百千鳥のさえずる10篇(26年5月)
こちらも掲載が遅くなりましたが、ご投稿いただいた作品の中から、5月分を公開いたします。
今回は9篇、掲載いたします。ぜひご一読ください。
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百千鳥のさえずる10篇 ・ライ ・模索中 ・そういうこと ・ワンダフルワールド ・ありがたいこと ・振動 ・レストルーム ・青い瞳 ・夏の始まり ・値段 |
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ライ 平野絵美
「ただいま。ライ。」 いつものようにこっちを見てた 少し元気がなかった
トボトボとママのそばにやってきて にゃーとひと鳴きしてパタンと倒れた
青ざめた舌 脱力した身体 動かない心臓
一生懸命呼びかけた 必死に呼びかけた 涙が止まらなかった
さっきまで生きてたライ ふわっとお空に飛んでいった |
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模索中 草笛螢夢
何になりたかったのか? 歳を取り過ぎた老人が 自問自答を始めだした
年齢のせいにするのは卑怯じゃないか? 経験不足と言い分けは聞き飽きた 知識と人を捜し回ったのかと 問われても 言い返せない 不満や不安は 年を越す毎 億劫になったと言い訳が 一歩の踏み出しと 1本の綱渡りの度胸はあるのかと 問い直している
今の少しでも前進は 一体何が役に立つのかの問いより がむしゃらって云って 何でもかみついてたあの頃の気持ちを 取り戻すことが先のようだ |
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そういうこと 腰越 おん
そこに、立ってみて 足は地面を押し返している そして、一歩踏み出してみて あなたはどこへでも行けてしまう そのあと、見回してみて 何かを忘れていることに気づく ついでに、手を伸ばしてみて 触れているのは何もないはずのもの
最後に、そこに寝転がってみて 君が思う反対側に 鳥の目を持つ女が“あなた”を見た 存在はあまりにも大きいのに 簡単に消えてしまいそう
この世界は狭すぎる 風呂場の浴槽に顔を沈める 水が入ると所々が痛痒い それでも、塞がらない穴 多分、それ、君 |
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ワンダフルワールド yasui
あわよくばあと1センチ身を寄せて 願わくは髪を撫で抱きしめられたら 心からの想いは叶わないのだから 君に養われることを切に望む いつもそばにいて君はぼくを離さない ラインや電話もSNSなんていらない 5メートル先の君の帰りに玄関で待つ 抱擁だけで何もいらない そのまま眠りたいどれだけだらけていても毎日の散歩だけは譲らない 散歩広場でボールを投げられても取りに行かない たとえ訓練されたとしても君以外は探さない 君が編んだ怠惰の産物をきつく首輪にしてほしい 通じ合うのに他には何も必要がないから 抱き枕になってきつく苦しくてもぼくは眠らない 君のやすらぎはぼくの瞳にしか映らないからたとえ離れることがあっても別れは来ないと信じている 秋に映えるきなり色の花の木の下に眠らせていて 生まれかわってまた君を尋ねられるように 君にだけ分かるよう同じ瞳で見つめるから 君は必ずぼくの生まれかわりである事を信じてしまう そうしてずっと並んでいさせて きっとどこまでも歩んでいけるから |
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ありがたいこと 太田亞希
水洗お手洗いって 誰が開発してくれたんだろう ありがたいなあ 今年74歳になる母が幼い頃は 「ぼっとん便所だったよ。 うんちをすると汚物が跳ねるのが嫌でねぇ」 想像するだけで嫌だ 「旦那さんがぼっとん便所の汲み取りの仕事を しているっていう奥さんから聞いた話なんだけど、 旦那さん、身体に汚物の臭いが染み付いて、 お風呂に入っても臭いが取れないんだって」 それは大変だったことだろう 水洗お手洗いさん どうもありがとう お風呂場さんも キッチンさんも リビングさんも 寝室さんも 玄関さんも 我が家さんに 我が家にある物さんたちみんなに どうもありがとう 助かっています お世話になっています そう話しかけながら お掃除をする だんだん 無口になる 無心で掃除をする |
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振動 さの しげこ
フォスフェンを追いかけて眠れない夜 私がほしい言葉を 伝えにきて 草むらにしまっておいた糸電話を つたってみてもいいから
プールで踊ったディスコダンス ひたってみてもいいから
手を打ち返すラリーはもういいよ
嘘みたいなおとうさんにもぐりこんだあの日
注いだ水はぬけ落ちて 肩車なんてつるつる滑って楽しめない
石を七色っぽく並べたってだめだって コップの底にささやいて |

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レストルーム mt
レストルームのアートワークにはどれも柑橘の哀しみが滲んでる。 誰でもないそのブラックな視線はアノニマスで 埋められた雑草の夢。
観葉植物の幹についたスカーテッシュが僅かに優しさを連れていた。
便器を拭いて見上げた天井のファンが、埃とともに、 デオキシリボ核酸を振り撒いて 有史以前のフェイスラインを虹彩が少し変形させた。
ライトを消して残った残像が少し懐かしい。 そんなことがたまに、 ある |
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青い瞳 SilentLights
おはよう
あなたは いま 何をしていますか?
