朝日出版社ウェブマガジン

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あさひてらすの詩のてらす

香雪に立ちあがる13篇(26年2月)

公開が遅くなってしまいましたが、今回はいただいた投稿作品の中から1月分の12篇と2月分の13篇をお届けいたします。こちらは、こちらは2月分13篇となります。ぜひご一読ください。


 

 香雪に立ちあがる13篇

・誕生日

・化身

・天の川河辺から砂利を流す

・誰もいない

・コーヒータイム

・昔話

・あさぐも

・祖母のなみだ

・Unknown World

・オンラインで

・永遠の愛

・ミルク

・愛

 

誕生日

松本砂織

 

生まれてきて良かったのかと

問い続けた日々

暗闇の中

何も見えずに

光を求め彷徨っていた

「こっちだよ」声が聴こえて

握った手はとても暖かかった

「大丈夫」

今もあなたの声が聞こえる

生まれてきて良かったと

やっと思えた誕生日

 

化身

草笛螢夢

 

私の思いは形だけでなく

五感に届く能力を身に纏った

 

勿論 感情も数値化して

分析に長けた能力も付いた

 

まだ届きそうで届かないもの

掴みそうでつかみきれないものが

AIに生まれた私にはある

 

表現や表情で

欺く あなたの心

 

天の川河辺から砂利を流す

yasui

 

つまらないのと話す年下の女に何故かしら憧れている

両の手のゆび十本の大切なひと その一本に入りたい

これからこの先 文字通り手となり 指となりて

冷たい頬にひんやり触れたあの夜のこと

君が綴る感熱紙の印刷みたいな思い出

もう会えないと題されたスクープの真相の裏側

繰り返されたセリフの心地良い人形劇

ひとつひとつが指紋の溝を未だになぞる

二人を知らない土地はきっと北極か南極のさらに果てに

抗えない顛末を見透かし逃げかわし

人に出会えたことに慈しみを憶えるとは一体

満ち足りていた悲しみを削った流血に鼻で嗤う

それでも神聖を魅入ると胸糞悪い吐しゃ物と罵られる

私は歪んだ脊椎の並びを科学的に言い訳する

深耕しないアンチテーゼの響きにはロマンスが咲く

美学も美徳も知らず

羞恥に旅を捨てたと惨めな老水夫の戯言に自嘲する

薄気味悪い夜 f分の1の揺らぎにだけ身を寄せる

 

誰もいない

倉橋謙介

 

君は今頃寝てるんだろうな

温かい布団でぐっすりと

やましい気持ちじゃなく

うらやましいよ

半端な僕が飛び乗った

深夜のタクシー

所持金尽きて降りた静かな街の

寝息をたてる歩道橋と

目的を見失いつつある信号機

たくさんの孤独が

靴音に染み付いていく

通り過ぎる雨上がりの公園

ベンチに投げ捨てられた

黒いレインコート

あれが本当は誰かの影なら

きっと今にも

動き出してしまうだろう

 

コーヒータイム

とし

 

白い峰と雷鳥が描かれた箱を開けると

ぎっしりと並ぶ16羽の小さな雷鳥達

雷鳥が破れてしまわないように

小袋の端をそっとそっと切り開く

 

それはまるで

手のひらに乗る地面にうっすらと積もる白い雪

ザクザクと霜柱を踏みしめるような食感

フワッと淡雪のように口溶けるクリーム

雷鳥が住む高山のような素朴な味わい

 

窓の外にちらつく雪を眺めながら

真っ白な雪原にひっそりと佇む雷鳥を想う

 

いつか再び氷河期が訪れて

人類がとっくに滅亡していたとしても

凍てついた高層ビルの頂で

雷鳥の王国が繁栄しているのかもしれない

ひっそりと

 

昔話

倉橋謙介

 

