まもなく入院します
中国語のテキストに「わたしはまもなく入院します」という意味の例文がでてきた。たぶん“就要~了”(まもなく〜する)の用法を教えるためのだろう。
我马上就要住院了。Wǒ mǎshàng jiù yào zhùyuàn le 。
これを見た中国人の教師は,“我”を“他”に変えたという。なぜだろう。当の彼女がいうには,たとえ例文にすぎないとはいえ“我马上就要住院了”を口にするのは気分がよくない。縁起でもないし,実生活でもこんなことは言わない。だから主語を“他”(彼)に変えた。
退院なら良いけど,入院はいやだ。それはたしかにそうだが,それでは会社などで「来週から私は入院しますので,1週間の休みをいただきます」などというときはどう言うのかと聞いてみた。そうしたら,「それでもはっきりとは言わない,適当に言葉をにごす。あるいは休暇をとる手続きを人にやってもらう」と言う。そこまでこだわるか!
日本よりも「言霊」の力に敏感ということだろうか。さらにたとえば,私たちは子供が外で遊んでいるときなど,「急に道路に飛び出すと車に轢かれるよ」とか,「駆けちゃダメ,転んで怪我するよ」などというが,こういう物言いも,ひどく気になるという。つまり「急に道路に飛び出してはダメ」とか「駆けちゃダメ」まではいいが,そのあとの「車に轢かれる」とか「怪我するよ」などというのは不吉で縁起でもない,そんなことを耳にするだけで気分がよくない,というのだ。親が我が子に向けて言うのさえためらわれる。だから赤の他人がこんなことを言おうものなら,なんだか「呪いの言葉」を浴びせられたようで,実に不愉快になるという。心の中で,「お前こそ車に轢かれてしまえ」と罵りたくなるという。
「呪いの言葉」とまで捉える感受性には驚かされる。