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日中いぶこみ百景

五官端正

中国の対外的な任務に携わる人,外交官やスポークスマンなど,格好いい人が多いと思わないか。これには,理由がある。外国との交渉に関わる人は,外国語大学を出るが,そこの入学資格に「五官端正」とあるのだ。目,鼻,耳,口,身が端正であること,外見に問題なし。早い話ハンサム,美人ということだ。これが入学資格なのだ。

 外国語大学に入るには,背丈にも制限がある。男性160センチ以上とかだ。彼ら彼女らは将来国を背負って立つ通訳になる,外交官になる。それを国のお金で養成するわけだから,見てくれもよくなくちゃ,そう考えている。そう考えて,文書にし資格にしてしまうところがすごい。日本なら「いわれなき差別だ」という声が聞こえてきそうだ。

  背が高いことは男の必須条件だ。特に北方では170センチ以下だと“半残废”と陰口をたたかれたりする。半分身体障害者というのだからひどい。求人欄などを見るとよく「男性身長170以上」などと書いてある。女性の場合は「五官端正」と明記する。求婚欄などにも背の高さ,美貌などを堂々と要求する。

 

  美しいこと,可愛いこと,セクシーなこと,スタイルがよいこと,背が高いこと,これらはプラスの資質であり,世を渡るうえでの武器である。武器は前面に押し出し,大いに活用すべきものと中国人は心得ている。また,手に入る武器ならば手に入れたい。ゆえに整形手術にも抵抗が少ない。親が親戚が高級幹部,などというのも武器である。だから恋愛でもまず親の職業を聞いたりする。

 最近の流行語に “颜值”yánzhíというのがある。「顔の価値」である。ズバリいうものである。智能指数というが,これは「顔指数」とでも言おうか。“卖萌”màiméngとは女の子が可愛さを武器に相手に迫ること。男性の店員には,これで値段を負けさせちゃう,サービスさせちゃうという。

 

 プラスの資質について述べたが,その反対のこともズバリ言う傾向がある。「身体障害者」のことを中国では曾て“残废人” cánfèirénと呼んだ。“废”(役立たず)とはひどい。今は“残疾人” cánjírénと言う。それでも“残”(一部欠けてる)の字は残った。この他日常の会話では“聋子” lóngzi,“瞎子” xiāzi,“哑巴” yǎba,“结巴” jiēba などと言う。それぞれ「耳が不自由な人」「目が不自由な人」などを指す。公的な場面では避けているようだが。

 

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著者略歴

  1. 相原 茂

    中国語コミュニケーション協会代表
    1948年生まれ。東京教育大学修士課程修了。中国語学,中国語教育専攻。80~82年,北京にて研修。
    明治大学助教授,お茶の水女子大学教授等を経て,現在中国語コミュニケーション協会代表としてTECCの普及に努める。
    NHKラジオ・テレビでも長年中国語講座を担当。編著書に,『はじめての中国語』(講談社現代新書)『雨がホワホワ』『ちくわを食う女』『中国語未知との遭遇』(ともに現代書館)『ときめきの上海』『発音の基礎から学ぶ中国語 新装版』(ともに朝日出版社)『「感謝」と「謝罪」はじめて聞く日中“異文化”の話』(講談社)『講談社中日辞典<第三版>』『講談社日中辞典』(講談社)など。

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