朝日出版社ウェブマガジン

MENU

あさひてらすの詩のてらす

浮かれ猫も振り向く9篇の詩(26年3月)

掲載が遅くなりましたが、ご投稿いただいた作品の中から、3月分と4月分を公開いたします。

3月分は9篇となります。ぜひご一読ください。


 

 浮かれ猫も振り向く9篇の詩

・作り話

・目覚め

・生きている、生きていた

・水色の少女は草原をかける

・題名のない詩

・冬のある日

・ウヰスキーで喉を鳴らせば

・帰宅

・生き様

 

作り話

倉橋謙介

 

寡黙だと思っていた地下鉄が

淀んだ空気をバッと裂いて

御茶ノ水で一瞬地上に出る

雷雨後の夏の太陽の眩しさも

こうなると2割増しだね

聖橋にいる人達はスマホを遠くに向けて

熱心に何かを撮影している

もしかしたら

反対側の窓から

虹が見えるかもしれない

と、首を動かす間もなく

電車はまた地下に潜っていく

池袋まであと何駅かな

さっきより静かになったなあ

久しぶりに君に会ったら

車内が七色になるくらい

とんでもなく大きな虹が出ていたよって

まず話してみよう

 

 

目覚め

とし

 

ちぎって投げたような綿雲が

ぽっかりと浮かぶ青空の下

春一番にはまだ遠い東風が

びうびうと杉の梢を揺らしていく

 

春はまだか

春はまだか

春はまだか

 

待ちきれない木の芽達が

寒さに身を震わせながら

春を探して外の世界を覗き見る

 

春はまだか

春はまだか

春はまだか

 

土の中では無数の虫達が

暖かな日の光を待ちわびて

ざわざわと蠢いている

 

ようやく目を覚ました寝坊助の

ウッドチャックがのそのそと

名残惜しげに寝床を這い出し

遅い冬の終わりを告げる

 

昨日より少し高く上がったお日様と

水仙のお嬢さんが春の挨拶を交わす

世界は柔らかな日差しを浴び

喜びに満ちた風に包まれる

 

春が来たのだ!

 

生きている、生きていた

鏡ミラー文志

 

真冬の寒空の下、重い荷物抱えながら

郵便物を配る俺

生きている、生きていた

毎日スーパーで二年間

重い荷物抱えながら

品出し勤めを果たした俺

生きている、生きていた

仕事が見つからず路頭に迷い

創作と暇つぶしに明け暮れる俺

生きている、生きていた

毎日のように殴られ蹴られ

苛め嫌がらせ無視に耐えながらも

闇の中に目を向ける俺

生きている、生きていた

枯葉舞い、雪は降り、空気は冷んやり

輝きながら、また輝けぬままいたお前

生きている、生きていた

天からの視点、空からの視点、地を這う思考

鳥のように俯瞰しながら

ナメクジのようにたた、生き物として

生きている、生きていた

 

水色の少女は草原をかける

SilentLights

 

遠いあの日に きみと別れてから

いったい どれほどの歳月が流れたのだろう

 

もしも 今のきみに

めぐり会うことができたとしても

 

それは ぼくにとっては

重要なことではないのかもしれない

 

なぜなら

ぼくにとって 何よりも大切なのは

 

あの頃のきみ なのだから

 

遠い あの頃の

あの光

あの風の中の

 

とうめいなきみ なのだから

 

そう

きみは今も

 

ぼくの胸の中の草原を

誰よりも 遠くへ

裸足になって かけてゆく

 

題名のない詩

レイ

 

自分を信じる事を

怖がらないで

信じるって

強くなることじゃない

揺れながらでも

前を向こうとすること

何度迷っても

立ち止まっても

それでも今日まで

歩いてきた

傷ついた分だけ

疑ってしまうのは

弱さじゃない

ちゃんと守ろうとした証

だから

少しずつでいい

昨日より一歩

自分の味方でいよう

 

冬のある日

MT

 

冬の夜に塗られた黒は鮮やかで、道路の舗装工事が息をする。そんな夜に風に乗った雪の断片は黙ったまま。終わりと始まりはどちらが先か月光は嘲笑う。暗闇にカラスの泣き声が潜んでた。そして寒い朝は暗い白が不鮮明に始まり、きっと太陽も少し青く、夕焼けの月は欠けたまま、腕時計のあった場所には何もない。後どれくらい風は凪いでいるのだろうか。

 

ウヰスキーで喉を鳴らせば

yasui

 

雨の日続きには安いスコッチをたらふく空けよう 

立ち昇る灰の霧雨で教会がご満悦と河のせせらぎに眠れば 

路地の灯りのもと世界の友人達と暖まり

夜更けまで下卑た話を絵に描いて盛り上がろう

日の出にはハリーと急かすホロたちが 

たらふくのポタージュスープを

こぼし散らかし目覚めさせる 

 

