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日中いぶこみ百景

何か用ですか?

中国人に電話する。「やあ,やあ,こんにちは,元気ですか」などと挨拶をする。

 と,いきなり「何か用ですか」と言われた。

 これにはちょっと驚く。

 久しぶりの電話にはちがいないが,それでも「何か用?」とはご挨拶だ。

 

 だが,ふと思った。中国語ではこういう応対は少しも不自然ではないし,よく教科書などでも次のようなやりとりを見かける。

 

A:喂,吃(もしもし,夕食は済んだ?)

B:吃了,有什么事儿?(済みましたが,何かご用ですか)

 

日本なら「どうしたの?」と聞くところ,中国ではズバリ「何の用か」と聞く。

 

 身近な中国人に“有什么事儿?”の意図するところを聞いてみた。

 

「いや,だって何か用事があるから電話してきたわけでしょ。久しぶりだったら,なおさら何か用事があるわけでしょう。それは自分から言いにくい事かもしれないから,こちらから問いかけてあげるわけです。すると<実は〜>と話しやすくなるわけでしょう。親切なつもりなんですよ。」

 

 昔中国に滞在していた時,よく電話することがあったが,電話が通じるや,向こうから“你是?”(お前は誰だ)と言われた。こちらはつい「お前こそ誰だ」と聞き返したくなったのを覚えている。日本では電話を受けた方が先ず名乗るだろう。

 しかし不思議なことに,受けたほうが,中国語で,

喂,我是相原。

と応える方式だと,なんだか「俺は相原だが,何だ」というような,どこか尊大で偉ぶっている感じになるのである。

 こういうのも,微妙な日中の違いだ。

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著者略歴

  1. 相原 茂

    中国語コミュニケーション協会代表
    1948年生まれ。東京教育大学修士課程修了。中国語学,中国語教育専攻。80~82年,北京にて研修。
    明治大学助教授,お茶の水女子大学教授等を経て,現在中国語コミュニケーション協会代表としてTECCの普及に努める。
    NHKラジオ・テレビでも長年中国語講座を担当。編著書に,『はじめての中国語』(講談社現代新書)『雨がホワホワ』『ちくわを食う女』『中国語未知との遭遇』(ともに現代書館)『ときめきの上海』『発音の基礎から学ぶ中国語 新装版』(ともに朝日出版社)『「感謝」と「謝罪」はじめて聞く日中“異文化”の話』(講談社)『講談社中日辞典<第三版>』『講談社日中辞典』(講談社)など。

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