あなたの瞳には いま 何がうつっていますか?
あなたから 返事はなくても
あなたの心から 何か大切な知らせが 届くかもしれません
言葉ではなく
風のそよぎで 木々の葉音で
それを感じるために
私は 今日も 丘のうえから 青空をあおぎます
そして 風のゆくさきを 心に思いうかべます |
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夏の始まり とし
五月の薫風を顔に受け 新しい季節の訪れを知る
ナツガ クルノダ
ぽんぽんと開く朝顔の花のように 色とりどりに道に広がる日傘たち
ギラリと光る太陽の輝き 袖を捲り胸のボタンを一つ開ける
ナツガ キタノダ
夏と呼ぶにはまだ心もとない暑さと 春と呼ぶには身の置き場のない気怠さと
ハル ナツ ハル ナツ
行く春を惜しみつつ そっと風鈴の箱を開く夏の始まりの朝 |
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値段 七海独
〇円。 〇円。 〇円。
ずっと 〇円。
百円になったら、 終わり。
〇円。 〇円。 〇円。
今までもこれからも、 ずっと 〇円。
百円になることを望み、 それが叶えば、 終わり。 |
世話人たちの講評
平石貴樹より
ライ
死を悼むことは詩に近づきますよね。
模索中
「気持ちを取り戻すことが先」おっしゃる通りかと思います。
そういうこと
2連目まで、納得でした。
ワンダフルワールド
タイトルは「ワン!ダフル」ということでしたか。
ありがたいこと
おっしゃること、よくわかります。
振動
躍動する感性ですね。
レストルーム
なにか貴重な経験談なのでしょうか。
青い瞳
やさしい歌ですね。
夏の始まり
最後の1行がなんとも風流です。
値段
人生の比喩でしょうか。
渡辺信二より
ライ
猫の最期をうたう詩です。妙な感傷を感じさせないので、最終行の思いが読者の胸にすうっと入ってくるようだ。
模索中
歳を重ねてもなお、模索中、の葛藤が描かれています。8~12行、13~17行がそれぞれ、一文として読めて、なんとなく、言いたいことはわかるけれど、ちょっと、主語述語や、てにをはの接続をどう受け止めて良いか、苦労する。
そういうこと
空間拡大の意志が示され、身体感覚の再確認が行われて、「最後に」寝転がると、「鳥の目を持つ女」が出現します。この「鳥の目を持つ女」とは、神話的人物か、妖怪か、眼病(トリ目)の女性か、不明ですけれど、彼女の突然の出現と消滅は、読者の理解を超える。確かに、「この世界」が「風呂場」だったり、「浴槽」だったりすると、確かに「狭すぎ」ますね。
ワンダフルワールド
擬人化、というか、擬「犬」化というべきか、愛犬家の裏返しとしての犬の告白であり、最期の言葉でしょうか。時々長い行があるが、詩形にも留意されるとありがたい。
ありがたいこと
「ありがとう」と繰り返していたのに、「だんだん/無口になる」という変化が面白い。翻って、タイトルは、このままでいいだろうか、ちょっと、考える。
振動
言葉やイメージの連鎖が、波のように「振動」し、次々に揺れてゆく様を、詩人は、楽しんでいるようだ。もう少し、それぞれの言葉に踏みとどまってみると、読者もついていけるかも知れない。例えば、「フォスフェン」は、日本語としても詩語としても、まだまだ馴染みのない言葉だが、その光に焦点を当てれば、明暗や立体感、コントラスト、光の干渉現象など、「振動」のもとに、統一してみることもできるかも知れない。
レストルーム
生物学・歴史的な単語を第3連で、突然、出現させることで、目前の「レストルームのアートワーク」から、太古の記憶や宇宙的な規模へ飛躍させようとする試みか。タイトルを含めて、全11行と数えれば、その9行に外来語を含む。そういう時代、そういう文化状況なのでしょう。
青い瞳
「今日も/丘の上」にいる「私」と、遠く離れた「あなた」とが風や木々のそよぎでつながあろうとする。牧歌的で幻想的な確信でしょう。なお、「何か大切な知らせが届く」のを期待しているなら、「風のゆくさき」ではなくて風の吹きおこる源を気にするように思うが。
夏の始まり
温暖化が進む日本では、5月、今や確かに、このように夏が始まりますね。自然をうたうことは、大事なことです。
値段
生の苦しさを生活の息苦しさで表現しようとしたのか。百円が無限ループの一回りとは、分かるようで分からない。
※千石英世氏のコメントは休載となります。ご了承ください。
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