奴らの醒めないネオンの色違いなおれたちは 

純粋な緑やくすんだ赤、くすぶる茶色をめかし込もう 

燃えたぎる太陽にトバリを打ち、そっと伏せて耳を澄ましていよう 

程よく褪せる日の出のアールが、きっとよく似合うカラーになるから  

ポラロイド越しに深紅のメロディーが染まる頃 

不揃いなタンゴでようやく歌い始めるんだ 

鍾乳洞で蓄積したしずくの涙で明日の渇きに備えよう 

歌い続けられる

 

未完

 

帰宅

南野 すみれ

 

一メートルの幼木だった

ハナミズキ

もう玄関の屋根を越えている

三輪車に乗っていた男の子

自転車で走り抜けた

二つ先の駅にある高校の制服だった

背中が遠ざかる

風が流れる

 

義父を看取る と

家族で移った夫の実家

街の隅の古い一軒家から

三人の子は巣立ち

夫は川を渡った

 

留守の家は放置され

荒れ果てていく

庭のハナミズキはその間(かん)

家人を知らず

道行く人を眺めていた

 

鍵を開ける

途端に吐き出た

他人行儀で

 

生き様

ヒンヤ

 

オレの生き様なんて

道端に転がってる

変哲も無い

一本のボールペンを

拾う事から

始まったんだ

 

拾わなけりゃ

多分今頃

普通の安定した生活に

くるまっていた

 

頭が割れそうな二日酔いの日も

内臓を吐き出しそうにヘマした日も

ボールペン一本で生き存えてきた

 

軍に詰め寄られた日もある

理不尽に殴られた日もある

 

それでも

何処でも

 

一本のボールペンで生き存えてきた

 

笑うがいい

安定した毎日が好きなら

 

捨てればいい

こんなヘタクソな詩など

 

オレは怠惰を選ばなかった

時代に流されなかった

 

それこそが生き様だと

今も思っている

 

死んだ魚の目で

生き存えたく無かったんだ

 

 

世話人たちの講評

平石貴樹より

作り話

 いいですね。タイトルはもっと素直でもよかったかも。

目覚め

 春はウッドチャックの宣言ーーかわいい童話ですね。

生きている、生きていた

 こうして書く「言葉」によって救われている作者をたしかに見出します。

永遠の少女は草原をかける

 きれいな抒情ですが、きれいすぎるかもしれません。

題名のない詩

堅実にして切実なつぶやきですね。

冬のある日

 荒涼たる風景、どこかに焦点がほしい気がします。

ウヰスキーで喉を鳴らせば

 時おり鋭い行が炸裂するのですが・・・。

帰宅

 実感ですね。お疲れさまです。

生き様

 力強いです。「ボールペン」とは「言葉」とか「詩」でしょうかね。

 

渡辺信二より

作り話

久しぶりに「君」と会う喜びがよく表現されています。地下鉄を擬人化していますが、「寡黙」であることがもう少し、生かされるといいでしょうか。

目覚め

春が来た喜びがよく出ています。「水仙のお嬢さん」という発想で表現するなら、その地平から作品全体を捉え直すと、また別の世界が広がるでしょう。

生きている、生きていた

「生きること」への万感の思いが伝わります。「輝きながら、また輝けぬままいたお前」とか、「鳥のように俯瞰しながら/ナメクジのようにたた」などは、もう一工夫あった方がいいように思う。

水色の少女は草原をかける

「きみ」への思いが強く表現されています。「水色の少女」と「とうめいなきみ」は、厳密に言えば、違うのかもしれない。

題名のない詩

自己激励ですね。「昨日より一歩/自分の味方でいよう」の「一歩」が新鮮ですが、この「一歩」は、表現として、もう少し活かせるような気がする。あと、タイトルも、内容に寄り添う方が良い。

冬のある日

冬の夜に演じられる色彩のドラマでしょうか。なお、「腕時計」がもう少し、全体に馴染むといいかも。 

ウヰスキーで喉を鳴らせば

「安いスコッチ」や「明日の渇き」といった生活感と、「世界の友人達」や太陽にトバリを打つ」などの壮大な表現が、よく対比されていて、面白い。最後の「未完」が不思議です。

帰宅

久々に帰宅して「気」を感じたのですか。それは、やはり、いいことでしょう。時間軸と設定をもう少し整理すると、背景がより明確に読者へ伝わるのでは? あるいは、明確には知って欲しくないのかも。 

生き様

「一本のボールペン」が「生き様」を変え、「生き様」を支えてきたというのは、なんとも、象徴的な、身につまされる話です。「オレの生き様なんて」と卑下する必要は、ありますまい。

 

※千石英世氏のコメントは休載となります。ご了承ください。


あさひてらすの詩のてらすでは、

みなさんの作品のご投稿をお待ちしております。 

 

投稿についての詳細はちらから。

下記のフォームからもご投稿いただけます!

作品投稿フォーム

 

バックナンバー

ジャンル

お知らせ

ランキング

閉じる