛に 私の嫉妬心に 私の涙に
ささやかという言葉よ、似合え |
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私の私を探しています 無名
霜が降る頃、きっと凍てついてしまったのだ。私の鏡は 凛と張り付いた、厳かな化粧鏡。心を照らす、シンボルとして 私は寒さにうずくまるとき、寒さが身に染む。そして、憎しみが脳に凍てつく 私は私を封して殺してしまうのではないかと、戸惑いをときに隠せない 弱さに私の私が折れるとき、涙を枯らし穏やかの花を埋めなおす ダウンタウンで笑える頃に、私は戻って泣いて笑うだろう 私は私の笑顔を知らない。鏡に写る私を私はとうに知らない 暗い夜、ネオンの年の明けた最後に私は私にさようならと言ったのだ 頼りなく、調べなく 布団に敷いたミンクの温もりに、並べた片割れの臓物をくるめてあたためるだけなのだ |
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A Five Years Old Girl 七海独
彼女の世界は止まっている。 彼女はずっと、五歳の少女。 毎晩月を眺めて、 空を翔ぶことを夢見ている、五歳の少女。 時計は消えて、 音も消えて、 彼女と月だけが存在している。 夜はブランケット。 そして、彼女を温める暖炉。 彼女には、どんな記憶も要らない。 どんな悪夢も灰になって散る。 彼女は永遠に、五歳の少女。 月に愛され、月を愛する少女。 誰も彼女の、病的な理想には触れられない。 それに触れられるのは、 月だけ。 月だけが、 彼女の心に触れられる、 彼女の心を孤独で満たせる。
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I'M NOT A LOOSER 鏡ミラー文志
ダサい格好で学校へ行く 太った体でその実、虚弱 気弱な心に気弱な態度 俺は負けてない ただちょっと、人見知りなだけさ 漫画に熱中 学校遅刻気味 いじめ仲間外れ それでも夢見て、音楽集中 俺は負けてない ただちょっと、学校に不登校になっただけさ 幼少期から続いた、病気の長男からの家庭内暴力 長男病気治らず 親も、遂には兄の味方 夜中に叫ぶ 暴力に抵抗しパソコン壊し、精神病院 俺は負けてない ただちょっと味方がつかなかっただけさ 養護学校入学 ブスの女に田舎っぺい男達 恋人出来ず 俺は負けてない ただちょっと、月に見放されてただけさ そのまま、プラプラ 病院とデイケア 作業所を行ったり来たり 平和な日本で饅頭食らい 図書館本読み、パソコン眺め 歌も書き、賞も取り、まあまあ褒められて 周りの様子をキョロキョロ見渡し 俺は負けてない ただちょっと、就職出来ずにいるだけさ |
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ひとり ヒンヤ
私ひとり この部屋でひとり
音なく気配なく 息すらひとり
ヨレヨレの指でつぐむ塩の吹いた繊維の束
もう私に直向きさなんかない
ベッドに放り出した細い指を見つめれば 冬の寒い日々が散りばめられている
鼓動は波打たず記憶は薄れてゆくだけ
ただ思うことがあるのなら 上肢が天に放り出されそうで その時少しの光が見え隠れする
それが希望とは思えないけれども 指先のタッピングで君に伝わるだろうか
決して油断はしてなかったのに 昨日の夢に内包されたのだろうか
つねに頭にはあったのに 魂はいとも簡単にすり抜けていく
私ひとり この部屋でひとり |

世話人たちの講評
平石貴樹より
消しゴム
好きになるとは、先にわかっていた気がするものなのですね。いい発見でした。
アップデート
第1連は必要なのでしょうか?
使命を笑み
なにか苛烈な感じがします。
約束
二十年ぶりの電話でたちまち「あの日が昨日になる」なんてこと、あります?
春になっても
自然でとてもいい感じですね。
希望
納得できます。すると2行目の「大きな」が邪魔かも。
新年
「試練」について、なんか納得できます。
向こうが透けるうた
感情はしばしば適度を知らないですからね。
私の私を探しています
自分で殺したのに、探しているのですね。そういうことあると思います。
A Five Years Old Girl
タイトルは"A Five Year Old Girl"になるはずです。
I'M NOT A LOOSER
タイトルは"I'M NOT A LOSER"になるはずです。
ひとり
病床に伏したイメージでしょうか。
渡辺信二より
消しゴム
最後の3行がいいです。
アップデート(更新)
14行詩になっています。「日々抗っている」様子も具体的に、但し、詩的に分かるといいかもしれません。
使命を笑み
最終行、最も陰気が強まる深夜「丑三つ刻」が18回も巡るとは、あるいは深い苦悩のようなものが繰り返されているのでしょうか。タイトルの<笑み>、および、2行目の「喜び」が気になる。
約束
「二十年ぶりの電話」と「三百年後の天体ショー」との関係が、作者にはわかっているのでしょう。「君」の実体が読者に示唆されていると、より理解が深まる。
春になっても
雪国の「きみ」との別れの場面、上手にエピソードとして示しています。
希望
「希望」への静かだが、確かな確信が伝わってきます。14行構成ですがが、14行詩をあまり意識していないでしょう。
新年
<これはと見込んだ人には「試練」を>ですか。面白い。
向こうが透けるうた
作者の意図は明確です。 しかし、第1~2連から、第3連、および、第4連にうまくつながるだろうか、ちょっと判断が難しいところです。
私の私を探しています
かなり、深刻な心理状況が表現されています。<私は私にさようならと言った>(8行目)のに、なぜ、<私の私を探しています>(タイトル)のか、その理由が詩的に分かるようになっているとありがたい。
A Five Years Old Girl
幻想的な作品となるでしょう。英語タイトルのみを、本文が日本語表記である作品につけるのは、何か作者だけの隠された意図があると見る。
I'M NOT A LOOSER
この作品も、英語タイトルのみを、本文が日本語表記である作品につけていますが、何か作者だけの隠された意図があるのでしょう。繰り返される「ただちょっと」に、作者の万感の思いが込められています。
ひとり
<少しの光が見え隠れする>ことを安易に「希望」としない抑制力や、<指先のタッピング>に託す<君>への通信など、目を見張る箇所がある。この作品の設定や背景、隠されている人間関係やモチーフへの示唆がもう少し表現されていれば、さらに作品として深みを増す可能性がある。
※今回、千石英世氏のコメントは休載となります。ご了承ください。
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