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日中いぶこみ百景

察して譲る

中国でバスに乗ったことがある人はどのぐらいいるだろうか。観光バスではなくて,普通の市民が利用する路線バスである。

 混んでいて大変だ。昔は行列の習慣がなく,入り口めざして突撃していた。外国人はなかなか乗り込めなかった。乗れても車内はぎゅうぎゅう詰め。これで無事目的地で下りられるのか不安になる。

 すぐ下りられるようにと出口のあたりに陣取っていると,後ろから

  “下不下,不下换换”(下りるのか,下りないなら替われ)

と言われる。初めは何を言われているのか分からない。なにしろ外国人とは思っていないから,思い切りの早口だ。それを何回も繰り返される。

 そのうちようやく,俺は次下りるから位置チェンジしてくれという要求だとわかる。

 混んでいるせいもあるが,口ではっきり言う中国社会。日本のような後ろからの気配を感じて「察して譲る」は通じない。

 

乗り物と言えば,日本在住の中国人からはこんな話を聞いたことがある。

ホームで電車を待っていた。目の前に止まった電車に乗ろうとするとドアが開かず,「シュウセイイタシマス」のアナウンス。何だろうと思っていると,ドアが閉まったまま電車は再び動き出して、すぐに又止まった。停車位置が数十センチずれたのを「修正」したのだ。中国なら人のほうが動く。

 

これにかぎらず日本はこまかい。ゴミの捨て方一つとってもなかなか日本の弁別法には慣れないという。出してはいけないものを捨ててないか。周囲に気を配り,ピリピリしている。ストレスが溜まる。だから,お笑い番組が必要だ。それもバカバカしいのがいい。日中のお笑い芸の違いを考えてみると,すくなくとも二つある。

 日本の落語は伝統的な演目を語るのが基本だが,中国の“相声”は新しい時事ネタをやる。しかも2人でやることが多いから,日本の「お笑いトーク」に近い。要するに定番のレパートリーはない。これが一つ。

 もう一つは,どんな笑いでも「芸」の裏打ちがある。日本のそれは芸もなにもなく,ただ裸を見せたり,ひどいのになると相方の頭を平気でぶったりする。

相方をバカにして笑いをとることが少なからずある。中国ではこれは相手の面子をつぶすことになるので,さすがにやらないようだ。

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著者略歴

  1. 相原 茂

    中国語コミュニケーション協会代表
    1948年生まれ。東京教育大学修士課程修了。中国語学,中国語教育専攻。80~82年,北京にて研修。
    明治大学助教授,お茶の水女子大学教授等を経て,現在中国語コミュニケーション協会代表としてTECCの普及に努める。
    NHKラジオ・テレビでも長年中国語講座を担当。編著書に,『はじめての中国語』(講談社現代新書)『雨がホワホワ』『ちくわを食う女』『中国語未知との遭遇』(ともに現代書館)『ときめきの上海』『発音の基礎から学ぶ中国語 新装版』(ともに朝日出版社)『「感謝」と「謝罪」はじめて聞く日中“異文化”の話』(講談社)『講談社中日辞典<第三版>』『講談社日中辞典』(講談社)など。

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