きまり文句
中国語には,きまり文句が多いような気がする。
こういう時には,こういう決まった表現を使うというケースだが,例えば,自分のカバンが,ちょっと眼を離した隙に消えてしまった。こういうときは,“不翼而飞”と言う。「羽もないのに,どこかへ飛んでいってしまった」の意味の四字熟語だ。モノが忽然と無くなった時は,まず必ずと言って良いほどこの四字句にお目にかかる。
あるいは,それまでうるさかったのに急にシーンと静まりかえる時があるが,それは“鸦雀无声”と言う。これもこういう場面ではよく使われる。カラスもスズメも,それまでのさえずりをやめて,急に静かになったという比喩である。
生徒の頃から,作文などでは,こういう場面では,この四字句を使えばぴったり,無駄なく,簡潔に,情況を表現できると指導を受ける。
こういう四字句は何千,何万とある。あるどころか,自分で創作してもよい。
例えば先ほどの“不翼而飞”,その形から,骨組みは“不〜而〜”が導き出せる。すると,以下のような表現が広く行われていることに気がつく。
不胫而走(脚がないのに話が広く伝わる)
不寒而栗(寒くないのにふるえる)
不劳而获(労せずして得る)
不欢而散(愉しまずしてお開きとなる)
不战而胜(戦わずして勝つ)
いずれも逆説のつながりであることがわかる。
他にも「読まずして知る」「食べずして腹満ち足れり」「期せずして一致する」などなど,自分で創作することもできる。
何時だったか,中国が日本のやり方は「火事場泥棒だ」と非難したことがあった。これは他人が困っているときに,これ幸いと其の隙に乗じてうま味をかっさらうことで,“趁火打劫”という。こういう場面では,この四字句と頭が動いてしまう。それを訳すと「火事場泥棒」という日本語ではとても外交用語とは言えないような乱暴な言葉になる。使ったほうは「これでぴったりだ,してやったりと思う。しかし,世界はびっくりする(だろう)。