悪者は誰だ?
あれは何のコマーシャルだったのか。日本語ではよく言うセリフ:
「痛いの,痛いの,とんでいけー」
これを英語でも,同じように言っていた。
Pain, pain, go away.
子どもが「痛い,痛い」と泣きじゃくっているのをみて,お母さんがこう言って,痛いところをさすりながら,痛みを遠くに投げ捨てるしぐさをする。
体をさする「触覚」は「痛覚」よりも脳神経で優先されるため,実際にも痛みが和らぐという。
多分,痛み止めの薬のCMだったのだろう。それはともかく,日米酷似した表現が有ることは驚きだ。日本がまねたのか,英語がまねたのか。はたまた偶然の一致か。
このように,子どもが石につまづいて転び,痛みを訴えて泣いているとき,中国ではどう言うか。実はまったく違う行動をとる。
なんと,子どもが転倒したわけをさがし,犯人を特定するのである。それが石だったり,木の根だったり,土の盛り上がりだったりするわけだが,それにバツを与えるのだ。お母さんはそれらを手で打ち懲らしめながら,こう言う。
「この悪い石め,お前をぶってやる,えい,えい,みんなお前のせいだ!」
お母さんが,自分のために「悪者」を成敗してくれるのを見て,子どもはニコニコと笑顔になり泣き止む。
日本なら,よそ見をして転んだ自分が悪い。これから気をつけなさい,となるところ中国の子どもは,「自分が酷いめにあったのには犯人がいる」と思う。
それで思い出す事がある。ある時,講演を頼まれた。私はよくアシスタントとして中国人をお願いする事がある。発音してもらったり,ちょっと質問したりするためであるが,人気の女性タレントだと,場も華やいでよい。その時も人気の中国人女性をアシスタントとしてお願いした。
ところが,お願いした人気のAさんが体調不良のため出られなくなってしまった。急遽代わりの人をお願いした。
受講者には事前に事情を伝え,講演は何事もなく無事終了した。ところがこの話を聞いた中国人:「それはさぞ文句が出たでしょう」と言う。中国の常識だと必ずクレームがつくと言うのだ。受講者に理があり,非は主催者側にあるのだから。こういう場合,中国人はどこに責任があるかを考え,クレームをつける,という。私は「いや,聴衆は全員日本人の中国語学習者でしたから,特に謝れといった要求も,会費を割り引けという要求もありませんでした」と応えたが,これもまた「日中いぶこみ」かと後で思ったことであった。