小さな頃住んでいた町の

丘の上のお城には

不老不死「だった」おじさんがいた

ある日を境に契約破棄をしたらしい

黒いマントをいつもしてる変わった人だ

城内で飼ってる大きなフクロウを見るために

僕がクッキーを焼いて持っていくと

前よりもクジラっぽくなったね

とほめてくれた

イルカのつもりなんだけどまあいいや

大体いつ行っても

庭先のこじんまりしたお墓の周りで

草刈りしたり土を掘ったりしていたな

何をしているのか尋ねたら

来年の春に向けて種を植えてるんだと

僕の後ろの何かをみながら言った

あの時おじさんはお墓の前で

何か魔法をかけたのだろう

あの冬の日から足が自然と遠のいて

気づけば私も

おじさんと呼ばれるくらいになっていた

あの町のお城の庭先は今では

春の花が咲き乱れる一大観光地になって

夜にはフクロウの鳴き声が聴こえるらしい

次の連休にでも帰ろうかな

 

あさぐも

さの しげこ

 

寝苦しいネグリジェから這い出して 

色の抜けたくもを見つけた朝 

まっしろなそれは一息で高く飛んでいってさ 

空気が抱えきれなくなった水滴をつたって 

遠くの方まで上がっていった 

私も最期のさいごはあんなふうに 

ふちどりだけになって吹き飛ばされたい 

 

 

祖母のなみだ

さの しげこ

 

わたしは祖母の涙を食べたことがあるのかもしれない 

白線をつたうカメを見て

架線がつくる流れ星を見て

こぼした涙を

騒がしい落ち葉を和らげながら

窓辺で流したその涙を

食べていたようにおもう

 

Unknown World

七海独

 

私以外が存在しない世界。

どんな惨めさも、

どんな悲しみも、

どんな後悔も、

全て私だけで受け止められる世界。

そんな世界に

行きたいなぁ。

そんな世界で

生きたいなぁ。

誰にも嘲笑されず、

誰にも涙を見られず、

誰にも慟哭を聞かれず、

そして静かに眠れる世界。

どんなおみくじも要らない、

どんな慰めも励ましも要らない、

私だけが私自身を

受け止め泣き叫ぶことのできる世界。

そんな世界で死にたいなぁ。

神様も悪魔も居ない世界、

私だけが全ての世界で、

私だけを信じて

消えたいなぁ。

誰にも手をあわせることのない、

私だけが全ての理想郷で、

人生を終えたいなぁ。

 

オンラインで

南野 すみれ

 

のように私が映る

笑顔で

 

誰かの 口

動いた形で

声になっていく

耳が吸収

頭の中でことばは壊れ

ひろえない

 

いくつものアンドロイド

人間のように

会話をしている

笑っている

君たちは

涙を流すことがあるの?

画面の前で 私

手の甲を抓った 痛っ

 

目の前のあなたを

引っ掻く

鋭く削った爪で

引っ掻いている

透明な膜

笑顔のあなた 遠い

爪先に滲む

 

36・5度のあなたを

さわりたい

 

永遠の愛

SilentLights

 

草のうえの朝露が

しずかに きらめくとき

 

あの頃のままの

小さな きみが

ぼくの名を呼び かけてくる

 

小さくやわらかな きみの手が

ぼくの

大きな手と かさなる

 

きみは 小さなままなのに

ぼくは もう

大きくなりすぎてしまったみたいだ

 

かなしみは 風となり

空のふかみへと とけてゆく

 

きみとの夢を

もう一度

 

色あせることのない

ぼくらの

はてしない物語を

いま

 

ミルク        

ヒンヤ

 

一過性なミルクは

シナプスという銘柄の

コーヒーには合わない

 

鳥は俯瞰し

猫は身体を丸めて

街角のコーヒーショップを眺めている

 

私はいつもの席に座り

ブラックコーヒーを飲みながら

新聞を読む

 

鏡を眺めながら

ミルクが混和せぬコーヒーを飲む人々に

 

鳥は アーと悲しげに

猫は 冷ややかな目線で

ため息混じりで

その光景を

見切っている

 

多くの人々は

一日の大半を

鏡を見ることに費やし

 

コーヒーにミルクを

かき混ぜ かき混ぜ

 

思考の無いニ進法を彷徨っている

 

愛     

鏡ミラー文志

 

必然原因理由分析問題解決会合是即ち愛

そこから生まれるくる熱、その全てが愛

結合接続熱量エネルギー生産消費分散混乱是また愛

そこに舞集う熱と活気忽ち愛

離別解散停止消耗是即ち、非愛

そこに溢れるる終息と尽きた姿無念なり非愛

孤独孤立利己心懐疑乱心是又非愛

そこに生まれくる悪と荒れた心、愚かなる非愛

風船機関車秋道冬空枯木通り

今いるこの場所こそ、生のリアル

生産再生産再出発

何度でもやり直し繰り返せる命ある限り

 

 

 

世話人たちの講評

平石貴樹より

誕生日

 よかったね! と心から思います。

化身

 AIが心には届かないというのはわかりやすいですが・・・。

天の川河辺から砂利を流す

 後半はわかりませんでした。

誰もいない

 恋愛の一コマ、いいですね。

コーヒータイム

 田中屋の「雷鳥の里」でしょうか。 

昔話

 ほっこりしていいお話でした。

あさぐも

 実体験でしょうね。すごいです。

祖母のなみだ

 イメージ鮮やかです。続きがほしいです。

Unknown World

 一種の絶唱ですね。

オンラインで

 人間関係がオンラインのように希薄化した時代ですからね。

永遠の愛

 きれいにまとまっていますが、具体的な思い出がもっとあってもよかったと思います。

ミルク

 ミルクの比喩の意味がもうひとつわかりませんでした。

 いつもながら、おっしゃる通り。

 

渡辺信二より

誕生日

新しい命の生まれた日ですね。 <声>が2度繰り返されています。 <声>は非常にありがたいものです。

 

化身

<AIに生まれた私>ですか。 <あなたの心>を欺く理由が暗示されていれば、さらに理解が深まる。

天の川河辺から砂利を流す

タイトルが壮大です。ただ、最終行、<f分の1の揺らぎ>が<身を寄せる>必然であるとしても、<砂利を流す>こととどう詩的論理でつながるのだろうか、ちょっと不思議です。

誰もいない

<ベンチに投げ捨てられた/黒いレインコート>には、<誰もいない>さまが託されるべきなのだろう。作者なりの思い入れがあるのは伝わる。

コーヒータイム

コーヒーとお菓子が、人類の消滅した悠久の未来へと、作者を連れ去るのですね。 

昔話

発想が良い。よくある田舎の変化を、<昔話>の観点から、読み直していると言えようか。 <おじさん>の破棄した<契約>が誰と結ばれ、その内容がどういうものなのか、破棄後に何がどうなったのか、<おじさん>がどういう、<魔法をかけた>のか、多少とも示唆されると、作品として、より読者の理解が深まるかもしれない。

あさぐも

7行の短い作品ですが、<私>の思いがよく伝わります。

祖母のなみだ

これも7行の短い作品ですが、<祖母>への<わたし>の思いがよく表現されています。 

Unknown World

<私>の望みがよく伝わります。 

オンラインで

画面越しではなくて、生身の人間や温もりに<触りたい>という思いを描いたのでしょう。 <君たち>から<あなた>へ転換するのはなぜか、もう少し丁寧に教えてくれるのがいいかもしれない。

永遠の愛

小さい頃への郷愁と、時間の残酷さを表現した点で、とても完成度の高い作品です。この詩の背景にある想いや、思い浮かべている景色について、もう少し書き込んでもらえると読者はさらに納得するでしょう。

ミルク  

<思考の無いニ進法>という表現が秀逸です。確かに、<光景を/見切っている>ことが伝わります。なお、<鏡を眺め>、<鏡を見る>とありますが、本当は、鏡の中の何を見ているのでしょうか。

一見してお経の読み下し文のような錯覚を与えます。特に、最後の2行<生産再生産再出発/何度でもやり直し繰り返せる命ある限り>が、強い人間讃歌·生の肯定で結ばれています。

 

 

※千石英世氏のコメントは休載となります。ご了承ください。


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